80話 カイエンお爺さん
バックアップに失敗してしまい、5話分のデータが消失してしまいました。
なんとか8時に間に合う様に執筆したのですが、間に合いませんでした。
申しわけありません。少々遅れてしまいましたが、更新させていただきます。
「どこまで水を撒けばいいんですか?」
「あっこから、あっこまでだねー」
あっこからあっこって、結構広いんだけど。俺の畑で言えば4面はあるな。肝心の井戸はどこにも見あたらない。
「水はどこから汲んできてるんですか?」
「ちょっと離れたところにあるため池だよ」
ゆっくり歩くお爺さんの後について、ため池に向かう。結構しっかりとした足取りだ。農作業はきつそうだけど、普通に生活する分には問題なさそうだった。
「いつもは息子に畑仕事を任せてるんだけどね~。武術大会を見に、始まりの町に行っておってね。その間だけ、ワシが畑の面倒を見てるんだよ」
「それは大変ですねー」
「まあ、水を撒くだけで良いと言われとるから、そんな難しくはないよー。本当は草むしりとかもした方が良いんじゃけど、この老体にはむりだからね~」
お爺さんに案内されたため池は、想像以上に大きかった。25メートルプールくらいはありそうだ。
周辺は草ぼうぼうで、田舎によくあるいわゆるため池だった。そこに桶を沈めて水を汲んでいく。
「結構重いな……」
天秤棒を担ぐと、ちょっとフラフラする。ぶっちゃけ、さっきのお爺さんとあまり変わらないんだけど。え? 俺ってお爺さんと同レベルのヒョロ腕ってこと?
ヨロける俺を見かねたのか、オルトが自分に任せろとでもいうかのように、自分の胸をドンと叩いて見上げてくる。
「ムム!」
「じゃあ、頼むぞ?」
仕方ない、そこまで言うならやらせてやろう。見た目、小さい子に重労働をさせてる酷い大人に見えるけどね。
それにしてもオルトはさすがだ。担いだ途端、フラつくどころかピューッと畑に走っていってしまった。元気だね~。
「クママやサクラも行けるか? お爺さん、天秤棒ってあれしかないんですか?」
「いんや、納屋を漁ればまだいくつかあると思うぞ?」
ということで、俺たちはお爺さんの家で桶と天秤棒を借りることにした。
もう折り返してきたオルトにその事を伝え、お爺さんの家に案内してもらう。畑からちょっと離れた場所なんだが、結構大きい家だ。
「以前は2人の息子夫婦と住んでいたんじゃがね。上の息子夫婦は始まりの町にいっておるし、下の息子夫婦は独立したんじゃよ」
奥さんはもう亡くなっているらしい。部屋に遺影のような絵が置いてあった。
「さて、納屋はこっちじゃ」
農具が沢山置かれた納屋に案内してもらう。様々な農具をどかしながら中を漁り、2つの天秤棒を発見できた。木桶もたくさんある。これで水撒きも捗るだろう。
「クママとサクラはどうだ?」
サクラは育樹スキル、クママは栽培と養蜂だけだ。もし天秤棒を使うのに農業スキルが影響してくるんだと、上手く行かないかも知れない。
だが、余計な心配だったようだ。クママもサクラも問題なく天秤棒を担いで、水を運べている。
俺も木桶を1つ使って水を運ぶことにした。皆で畑とため池を往復し、水を撒いていく。結構な重労働だな。井戸の有り難さがよく分かるぜ。
「終わった~」
1時間ほどで水撒きと雑草抜きを終え、俺たちはお爺さんの家でお茶をご馳走になっていた。
なんとハーブティーだ。この村じゃ当たり前に飲まれているらしい。わざわざ掲示板に上げなくても、イベント後には製法が広まってるかもしれないな。
「いやー、助かったよ」
「いえ、大したことはしてませんから」
「ありがとうねー」
頭を下げてくれるお爺さん。そうだ、どうせだから聞いちゃおうかな。それがお礼代わりってことで。
「この村って、宿屋有りますか?」
「宿屋? あるぞい。小さいのが1軒だけだが」
「え? 1軒だけ?」
「観光客なんぞこないからねぇ。5部屋くらいの宿が1つだけあるだけじゃ」
それって、プレイヤー数に全然足りてないんだけど。
「え? 他に宿泊できる場所とかは……」
「ふむ。雑貨屋でテントが売ってると思うぞい? それを使えば広場で寝泊まりできると思うが」
「ちなみにテントってお幾らか分かります?」
「なんじゃ? お前さんらこの村に滞在する気なのかい?」
「ええ、1週間ほど」
「じゃあ、わしの家に泊まればええ。畑を手伝ってもらえれば、ワシも助かるしの」
なるほど。悪くないな。畑仕事は1時間くらいで終わるし。テントよりもベッドに寝れるならその方が良いもんな。
「部屋は空いとるし、どうじゃね?」
「うちの子たちも平気ですか?」
これは重要だ。リックやクママは納屋でという話だったらお断りしなければならない。
「勿論じゃ。ベッドも好きに使ってええぞ」
良かった。普通に泊めてくれるらしい。しかもベッドまで使わせてくれるとは、有り難いね。
「じゃあ、お言葉に甘えます」
「ほっほっほ。わしも賑やかな方が嬉しいでな。よろしくたのむよ。部屋に案内しようかね」
お爺さんに案内されたのは、ベッドが4つ置かれた部屋だった。
「ここを好きに使ってくれて構わん」
「良い部屋ですね」
ベッドなんか、フカフカで寝心地が良さそうだし、他の家具類も落ち着いた色合いの上品な物が揃っている。
試しにベッドに腰かけてみると、羽毛布団のような柔らかい感触だ。これは気持ちいい。そして、何やらウィンドウが浮かび上がったな。
どうやら、ベッドで何時間寝るか設定できるらしい。普通だったら寝具などで寝たらログアウトになるけど、イベント中は設定した時間が自動で経過した扱いになるらしい。これは便利だ。
「元々は下の息子夫婦が使っていた部屋だが、家具なんかはそのままにしてあるでの」
「ありがとうございます」
「夕食まで少し時間があるが、どうするかね?」
「え? 食事まで出していただけるんですか?」
「わしから招いたんじゃから、お客人の食事を用意するのはあたりまえじゃろう?」
それは嬉しいな。ゲームの中でまだ食べたことのない料理が食べれるかもしれない。ただ、1つ言っておかないとな。
「あ、でもうちのモンス達の食事はこちらで用意するので」
「そうかね? まあ、モンスターは人とは違う物を食べるんじゃろうし、それは当然なのかのう?」
「そうなんですよ」
「分かった。では、旅人さんの分だけ用意しておくでの」
「ユートと呼んでください」
「わしはカイエンじゃ、よろしくのユート」




