779話 北の島の北へ
海岸線を離れた俺たちは、北を目指して歩き出す。以前と同じようにクレヴァスなどの自然の罠が大量に出現するが、前回でもう慣れているからね。
罠にはほとんど引っかからずに進むことができた。ああ、リックがちょっとだけ調子に乗って、罠にかかりやがったが。
あいつ、氷の崖の上が気になったらしく、勝手に登ろうとして足を滑らせたのだ。結果、その衝撃で崖の上から大量の雪崩が襲ってきたのである。
ダメージ凄いし、しばらく身動きできないし、最悪だった。多分、その直前に周辺の魔獣を殲滅してなかったらヤバかっただろう。
まあ、雪崩に埋まる映像は迫力ありそうだから、プラマイゼロかな?
しかも、その後雪崩が小山のように積もったことで、崖に上りやすくなっていた。そもそも、こうやって上るのが正解なのだろうか?
そこでは、この島では珍しい植物素材をゲットできた。氷樹の実や、氷樹の木材などだ。氷雪系統の属性を持っているのだろう。
実はかき氷のシロップになりそうだよな。木材はひんやりする家具とか作れるのかな? ベッドとかいいかもしれない。
まあ、ホームは適温で保たれているから、あまり意味なさそうだけど。ひんやりしているってだけで気持ちよさそうである。
そこからさらに北へと向かうと、白い巨体が見えた。前回殺されかけた、巨大白熊野郎だ。メスだったらすまん。
「奴は強すぎるからな。どうにもできん」
普通に腕力が高いうえ、氷雪属性の攻撃も使ってくる。1パーティで手に負えるとは思えなかった。
相変わらず寝ているし、今回は余計なちょっかいは出さずに迂回しよう。いや、前回も迂回しようと考えていたんだけど、あれくらいじゃ近すぎたってことだろう。
この島はコの字型をしているらしいんだが、白熊はちょうど下辺の中央内側っていうの? その辺りにいる。
なので、少し南に戻ってから、コの縦棒部分を通ってさらに北側へと向かおうと思う。
もうね、運営の性格の悪さをしっかりと感じたね。だって、超凶悪罠地帯だったのだ。モンスターもかなり多かったし。
しかも、新しい地形罠が登場したのだ。それが、海風である。今までもあった吹雪に似ているんだが、それよりもさらに凶悪度は上であった。
まず風の威力。一方向からしか吹かない代わりに、吹雪よりも強い。ただでさえ歩きづらい氷の上で最大風速にぶつかると、倒れずにはいられなかった。
しかも、風に乗って氷塊や雪塊が飛んできて、ダメージを受けることもあるのだ。歩いているだけで回復魔術が必要だった。
さらに、細かい粉雪に晒されていると、体に雪が付着して動きが鈍る効果もある。本当に勘弁してくれって感じだ。
時折見つける岩陰などに退避しようとすると、大抵モンスターが隠れているか、罠が存在してるしね。
クママがクレヴァスにハマった瞬間はマジで焦った。
ビッグサイズに進化してなかったら、完全にアウトだったろう。狭いクレヴァスだったお陰で、腹が引っかかって助かったのだ。
「ほら、俺の腕掴め」
「クマー……」
「む?」
がっちりはまってて全然抜けないし。モンスたちの力も借りて、クママをなんとか引き上げる。王様装備が余計に哀れっていうか、裸の王様感すごいのだ。
「クマー」
「次は気を付けろよ?」
「クマ!」
「ラー!」
とか言ってたら、今度はアコラかい!
「ララー?」
「ちょ、どこまで滑ってくんだ!」
「ラー!」
今まで以上に氷が分厚く張っている場所があったんだが、アコラがそこでコケてしまったのだ。他のモンスたちは雪の上が元々得意か、新装備に雪上行動ボーナスが付いていた。
ただ、アコラだけは雪上行動ボーナスが無しなうえに、レベルも一番低い。それ故、強風に耐えきれなかったのだ。
「ララー!」
アコラが氷の上を凄い速度で滑っていく。ていうかあいつ、絶対楽しんでるよな?
「ヤベッ! ファウ! ペルカ! アコラを追え!」
「ヤヤー!」
「ペペーン!」
追い風を受けてバビュンと飛んでいくファウと、ペンギン・ハイウェイでかっ飛んでいくペルカ。
アコラが視界外まで滑って行ってしまった十数秒後。左右からアコラを抱え上げて、戻ってくる姿は頼もし過ぎた。
「よくやった、2人とも!」
「ペペ!」
「ヤヤ!」
敬礼がかつてないほど似合っているぜ。
「ラー?」
「アコラは……やっぱり俺にしがみ付いておこうか?」
「ラ!」
背中にいてくれるのが一番安心なのだ。俺はキャロのお陰で、飛んだり滑ったりしないし。
「キャロは元々安定感あったけど、装備が凄いからな!」
「ヒン!」
キャロが嬉しそうに前足を上げて、蹄鉄を見せてくれる。この蹄鉄には悪路走破ボーナスが付いているお陰で、雪上、氷上でも安定するらしい。さらに、鞍には騎乗ボーナス(中)、水耐性(小)、氷雪耐性(中)、雪上行動ボーナス(中)とスキル盛りだくさんだ。
今のキャロなら草原と変わらない感覚で、雪上を駆けることができるだろう。また、これらのスキルが吹雪などにも効果を発揮しているらしく、海風すらキャロは全然気にならないらしい。
「ここからも頼むぞ? ほら、アコラも頼んどけ」
「ラ!」
「ヒヒン!」
俺の肩から顔を出して、ビシッと手を上げるアコラ。それに応えて嘶くキャロ。うん、ほっこりする光景だね!




