806話 また路地裏の店
アシハナたちと別れた俺は、炎海の町を歩いていた。
ジェミナの植物園は町の端にあるらしいので、そこまで散歩がてら探索中である。
灰色の石と黒い石を組み合わせて作られた、重厚な雰囲気の街並みが続く。ただ、灰と黒を組み合わせたモザイク画や、チェック柄の壁や道が多くみられ、遊び心も感じさせた。
当然ながら鍛冶屋が多い。しかも、斧や棍棒などの重量級武器ばかりだ。石でできた物も多いんだが、性能はかなり高い。
溶岩の熱にも耐えるような特殊な石を加工して作っているようだ。
見た目は原始人の持つ手斧みたいなのに、攻撃力が200を超えているとか……。ネタ装備かと思いきや、普通に強い。
「ヒム? ヒム!」
「うん? どうしたヒムカ」
「ヒムー!」
大通りを歩いていると、ヒムカが何かに反応した。俺のローブをグイグイと引っ張り、細い路地を指さしている。
「あっちに何かあるのか?」
「ヒム!」
ヒムカが大きく頷く。
この展開はもしかして……。
ヒムカの後について路地に入ると、その先には小さな扉があった。やはり、普通じゃ見つけられない隠れた店だ。
かき氷機を買った雑貨屋さんも、そうだったのである。ここも期待しちゃっていいのか?
中に入ってみると、まあ普通に鍛冶屋だ。置いてある装備品は、表とちょっと違うかな? ラヴァメタルの剣や、ラヴァメタルの鎧など、ちょっと珍しい金属製品のお店らしい。
溶岩耐性が付いていることから、これが例の溶岩を渡る船の素材なのかな? このフィールドで溶岩耐性がある装備は貴重だが、重すぎるんだよなぁ。
まあ、うちの場合ヒムカがかなり耐性高いし、このフィールドでは主力として頑張ってもらいましょう。
「ヒム!」
「なんだ? 船の模型?」
ヒムカが店の奥に置いてある大型のショーケースに張り付き、中に置いてある船の模型をじっと見つめた。金持ちが通りかかって買ってくれるの待ってんの?
というか、指紋ベッタリついちゃうよ? 怒られない?
「ヒムー……」
「これが欲しいのか?」
「ヒム!」
そりゃあカッコいいけど……。メッチャ高いよ? 300万だってさ。払えるけど、模型に300万はさぁ……。
その隣なんて、500万もしてるぞ? 上の段には1000万や2000万のもある。
いや、これただの模型じゃないのか? 名前が、溶岩船・小型化付与ってなってる。
え? 小型化ってことは、それを解除したら大きくなるの?
お店のドワーフさんに話を聞いてみると、俺の想像通りだった。所持者の命令に従って、通常時と小型化時の2サイズに変化可能らしい。
「魔導機関付のボートだから、溶岩の川もあっという間に渡れるぜ? その分、耐久値の減少が抑えられるから、長く使えるしよ。2パーティまでなら500万のがおすすめだ!」
小型のボートみたいな外見だけど、2パーティも乗れるんなら実際は結構大きくなるらしい。
まあ、このフィールドを探索するためにはいずれ必要になるアイテムなんだし、買っておいてもいいかな?
「インベントリに入るんですよね?」
「おう! 旅人さんたちなら持ち運びできるぜ!」
店員さんのお薦めだし、500万の船を買っちゃうか。操作も簡単で、スキルとか必要ないみたいだし。
「ヒムー!」
「はいはい。好きなだけ見ていいから。でも、ここでデカくするなよ?」
「ヒム」
「ラー!」
「キキュ!」
アコラとリックも船にかぶり付き状態だ。男の子はこういうの好きだもんね。まあ、気持ちは分かる。俺も後で見せてもらおう。
「他に面白い物はないかね……」
「フム?」
「なんだこれ? 針金? いや、糸か」
ルフレが興味を示したのは、幾重にもまかれた金属製の糸だった。ラヴァリールという名前になっている。
「それは、溶岩の川でも耐えられる特別製の釣り糸だ。そいつと、そっちのルアーがあれば釣りができるぜ?」
「え? 釣りって……溶岩の川で?」
「おう。色々と釣り上げられるぞ? まあ、釣れるものはお楽しみだ」
「買います!」
溶岩の川で釣りとか、絶対面白いじゃん! どう考えてもファンタジー生物しか釣り上がらんし。というか、マグマニードルフィッシュ、ゲットできちゃうんじゃない?
船もあるし、これは釣りをしろと言っているようなもんだろう。
いやー、良い物が買えちゃったな! やっぱり路地裏の店は掘り出し物あるね!
ルンルン気分で再び街を歩いていくと、前方に目立つ施設が見えてきた。高い建物の向こうに、無数の樹木が生えている。
どう考えても、あそこが植物園で間違いないだろう。
「トリー!」
「キキュー!」
オレアとリックが駆け出す。石ばかりの町の中で、植物を見つけて嬉しくなっちゃったらしい。
「ちょ、待てって! 速い速い!」
「フマー!」
「フムー!」
「ヒムー!」
モンスたちが俺を追い抜いていく。みんな速いよ! ていうか、置いていかないで!
「ラー!」
「一緒にいてくれるのはお前だけだよアコラ」
「ラ? ララ!」
ああ、走るのめんどいだけね。はいはい、みんなのこと追いかけるから、頭ペシペシ叩かないで!
お知らせ
利き腕を痛めてしまい、執筆が全く進まない状況になってしまいました。
書籍化作業や、転剣のアニメ第2期、他メディア展開の監修作業にも遅れが出ており、なろうでの連載にまで手が回りません。
書き溜め分が尽きた時点で、更新を停止という形になってしまいそうです。
また、それを少しでも先延ばしにするため、しばらくは更新を週1とさせていただきます。
楽しみにしていてくれた読者様には大変申し訳ありません。




