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81話 村を散策

 カイエンお爺さんの家に泊めてもらえることが決まった俺たちは、一度村を巡ってみることにした。


「いってらっしゃい」


 カイエンさんに見送られ、家を出る。


 木造の家屋に、舗装されていない剥き出しの地面。通路の左右には畑や牧草地が広がり、本当に長閑な田舎の村と言う雰囲気である。


「どっかに雑貨屋とかないか? みんなも探してくれよ?」

「ム!」

「キュ!」

「クマ!」

「――♪」


 皆が俺の言葉にビシッと敬礼する。スキップしながら、本当に楽しそうだ。


 オルトとクママが俺と手を繋ぎ、サクラは後ろからついてくる。リックはサクラの肩に乗っていた。


 イベント中は皆と一緒にいる時間を増やせそうだな。それだけでもイベントに参加した甲斐があったというものだ。


「ムム!」

「お、雑貨屋発見したか?」

「ムー!」

「クマー!」


 オルトたちが俺の手をグイグイ引いて案内したのは、一軒の小さい商店だった。外観がほとんど普通の民家だ。自分だけで探していたら見逃していたかもしれない。


 入り口の扉を開けて中に入ると、こじんまりとした雑貨屋だった。野菜や農具、武具まで置いてある。


「いらっしゃい」


 店番は気難しそうな顔をした、痩せ型猫背のおばあさんだった。あれだ、ステラおばさんと正反対の印象? ウダウダしてる客に「邪魔だからさっさと買って帰れ!」とか言っちゃいそうなタイプだ。


「種や苗木を見せてもらえます?」

「こっちだね」


 良かった。ぶっきらぼうだけど、普通に対応してくれた。


 でも、売っている物に目新しい商品はないな。薬草や毒草、青どんぐりなどの苗木。あとはバジルルなどのハーブ類だ。


 もしかしたら始まりの町じゃ売ってないアイテムが手に入ると思ったんだけどな……。


 ただ、野菜には見たことのない品種が幾つか並んでいた。NPCショップの商品なので株分はできないが、とりあえずいくつか買ってみよう。料理に使えるかもしれないし。


 白トマトと群青ナスを5つずつ購入した。ゲームの中でトマトとナスは初めて見たな。色々な方法で食べられそうだ。


 さて、他の店を探すか。あと、ギルドの場所を聞いてみようかな。他の店が無いかと尋ねるのは言外に、この店じゃ品揃えが悪いって言っているようで聞きづらい。


 ただ、ギルドの場所なら教えてくれるんじゃなかろうか? 一応商品も買ったし。


「あの、この村って、ギルドありますかね?」

「ギルド?」

「ええ、農業ギルドか獣魔ギルドがあったら嬉しいんですけど」

「ふん、こんな小さな村にそんな何種類もギルドがあるわけないじゃないか。小さい冒険者ギルドがあるだけだよ」


 でも冒険者ギルドはあるのか。依頼はそこで受けられるんだろうな。


 場所を教えてもらうと、最初に転移してきた広場に面しているようだ。村を一通り巡った後に寄ってみよう。


 俺たちはおばあさんに礼を言って、再び探索に戻った。他のお店を探しつつ、時おり出会う村人さんたちに挨拶しながら歩く。まあ、半分は散歩みたいなもんだ。


 始まりの町の洋風な街並みとも違う、長閑な村を従魔たちと歩くのは落ち着けるね。


 1時間ほど歩いて、半分は地図が埋まったかな? そして、ようやく新しい商店を発見できた。


「こんにちは~」

「らっしゃい!」

「ここは果物屋さんですか?」


 お店には見たことのある緑桃や青どんぐりに加え、見たことのない紫柿という果物が並んでいる。


 オルトやクママの食事はここで買えば問題なさそうだ。良かった。しばらくはハチミツ団子にしなくちゃいけないかと思ってたんだ。


「おう! とれたて新鮮な果物だ! しばらく入荷は見込めないから、今が買い時だよ! 今ある分が売れたらしばらくは店じまいだからな!」

「え? しばらく入荷が無いって、どれくらいですか?」


 このお店で果物を買おうと思ってたのに! 今買い占めたとしても、桃と柿は2つずつしか残ってない。1週間分には足りないのだ。


「1週間だな。うちは親父が果樹園を世話してて、そこで採れた果物を売ってるんだが、始まりの町に行っちまってな! 帰ってくるまでは新しい果物が採取できねえんだ」


 この店員のお兄さんは、育樹を持っていないのか。お父さんが育てて、この人が売るという分担らしい。


「ん。待てよ……」


 ちょっと思いついてしまったぞ。


 NPCの店で売っているアイテムは株分できない。この紫柿も当然株分の対象外だ。だが、NPCの畑で栽培された物は? それを俺が直接もいだりしたら? もしかしたら株分できたりはしないだろうか?


「あの、俺の従魔は育樹のスキルを持っているんですが、果樹園の面倒を見ましょうか?」


 さて、どうだろう。初対面の俺がこんなことを言って、信用してもらえるかどうか……。だが、お兄さんの回答はあっさりとしたものだった。


「なに? 本当か? それはありがたい!」

「いえいえ、お困りのようだったんで」

「謝礼はどうするか……」

「あ、だったら収穫した果物を少し分けてもらえませんか?」

「そんなことでいいのか?」

「はい」

「だったら、採れた果物を日に4個、好きな組み合わせで持っていってくれ」


 ほほう。日に4個ね。紫柿は買えば1つ300G。それを毎日4つ貰えるというのは結構嬉しいぞ。たとえ株分できなかったとしても、珍しい果物を入手できるのは悪くないし。


「分かりました。畑の場所はどこですか?」

「今教えるからちょっと待っててくれ」


 お兄さんがマップに畑の場所をマークしてくれた。なんとカイエンお爺さんの畑のすぐそばだ。あの辺は畑が密集している区画だし、そういうこともあるか。


「畑には収穫物を入れておくアイテムボックスがあるから、収穫した果物はその中に入れておいてくれ」

「わかりました」


 わざわざここまで納品に来なくてよいのは楽でいいな。持ってくるとなると結構離れてるしな。


「じゃあ、そろそろ行きますね」

「おう。明日からよろしくな!」


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