793話 難破船
難破船の探索は、そうすんなりとはいかなかった。
まず広い。
半分しか残っていないと言っても、大型の船だ。五階建ての屋敷くらいのサイズはある。しかも、俺たちの行手を阻むのは広さだけではなかった。
「うわ! またいるし!」
「ペーン」
難破船にはフジツボやイソギンチャクなどが大量に付着していたんだが、その中にモンスターも混じっていた。
まあ、サイズが違うから、見れば分かるんだけどさ。
巨大イソギンチャクとか、メッチャきもいのだ。マジでクリーチャー。ピンク色のせいで、肉塊から触手が飛び出してるようにしか見えなかった。
巨大なフジツボも、近くで見ると結構気持ち悪いし。バランスボールサイズのフジツボの中から触手がうにょっと出てくる姿とか、鳥肌もんだった。
あとカメノテね。一見すると巨大な岩にしか見えないけど、これもまたキモキモクリーチャーであった。上の方にスリットのような隙間が開き、そこからファサーっとした触手が出てくるのだ。
というか、海の生物って触手出し過ぎ! デカくなったら気持ち悪すぎ! 苦手な人だったら、リアルでバイタル異常出るかもしれん。リアルに作るなよ運営!
「モンスターさえ倒せれば、問題ないな」
「フマー!」
アイネはずっと俺の頭の上にいたな。どうやら触手が苦手であるらしい。得意なやつなんていないかもしれんが。
「で、最後はこの部屋か」
「――」
「トリ」
どの部屋も浸水してしまっており、アイテムなどはほとんどゲットできなかった。一応、壁に掛けられた地図とかはスクショしたけど、肝心な部分は破れたりしてるんだよな。
手に入ったのは、鍵が2つだけだ。
そして、最後に辿り着いたのが、鍵のかかった船長室である。2つの鍵を使って扉を開けると、中は綺麗な状態で保たれていた。
いや、思ったよりも荒れているか? 船から脱出する時に、色々持っていったのかもしれない。本棚やデスクには何も入っていない。
ただ、一番の目的物はしっかりと残っていた。
「地図があったぞ!」
「ニュー!」
「デビ!」
壁に掛けられた巨大な地図だ。大きすぎて持っていけなかったって言う設定なんだろう。綺麗なまま、壁に掛けられている。
「ここが、俺たちが今いる大陸だろ? 形がそっくりだし。で、その北にあるこの陸地が白の大陸か?」
サイズは、この大陸と同じくらいだろう。形状は凸字型っていうのかね? かなり遠いのが分かる。
ただ、俺が一番知りたかった情報は、白の大陸そのものに関してではなかった。
「寄港地がしっかり記されてる! これが正確なら、船で白の大陸を目指せるかもしれんぞ!」
「ペペーン!」
「ワウー!」
ペルカとサトリがハイタッチして喜んでいるな。こいつらも未知の大陸の情報が嬉しいのかね?
過去の情報から、白の大陸があることはほぼ確実だった。問題は、そこへの行き方である。それも、この地図があれば、何とかなるかもしれなかった。
「これだけでも十分な発見だが、他には――」
「トリー!」
「お? オレア、何か見つけたか?」
「トリリ!」
棚の引き出しを漁っていたオレアが、何かを発見したらしい。丸まった羊皮紙だ。
「トリ!」
「どれどれ?」
手渡してくれた羊皮紙を広げて確認してみる。すると、そこには何かの設計図のようなものが描かれていた。
「これは……もしかして、この船の設計図か?」
外洋航海船の設計図! これがあれば、船が作れる? なるほど! 地図があっても、船がなくちゃ意味ないもんな!
譲渡、廃棄、破壊不可になっているから、貴重なイベントアイテムで間違いないだろう。
「よし! もう隅々まで見回ったし、一度ホームに戻るか!」
「――♪」
「フマ!」
メッチャ疲れたし、休憩もしたいし。
そうしてホームへと戻ってきたんだが、そこでいつの間にか録画が切れていることに気が付いた。見返してみると、氷獄熊戦のすぐ後に映像が切れている。あそこで4時間経過してしまったんだろう。
まあ、白熊との戦いが一番盛り上がるだろうし、あれが撮れていればいいか。
「となると、難破船の情報はアリッサさんのところに売りにいってもいいかな?」
地図の情報とか、絶対に驚くぞ!
「ま、その前に動画の編集だな。どこを切ってどこを入れるか……」
これが難しかった。俺的見どころばかりだったのだ。うちのモンスたちってどうしてこんなに可愛いんだろう?
ただ、可愛い場面ばかりピックアップしていたら、あっという間に1時間分の映像になってしまう。
俺としては全然それでもいいんだけど、他のプレイヤーさんに驚いてもらうには貴重な情報とか、新情報が入ってた方がいいよね? そう考えて、泣く泣くモンス可愛い名場面を削ったのである。
その分、かき氷機、連絡船、ペンギン、島の攻略情報、特殊プライベートエリア、スペシャルかき氷、氷獄熊戦等など、攻略に役立ちそうな情報を多めにピックアップしておいた。
白熊戦とか本当は全部入れたかったけど、あれだけで30分超えちゃうからね。名場面のみの10分バージョンだ。
それをイベント用にアップロードすれば、これで参加完了だ。3本とも違う感じの動画になったし、結構いいとこイケるんじゃないかね?
「じゃ、ちょっと休憩したら情報を売りに行きますか!」
そうして、モンスたちと炬燵でお茶をした後、アリッサさんのところに向かったんだが――。
「ユートくぅぅぅぅぅん! まってたわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
早耳猫に入った瞬間、絶叫されたぁ! アリッサさん、顔怖い。鬼気迫るっていうのは、こういう表情なのかもしれないね。なんで俺がこんな顔されてるのか分からないけどっ!




