803話 振舞いかき氷
出遅れテイマー最新13巻が来月末に発売です。
今回もイラストが素晴らしいので、ぜひよろしくお願いいたします。
コミカライズ最新話も更新されました。
エリンギが想像以上にいいキャラになってますね。
全員の顔合わせが終わり、俺もパーティ編成を終えた。すると、アシハナがアイテムを譲渡してくる。
「これも渡しておくね」
「麻痺耐性薬か」
「うん。でも、それでも防げない失神っていう状態異常があるから、万全ってわけじゃないけどね」
麻痺の上位に当たる状態異常で、それを喰らうと麻痺以上に長時間動けなくなるという。失神と言ってもゲームの仕様上プレイヤーに意識はあるらしいが、体はピクリとも動かせず、視界が暗転して何もできなくなるそうだ。
ビリビリボウズは、HPが残り1割以下になると失神効果のある攻撃を使ってくるらしい。
「回復アイテムもまだ存在しないから、食らったら回復するのを祈る以外に方法はないのよ」
現状、精神や体力を上げて、状態異常耐性を高めるくらいしか対応策がないらしい。雷属性への対応が万全でも、運悪くこの失神を多数のメンバーが食らってしまい、全滅したパーティも少なくないんだとか。
新種の状態異常ねぇ。
そこで、ふとあるアイテムの存在を思い出した。あれなら対策になるんじゃないか? パーティメンバー分は余ってるし。
「あー、だったら、丁度いいアイテム持ってるぞ」
「え? もしかして失神を回復する方法あるの?」
「いや、そうじゃなくてだな――」
俺はインベントリから先日作ったかき氷を取り出した。
「そ、それは――」
かき氷を鑑定したアシハナが、絶句していた。まあ、水臨樹は貴重だから驚くのは分かるけどね。というかあれ、売ったらかなりお高くなるだろうなっていうのは俺にも分かる。
名称:かき氷・水臨樹の果実ソース
レア度:7 品質:★10
効果:満腹度を30%回復させる。使用者に2時間、状態異常耐性・大を付与する。
とはいえ、ボス攻略が優先だ。それに、水臨樹の完熟果実がデカかったおかげでシロップが30人分くらい作れたんだよね。ハチミツとかも混ぜて嵩増ししたし。
俺の効果時間はまだ1時間くらいあるはずだから、アシハナたち6人に振舞えばそれで十分だろう。
「ほ、本当にいいのか? オークションにでも出せば、とんでもない値が付くぞ?」
「効果も凄いし、激レアだし、白銀さんの手作りだし。どんな騒ぎになることか……」
「いやいや、ボスに確実に勝つためだから。ガッツリいっちゃってくれ」
現状では珍しいアイテムなのは間違いないけど、水臨樹の完熟果実も、精霊の小花も、また収穫できるはずだ。
いずれ大量生産も可能になるかもしれないアイテムだし、残しておいても自分たちで楽しむくらいしか使い道がないからね。
「じゃあ、いただくわね」
「うむ」
アシハナとルインがかき氷を食べ始める。なんか、周りのプレイヤーから変な悲鳴みたいなのあがったけど、なんだ?
そんなかき氷食べたいのか? あ、もしかして俺の動画見てくれた人だったり? あれでうちのモンスがかき氷食べてるけど、メッチャ美味しそうに見えるんだよね。
タゴサックやアメリアから、リアルでかき氷食べにいったっていうメールきたもん。
まだゲーム内だとかき氷は珍しいけど、夏真っ盛りのリアルの方がむしろ手に入れやすいだろう。
「そ、それじゃあいただきます!」
「勿体ないけどいただきますにゃ!」
「あとで絶対に囲まれるけど、いただきます!」
「もう我慢できない! いただきます!」
アシハナたちが美味しそうに食べる姿を見て、我慢できなくなったんだろう。ソルダート、ニャムン、蛭間、セキショウが一斉にかき氷を食べ始めた。
「クマー……」
「物欲しそうにするんじゃない! 勝つためだ!」
「クママちゃん! 私のあげる! あーん」
「クマー――」
「ダメだってば!」
クママはまだこのかき氷の効果残ってるんだから、勿体ないだろうが! それはアシハナが食え!
「ごめんねクママちゃん!」
「クマー!」
目の前でかき氷をかき込むアシハナを悲し気に見つめるクママ。
「よーし、食べ終わったらフィールド向かうぞー」
「お、おう。そうじゃな」
「さすが白銀さん! そのスルー力見習いたいにゃ!」
ちょっとしたすったもんだはあったが、俺たちは村からフィールドへと出た。隠れ里は、岩がゴロゴロとした山地の途中にある。
そのため、外に出ると即急斜面であった。ここで戦闘したら、絶対に転げ落ちる自信があるよね。
「こっちじゃ」
「登って登って登り続けるんだにゃ!」
エリアボスは山の上にいるらしい。他のフィールドよりも探しやすそうだよね。
そのまま10分ほど登山を続けると、遂に頂上へと辿り着く。そこは少し落ち窪んだ、休火山の火口である。富士山の山頂とかに似ているだろう。
隠れ里経由じゃないと、ボスが登場しないらしい。俺たちの場合はバッチリだ。現に、火口の中央に紫色の電撃をバチバチと放電する、黒い岩のようなものが鎮座していた。
電撃を全身に纏った黒いゴーレムが、エリアボスであるビリビリボウズだ。
「この火口に一歩でも足を踏み入れると、戦闘開始よ。接近戦に持ち込むまで、延々と雷撃を撃ってくるから気をつけて」
「挑発スキルを使った儂らを集中攻撃してくるだろうが、多少は散ることもあるじゃろう」
「にゃはは! みんなに耐性付与するから任せておけにゃ!」
ニャムンちゃんは各属性への耐性を付与できるらしい。周りが驚いているということは、そうとう珍しい技能なんだろう。
ニャムンちゃん、これで吟遊詩人系トップだし、かなり心強いな。そう考えると、バトル系魔法使いのセキショウに、クロスボウという最先端武器のトップランナーである蛭間。ソルダートもバトルアルケミストという珍しいジョブであるらしい。
さすがアシハナが選んだだけあって、心強い面子だな!
「それじゃあ、行くわよ!」
「「「おう!」」」
なんか勝てる自信が湧いてきたぞ! うおおおぉおぉ!
「あ、ユートさんが死んじゃうと一気に崩壊するから、あまり前に出ないように」
「はい」




