787話 氷獄熊
突如として始まってしまった、白熊とのボス戦。
慌ててボスを鑑定する。名前は『氷獄熊』というらしい。厳つい名前だね!
開幕でいきなり先制攻撃を許した俺たちだったが、不思議なことが起きていた。氷獄熊が初撃に放ったブレスが不発というか、何故か俺たちには効かなかったのだ。
いや、何故かじゃないな。
「かき氷の効果か!」
あれに付いていた、氷雪無効の効果だろう。まさか、ボスの攻撃すら無効化してしまうとは! さすが超激レアかき氷!
絶対に勝てないと思っていたけど、一矢くらいは報いれる可能性が出てきたぞ!
ドンドン攻撃だ!
「どりゃあぁぁ! ウォーター・バレット!」
「キキュー!」
「ペペーン!」
「ガ、ガガァァ!」
みんなで一斉攻撃すると、目に見えて氷獄熊が怯んだ。この巨大なボスが、あの程度で? ダメージもかなり大きい気がするんだけど……。
あ! 雪の民の効果で、ステータスがアップしているお陰か!
これは、想像以上に勝ち目があるのかもしれない。
「かき氷の効果が残っている内に、やったるぞ!」
「ヤヤー!」
「ヒヒーン!」
俺の言葉に、モンスたちがさらに奮起する。そもそも、氷獄熊の攻撃が完全に封殺できているからな。ブレスや、前足を使った雪飛ばしなど、全てが氷雪属性なのだ。
遠距離組は防御を無視して、攻撃全振りで戦えた。
「クックマー!」
「ララー!」
クママとアコラの素手獣コンビが並んで攻撃している。両手をぶん回すパワーファイターのクママと、華麗にボクシングチックな攻撃を繰り出すアコラ。案外いいコンビなのかもしれない。
ただ、アコラまだレベル低いのに前に出過ぎじゃない? それだと――。
「ガオ!」
「ラー!」
やっぱね! そりゃあ、氷獄熊さんだって立派な爪を持ってらっしゃるからさ! 近づいたらそうなるよ!
前足の一振りでHPが全損したアコラが、ポリゴンになって消えていく。だが、まだ終わりじゃないぞ!
「アコラ蘇生!」
「ララ!」
「復活して早速だが、竜血覚醒だ!」
「ラー!」
氷属性の相手には、アコラの竜血覚醒が絶対に有効なはずだ。それを使ってもらわねば! むしろ、最初に使っておくべきだったな。すまんアコラ!
「ラララー!」
アコラが赤い竜と化し、白熊に襲い掛かった。空中から急降下して両足の爪を叩きつけると、離れ際に火炎を浴びせる。
「ガアァァァ!」
「よーし! 効いてるぞ!」
雪の民のブースト効果のお陰か、凄まじいダメージだ。ただ、アコラはここまでね。
「生き返ってすぐに悪いけど、アコラ送還! で、オルト召喚!」
「ラー!」
「ムムー!」
「オルト、タンクを頼む!」
「ム!」
そこからのオルトはマジで神がかっていた。元々防御特化のオルトに、かき氷のバフが乗っているのだ。
ダメージすらほとんど受けず、氷獄熊の攻撃を封殺し続ける。勿論、向こうの全力噛みつきなんかを食らえば、防御の上からでも多少のダメージが入るが、俺とルフレによる回復が即座にオルトの傷を癒すのだ。
マジで、オルトの小さな背中が超頼もしい。
「みんな! 守りはオルトに任せて、ドンドンいけ!」
「クックマー!」
「ペペーン!」
俺は幾度かモンスを入れ替えながら、攻め続ける。最前線の激強ボス相手に完全優位に戦いを進めるなんて、自分でも現実味がない光景だ。
ただ、その優位も、戦闘開始30分までであった。
「あれ? 急にダメージが下がったな……」
「クマ?」
「クママもか!」
氷獄熊の防御力が上がった? いや、違う! 俺たちにかかっていたバフが切れたんだ! かき氷の効果は1時間。食べてから戦闘開始まで30分ほどまったりして、その後戦闘時間が30分を超えた。
つまり、バフが切れた!
「グオオォォォ!」
「ここで狂化かっ!」
あとちょっとなのに!
「グロオオォォォォ!」
「モグモ!」
「ああ! ドリモ!」
やべぇ! ドリモが一撃で死に戻ったぁ! 慌てて蘇生薬を使うが、これはマジでマズい!
「ええい! こうなりゃ、総攻撃で削り切るしかない! いけいけ!」
「モグモー!」
「ペペーン!」
すでに竜血覚醒などの奥の手は使い切っている。ここまで粘れると思ってなかったから、序盤に連続で使ってしまったのだ。
「ガガア!」
「やっべ!」
氷獄熊が俺に向かって口を開いた! 蘇生薬の使用で、ヘイトが急上昇したんだろう。広範囲を巻き込む氷雪ブレスだ!
白い波に呑み込まれ、自分の体が高々と宙を舞うのが分かった。錐もみ状態で、上下もよく分からん! 即死しなかったのはラッキーだが、このまま地面に叩きつけられたらヤバいか?
お、俺が死に戻ったら終わる!
「ガアアアアアアア!」
「うおぉおぉぉぉぉ!」
つ、追撃がくる? そ、そうだ! 死ぬ前に蘇生飴を食べれば!
「あぁ!」
やべぇ! 手元から飴がすっぽ抜けたぁぁぁぁ! 終わったぁぁぁ!




