表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
803/873

798話 早耳猫の提案

「ユート君!」

「あれー? ここに来るなんて珍しいですね」

「いやー、すぐにでも相談したい案件があって。いるのは分かってたから会いにきたの!」


 今日は早朝から珍しい訪問者が畑を訪れていた。珍しいと言っても、ここで会うのが珍しいってだけで、普段からよく顔を合わせている人だけど。


「まあ、ここで立ち話でも何ですから、ホームにどうぞアリッサさん」

「じゃあ、遠慮なく」


 早耳猫の絶叫ロールプレイヤー、アリッサさんである。


 大手クランのサブマスだから、普段は忙しくしているのだろう。早耳猫以外で見るのは珍しいのだ。


「で、相談ですか? 俺に? 何かお悩みが?」


 自慢じゃないが、アリッサさんのお悩みを解決できる自信なんてないぞ? もしかしてゲーム内のお悩みじゃないとか?


 まあ、隠し切れない社会人としての大人感が溢れ出しちゃってるし? 推定女子高生と思われるアリッサさんが頼りたくなっちゃうのも分かるけどさ!


「も、もしかしてリアルの?」

「いやいや、リアルの悩みをユート君に相談するわけないじゃない!」

「あ、そうっすよね」


 はーい。分かってましたー。


「悩み相談というか、提案を持ってきたって感じなんだけど……。あ、ありがとう」

「ポコ」

「あい!」

「座敷童ちゃんもありがとう」


 チャガマが、居間の炬燵に入るアリッサさんの前にそっと湯呑を置く。


 マモリが持ってきたのは、せんべいが載った菓子入れだな。米も醤油も塩もあるから、自作は難しくなかった。特に塩味のせんべいは自信作だぜ?


 にしても、2人とももてなす姿がすっかり板についてるな。お盆を体の前に抱きかかえるチャガマとか、お手伝いさんの風格がある。


 せんべいを一口齧ったアリッサさんは、驚きの表情だ。ふっふっふ、美味かろう!


「うま。このおせんべい美味し過ぎじゃない? お茶に合いすぎる」

「でしょ? 結構研究してますから」

「あー、リアルじゃ夏なのに、炬燵でお茶とおせんべい。なんか贅沢な気分!」


 アリッサさんの気持ち、わかるわー。俺もログアウトしてる時、炬燵や雪が懐かしくなるもんな。


「そういえば、相談って?」

「あ! そうだったそうだった。あまりにもおせんべい美味しかったから!」


 本気でまったりしてしまっていたようだ。アリッサさんにしては珍しい。せんべいが好物なのかもな。


「実は、船に関してなんだけど……。ユート君の船に、私たちも一枚噛ませてもらえないかっていうお願いなのよ」

「一枚噛む? つまり、素材集めとか、資金提供をしたいってことですか?」

「そ。正直、私たちが造船に辿り着くにももう少しかかりそうだけど、できるだけ早く情報が欲しいじゃない? となると、既に造船クエストを始めているユート君に協力するのが一番早いわけよ」

「ははぁ」


 実は、一昨日、昨日と何人もの生産職が色々と手伝いを申し入れてくれていた。ふーかと石田に話を聞いたらしい。


 アシハナやソーヤくん、スケガワにセキとシュエラ。他にも様々な生産職たちと一緒に生産を行い、納品がかなり捗ったのだった。


 お礼は北の島の素材詰め合わせでいいっていうんだから、みんないいやつらだよね。何故かそう褒めたら微妙な顔されたけど。照れてるのかね?


「どうかしら? 受けてくれるなら当然納品素材はできる限りこっちで集めるし、依頼料も支払うわ」


 ふむ? 俺にとっては良いだけの話じゃね? 少なくとも、デメリットがあるようには思えんよな?


「問題ないですよ」

「本当? ありがとう!」


 その後アリッサさんから話を聞くと、早耳猫だけではなく、検証班、生産職連合等も素材を提供してくれる予定であるらしい。いやー、これならあっという間にクエスト終了しそうだな!


 ただ、幾つかハッキリとさせておかねばならないことがあった。


 まず、船の所有権や運行管理の権利。納品クエストは今のところ、俺だけでは全体の3割も達成できていない。


「ていうか、手伝いがあったとしても、ソロでもう2割超えてるのヤバイけどね!」


 そこに、早耳猫や検証班が後から参加して一気に納品を終えた場合、所有権がどうなるか分からないという。


 場合によっては、俺やクランの共同所有になったり、一番納品をこなしたクランのものになってしまうかもしれない。


 それを回避するためにも、素材などは一度俺に渡してから納品をしたいという。まあ、言われてみたらそれがいいかもね。


 俺としては北の大陸にいければそれでいいけど、さすがに大型船の所有権をどうでもいいとは言えんし。


「他の権利関係もそうだし、好感度の変動とか、色々と確認したいことも多いのよ。まあ、その辺は全部こっちでやるから、ユート君は渡したアイテムの納品だけお願いしていい?」

「マジでそれだけでいいんですか?」

「私たちが参加できたら、だけどね」


 クエストを発生させた時点で参加していない早耳猫などが後で参加可能なのか? もしくは、完成した船に乗船できるのか?


 クランには所属しているけど、素材納品を一切やらなかったプレイヤーの扱いなども、まだ分かっていないのだ。


 まあ、その辺はアリッサさんたちが何とかするだろう。


 その後もこちらから情報を提供したりして、色々話し合って終わった。


 現在決まっていることは、造船クエストに必要な素材やアイテムを早耳猫が全力で集める。数日後、それを俺が受け取って納品。


 最低でも、達成率50%までは俺が納品することになっている。まあ、半分を納品すれば、俺の権利が完全に消えるってことはないだろうという判断だな。


 で、アリッサさんたちが直接納品できるなら、その後は完全にお任せって感じになるのだ。正直、俺も納品クエストばかりじゃ飽きそうだしね。


「じゃあ、リストにあった素材がある程度集まったらまた連絡入れるから。よろしく」

「はい」


 これは、想像以上に早くクエストをこなせてしまうかもしれないな!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
さすがアリッサさん。さすアリ!
個人で出来る方が狂ってるレギオンクエスト(複数のクランが参加するクエスト…クラン単体だと攻略不可能なので複数のクランが参加する)の2割貢献してるのよ? 白銀さん、冗談抜きで感覚狂ってるから。
会社員がJKに“悩み?話聞こか?”事案ですね。 後乗りで船の権利分捕ったなんて見守り隊に知れたらいくら大手クランでも処されるな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ