799話 いざ収穫
「遂に収穫できる日がきたな! 生産奥義とかいろいろ頑張った甲斐があったぜ」
「――♪」
「じゃあ、サクラ。収穫するぞ?」
「――!」
今俺は、始まりの町の畑にいた。いつも通りの日課の時間なんだが、少々厳粛というか、ちょっと真面目な雰囲気だ。
今日は、特別な作物が収穫可能になったのである。
2人で並んで立つ俺とサクラの後ろには、オルトやオレア、リックたちが綺麗に整列している。さらには、ファウによってマーチ風の音楽が奏でられ、まるで何かの式典のようにすら思えた。
「よし」
「――♪」
俺は、今朝になって突如出現した採取ポイントに触れる。直接作物をもいでもいいんだが、高い場所などで獲れない場合、幹にある採取ポイントにスキルを使えばいい。
なんせ、俺たちが収穫したいのは、大きく成長した水臨樹の遥か高い枝に生っている果実なのだ。
「成功したな」
「――♪」
インベントリを確認すると、ちゃんと目的の物が入っていた。桜色の果実を早速取り出して、高々と掲げる。サイズが晩白柚くらいあるので、かなりずっしりとしているな。
「水臨樹の実、ゲットだ!」
「――!」
名称:水臨樹の完熟果実
レア度:8 品質:★6
効果:使用者の空腹を30%回復させる。使用者の全状態異常を回復する。使用者の状態異常耐性を2時間上昇させる。クーリングタイム5分。
以前、精霊様の祭壇で手に入れた水臨樹の果実とはちょっと違っている。名称が、水臨樹の完熟果実だ。
効果も非常に高い。全状態異常を回復って、かなりヤバい効果じゃない? 現状、複数の効果がある薬はあるが、全状態と気前よく明記された薬は聞いたことがない。
それが、果実を食べるだけでいいだなんて、調薬業界が震撼するぞ?
「ムムー!」
「トリリー!」
「キキュー!」
畑仕事を普段から率先してやってくれているオルトたちも、嬉しそうだ。まあ、ここまで長かったからね。
皆がファウのかき鳴らすリュートに合わせて、くるくると回り始めた。
いつの間にか他のモンスやマスコットたちも集まってきて、お祭り騒ぎが始まったな。というか、宴会状態だ。
料理とかも持ち出して、サクラを労いつつ騒いでいる。ちょ、リック! 水臨樹の果実はまだ貴重だから! 独り占めすんな!
というか、食いたいの?
「キキュ!」
「ムム!」
「クマー!」
甘いもの好きたちが期待の表情を浮かべている。
「うーむ、それじゃあ、かき氷のシロップにするか? それなら全員食べられるし」
サクラとオレアは食事をしないから無理だけど、そこは機能自体ないからどうにもならないしなぁ。
「――♪」
むしろ、サクラは嬉しそうだ。自分の本体に生った果実を皆に食べてもらいたいらしい。だったら、早速かき氷作るか。
「あ! じゃあ、今朝収穫したあれ使ってみよう!」
「ム!」
以前、スコップたちの父親だというジェミナからもらった奇妙な種。あれが、今日収穫可能となっていたのだ。
育て方によって全く違う育ち方をするという不思議な種だったが、うちの畑では13個中3つが枯れてしまい、7個が中薬草に変化している。
元値が1万Gだとすると、大損である。せめて上薬草とかになってくれたらなー。
ただ、残りの種が、ちょっと凄いことになっているのだ。中薬草に混じって、精霊の花という綺麗な植物が咲いていた。
チューリップ風の葉に、薔薇のような花が付いている、30センチほどの植物だ。ただ、花が透明で、光の当たり方で七色に輝き、うちの畑に咲く花の中でも断トツで神秘的だった。
遠目だと花が咲いているのが分かりづらくて、最初は蕾がどっか行っちゃったのかと思ったね。前日までは緑色の蕾が付いていたから、なおさらだ。
しかも、生産にも利用可能である。
名称:精霊の小花
レア度:6 品質:★8
効果:中間素材として利用可。
まあ、効果はいまいち分からんけど。全部で3個採取できているので、1つくらいは使ってみてもいいだろう。
「中間素材として料理に使うなら、どっかで混ぜ込めばいいのか?」
かき氷の場合はシロップだろう。煮詰める際に、刻んだ精霊の小花をそのまま一緒に鍋に放り込む。落ち着いたら、乾燥させたり、花だけを使ったりと、色々研究したいね。
ハチミツは、水属性の物を使用した。俺の個人的な趣味だと、これが一番美味しかったのだ。
「よし! できたぞ! 特製かき氷だ!」
「フムー!」
「ペペーン!」
かき氷って、結構簡単なのに複数の食材使うから効果高いのがいいよね。
名称:かき氷・水臨樹の果実ソース
レア度:7 品質:★10
効果:満腹度を30%回復させる。使用者に2時間、状態異常耐性・大を付与する。
強い。状態異常耐性・大って、どんな場面でも役に立ちそうだ。それに、品質が★10?
使ったのは普通の氷だし、水臨樹の完熟果実も品質はそこそこだった。これだけいい素材を使っているのだ。作る難易度も上がって、品質が下がることはあっても★10になる要素なんてないだろう。
もしかして、精霊の小花の効果か? 問答無用で品質を★10にするのは強すぎるから、品質を数段階上げる的な効果なのかな?
料理だといまいちだけど、鍛冶や調薬みたいな、品質が効果に大きな影響を与える生産では凄まじい価値があるだろう。
「オルト、水臨樹の果実と精霊の小花、株分けできるか?」
「ムー……」
無理っぽい。まあ、どっちも特殊な素材だもんなぁ。まあ、とりあえず奇妙な種はまた仕入れてこようかね。
「フムー!」
「キキュー!」
「ヤー!」
「――♪」
それに、モンスたちはかき氷に満足してるみたいだから、それで十分なのだ。




