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79話 イベント開始

 1/15/12:00


 畑仕事を全て済ませて待っていた俺たちは、12時ちょうどに無事転送させられていた。


 イベントが終了して戻ってくるのは明日の12時。帰ってきてから畑仕事をしても問題ないだろう。心置きなくイベントに参加できるな。


「村か」


 どうやら村の広場のような所に転送させられたらしいな。周囲には俺と同じようにイベントに参加したプレイヤーたちがひしめいている。


「みんないるな? 点呼!」

「ム!」

「――!」

「キュ!」

「クマ!」


 オルトから順番に返事をして、手を上げる。よしよし、モンスたちも問題なく付いてきているな。


 おっと、周囲のプレイヤーにメッチャ見られてる! ちょっとはしゃぎ過ぎたか。俺はみんなを連れて広場の端に移動した。まあ、テイマー少ないから目立ってるけどね。


 ピッポーン


 お、運営からメールだ。


『イベントにご参加いただき、ありがとうございます。今回のイベントに関する詳しい内容をご説明いたします』


 運営メールを要約すると、こんな感じである。


 まず、俺たちは29番サーバーに割り当てられた。そして、イベント中に様々な行動を取ることでポイントが獲得でき、最終的に同一サーバーのプレイヤーの獲得ポイントを集計し、他サーバーとそのポイントで競うそうだ。


 また、個人のポイントでもランクが付けられ、これはサーバー内で競われる。



 嫌らしい設定だよな。一致団結しなきゃ他サーバーには勝てないが、個人でもポイントを稼がなくてはいけない。だが、ライバルの足を引っ張り過ぎたら、サーバー戦では負けてしまうかもしれない。


 最初から個人ランク狙いで行くのか、協力してサーバー戦での勝利を狙うのか。プレイヤー間での意識の違いは、色々な争いの火種にもなるだろう。


 さて、俺はどうするか。まあ、プレイヤーの多くが選択するであろう、ポイントを稼ぎつつ、協力し合えるところはするという無難な選択をしておこうか。


 メールを読み終えた後、どうするか考えていたら早速広場から出て行くプレイヤーたちがいた。抜け駆けしたい者、ソロプレイで楽しみたい者、好奇心が強い者、そんな行動力溢れるプレイヤーたちだろう。


 それとは別に、何か広場の中央で大声を上げ始めた男がいるな。もしかして、リーダーぶろうとでもいうのだろうか?


 うーん、正直言ってゲームの中でまで団体行動とか嫌なんだけど。手助けはするけど、誰かの下で纏まろうとかちょっとな……。


 でも、どんなことを話し出すのか興味はある。ちょっと輪から離れたところで話だけ聞いておこうかね。


 その紫の髪をした男性が話し始めると、結構な数のプレイヤーが周りに集まっており、結構有名なプレイヤーなのだと知れた。


「ちょっと聞いてくれ! 僕はジークフリード! さすらいの騎士だ!」


 騎士プレイか。まあ、この世界観には合ってるよな。芝居がかった言動に周りの奴が何も言わないところを見ると、結構有名みたいだな。でも、ジークフリード? どっかで聞いた名前なんだが……。どこだったか?


「知らない人にも、紫髪の冒険者と言えば分かってもらえるだろうか?」


 そうだ。アカリが言っていた、もう1人の称号獲得者! 騎士プレイをしてるって言ってたな!


 ジークフリードの話は、思ってたよりもまともな内容だった。彼自身は個人ランクよりも、サーバー戦の方が興味がある。なので、自分と同じ考えの人は、積極的に協力し合おう。


 そうじゃなくても、できるだけ足の引っ張り合いは止めて、新たに得た情報は開示し合おう。


 彼の要請はそんなところだった。情報を開示し合うという話になった時点で、馬鹿にした顔で広場を出て行く奴らもいたが、結構な数のプレイヤーが彼に協力する気になったと思う。


 俺もそうだ。何か有益な情報をゲットできたら、隠さず広めようかな~程度にはジークフリードに好感を抱いた。


 それと、個人プレイを咎めるつもりはないので、興味が無ければ協力を拒否してもらっても構わないというのも良いね。


 ジークフリードの言葉に賛同した中には有名な生産者や有名パーティのリーダーをしている人物もいたらしく、その3名が中心となって今後の事を話している。


 とは言え、さすがのあの輪の中に入って意見を出すような勇気もやる気もない。とりあえずはソロプレイをしつつ、彼らに協力できることがあれば協力する。そんなスタンスで行きますかね。


「じゃあ、移動するぞー」


 この村に滞在するのは1週間だが、リアルでは6時間しか経過しない。なので、イベント中はログアウトしなくとも良い。ログアウトすることはできるが、一度ログアウトしてしまうとイベントへの復帰が出来ないのだ。


 ただ、1日で最低でも6時間は睡眠を取らなくてはいけないらしく、ベッドなどで横になって眠らないといけなかった。


「とりあえず寝床を決めないとな」

「ムッムー」


 元気よく歩くオルトを先頭に、俺の肩にはリックが乗り、右手をクママと、左手をサクラとつないで歩く。たまにはこんな風に和気あいあいとみんなで散歩するのも悪くないな。


 宿を探したいが、俺たちって泊れるか? オルトとサクラは問題ないかもしれんが、リックとクママはどうなんだろう? ファンタジーなんだし、問題ないとは思うけど……。それに、宿の料金は全員分取られるのだろうか? だとすると、結構な負担になるかもしれない。


 悩みながら歩いていたら、オルトが急に大通りを逸れて、脇道に入っていってしまった。


「おいおい! オルト! 急にどうした!」

「ムッムム!」


 トタタタと駆けるオルトの後を慌てて追いかける。そうやってしばらく追いかけっこをしていると、オルトが急に飛び上がった。


 ピョンとジャンプしたオルトは、そのまま前方にあった木の壁にしがみ付く。どうやら壁の向こう側が気になっているらしい。


「へー、畑か」


 そこは野菜が植えられた畑だった。ヒョロッとしたお爺さんが独りで水やりをしていた。両端に木桶を吊るした重そうな天秤棒を担ぎながら、フラフラと歩いている。なんか危なっかしいな!


 ああ、転んだ! せっかく汲んできた水をぶちまけてしまったよ。


「あのー! 大丈夫ですか?」


 俺は思わず声をかけてしまっていた。だって、さすがに放っておけないだろ?


「おお? 旅人さんかい? 大丈夫大丈夫。ちょいと転んだだけだから」


 そう言って立ち上がるお爺さんは、なんかプルプル震えていて、とても大丈夫そうには見えない。


 これは仕方ないよな?


「俺たちで良ければお手伝いしましょうか?」

「いやいや、旅人さんのお手を煩わせるわけには」

「畑仕事も慣れてますし、気にしないでください」

「そうかい? じゃあ、ちょっとだけお願いしてもいいかね~?」

「任せてください。オルト、サクラ、行くぞ」

「ムム!」

「――♪」


 村の人たちを助けるっていうイベントだし、趣旨は間違ってないよな? 特にクエストが発生した訳じゃないから、報酬とかポイントは貰えそうもないけど……。



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