795話 船大工
アリッサさんの叫びを聞いた後、俺は再び北海の町へとやってきていた。目指すは、港の漁師さんの下だ。
ああ、情報料は8000万+アイテムをいくつか貰うことで落ち着いた。動画で色々と情報を公開したけど、結構貰えたよね。
「こんにちは」
「お! マグロ買ってくれた旅人さんじゃねぇか! どうしたんだい? マグロかい?」
「マグロがあるならぜひ欲しいんですけど、メインの用事はそれじゃないんです」
「ほう?」
ついでにマグロを1匹買いつつ、俺は漁師さんに情報を尋ねた。
「実は、船大工さんを探してまして。どこに行けば会えるでしょう?」
「船大工? 修理したい船でもあるのかい?」
「修理したいというか、設計図を手に入れたんですよ。それで、船を造れないかと」
「ほほー? それは面白そうだな! この町一番の工房を紹介してやるよ!」
マグロを買って好感度を上げた効果か? 漁師さんに紹介状まで書いてもらってしまった。それを持って、地図のマークの場所へと急ぐ。
当たり前だが、その工房は海沿いにあった。以前から通っていた道の途中だ。普通にスルーしていたけど、大きな倉庫のような建物が船の工房だったらしい。
工房の裏手に回って呼びかけてると、すぐに中から人が出てくる。
「はいはい? どなたっすか?」
「えーっと、こちら船を造っている工房で間違いないでしょうか?」
「はい! そうですよ! もしかして仕事の依頼ですか? でも、今はいろいろ立て込んでいて、仕事を受ける余裕がないかもしれないっすねぇ」
姿を現したのは、いかにも下っ端って感じの青年だった。丸坊主に人懐っこい笑顔の、ちょっと高校球児風にも見える。
怖い職人さんじゃなくてちょっと安心だね。ヒムカとか、明らかにホッとしているし。
「えーっと、一応紹介状があるんですが」
「え? これは! 漁師頭のダンさんからっすか!」
青年が紹介状を見て驚いている。あの漁師さん、実は偉い人だったのか? 青年は俺たちに待つように言うと、工房の奥へと走って行ってしまった。そして、すぐに戻ってくると、俺たちを奥へと案内してくれる。
「親方! お連れしやした!」
「おう。お前さんらが、紹介状持ってきたっていう旅人かい?」
「は、はい」
「ヒム!」
「キュ!」
親方と呼ばれた男性は、ザ・職人という感じの気難しそうな強面のドワーフであった。変なこと言ったらぶん殴られる確率100%って感じの、超恐そうな雰囲気である。声も妙にドスが利いているし。
ヒムカ! 俺の後ろに隠れながら、敬礼するんじゃない!
リックは俺の肩で大人しくしてろよ? へんなことするんじゃないぞ? フリじゃないからな? 絶対に悪戯するんじゃないぞ?
「えーっと、実は難破船を発見しまして。その中で外洋航海船の設計図を見つけたんです。それで、船を修復か新造かできないかと思いまして――」
「外洋航海船だとっ! それは本当か!」
「ほ、本当です」
「ヒム!」
「キキュ」
俺の言葉に食い気味に反応する親方。顔がメッチャ怖い! え? 怒ってる? こ、こっちくるんだけど! あと、ヒムカは俺の背中押すなって!
あとリックゥゥ! 親方の髭に手を伸ばすんじゃない! 確かにお前が好きそうなモフモフの白髭だけど! ルインじゃないんだから、絶対に怒られるから!
「くっ」
「キキュ!」
とりあえずリックを掴んで、ローブの中に押し込む。しばらくそこで寝てろ!
「こ、これが設計図です」
「ほう! これは凄いぞ! 白の大陸の技術で描かれた設計図だ!」
どうやら、造船に関しては白の大陸の方が進んでいるようだった。その設計図ともなると、こちらの大陸の船大工にとっては最高のお宝であるらしい。
「これで船を造るのか!」
「えーっと、そこをお聞きしたいんですけど、設計図があれば作れるんでしょうか?」
「うーむ。そうだな。設計図だけだと、イメージもいまいち湧かんな。なあ、お前さんが見つけたっていう難破船まで、俺を案内できないか?」
案内? 職人さんを? 北の島は歩くだけでも罠いっぱいであぶないが……。
でも、転移があるから、危険は特にないか? いざという時は俺たちが守ればいいし。
「はい。大丈夫ですよ」
「おー! なら、頼むぜ! ぜひこの目で見ておきてぇ!」
「わかりました」
ということで、親方たちを難破船のある入り江まで案内することになったんだが――。
さすが北国で暮らすだけあって、寒さや環境罠は問題ありませんでした。むしろ、俺たちよりも雪原歩きに慣れている感じだ。
結局、転移を駆使しつつ、10分くらいで難破船に到着してしまったのだ。行き来が楽でいいね。
「これが! 白の大陸の大型船か! 凄まじい!」
「そうっすね!」
船大工さんたちが大興奮で、難破船に突撃していってしまった。慌てて追いかけるが、職人の興奮は止まらない。
結局、1時間くらいかけて船内を案内することになった。
「いやー! いいもの見せてもらったぜぇ! ありがとよ!」
「そ、そうですか」
いい笑顔の親方たちの横で、俺だけが疲れた顔をしているだろう。だって、職人さんたちが積極的に敵へと向かって行ってしまうのだ。
親方と弟子3人のパーティなんだけど、全員が超パワーファイター? イソギンチャクが叩き潰される映像とか、衝撃だった。
戦闘とかほとんどしてないのに、疲れたよ。




