778話 ベビペン
港の隅で削ったかき氷は、モンスたちに大好評だった。最初はペルカに出してもらった氷で作ったんだけど、貪るように食べてくれたのだ。
余りにも美味しそうだったから俺も食べたんだが、やはり寒い場所で食べるもんじゃないね。普通に体が震えて、動きがメッチャ鈍くなってしまった。
寒い場所で起きる状態異常である。だが、かき氷好物化状態だと、大丈夫になるらしい。俺とファウだけが震えていたのだ。
あと、かき氷の品質次第で、かき氷好きたちのHPMPの回復量が変わるらしい。残念ながらバフは付かなかったので、もっと高品質の氷を使わなきゃダメであるようだった。
「ヤヤー」
「ファウ、もう大丈夫か?」
「ヤ」
暖房石をこんなところで使うことになるとは思わなかったよ。まだ効果が残っている内に連絡船に乗りたいところだ。
その思いが通じたのか、連絡船に何とか間に合った。皆でメッチャ走ったのだ。
「さて、島に着くまではまた釣りでもするか」
「フム!」
「ペペン!」
釣れた魚をカメラに見せたり、ちょっと離れた流氷の上にいるペンギンやアザラシを映したりしつつ、特に大きな問題もなく北の島へと上陸する。
相変わらずのひなびた漁村だ。
とりあえず、海岸へと向かうか。そう思って歩き始めたら、すぐにペルカとルフレが村の方へと走り出した。
「ペペーン!」
「フムー!」
「お? どうした2人とも」
「ペン!」
「フム!」
何やら、海岸の一画で立ち止まって俺を呼んでいる。
近づいてみると、採取ポイントがあった。ただ、初見ではない。以前この島にきた時も、同じような採取ポイントを見つけていたのだ。
それでも特別な何かがあるのかと思い、採取してみたんだが――。
「前と同じだな」
手に入ったのは、氷塊というアイテムだ。その名の通り、氷の塊である。今のところ、クーラードリンクなどに使えることは判明しているアイテムだ。
「これがどうかしたか?」
「フム!」
「ペーン!」
ルフレが何かを回し、ペルカはかき込むようなジェスチャーだ。まあ、言いたいことは分かった。
「これでかき氷作れってこと?」
「フム」
「ペン」
確かに、これで作ったかき氷は品質も高くて美味しかったが……。
こんな調子でかき氷作りまくっていたら、何度作らされることになるか分からんぞ。
それに、さっきよりもさらに寒いところでかき氷って、好物じゃない俺とファウには無理なんだが? どちらかと言えば鍋とか食べたいんだけど。
「さっき食べたばかりだろ」
「フムー」
「ペペーン」
「そ、そんなあざとく目をウルウルさせてもダメ!」
「クマー」
「キキュー」
ちょ、他の奴らもやめろ! 俺を囲んで全員でウルウル攻撃するんじゃない!
「これで作ったかき氷は、港で食べただろ! もっと高品質のいい氷が手に入ったら、それ使って作ってやるから! 一番いいやつで! な?」
「クマーー……」
「ペーン……」
これ、絶対に作ってやらなきゃ、モンスたちに超怒られそうだな。もっと奥にいけば氷河的なのとかも採取できる可能性あるし、それを狙っていこう。
「じゃあ、このまま海岸沿いを歩いてみようか」
「ヤー!」
「ラ!」
俺の頭の上のファウと、俺の背中にしがみ付くアコラが元気に返事する。君ら、自力で進んでもいいんだよ?
そうして歩いていると、第一モンスター発見だ。氷の影から、灰色の子ペンギンが進み出てきた。
「グエー!」
「可愛いな……」
やばい、さすがペンギンさん。可愛い。意外と鋭い目とか、ちょっとしゃがれた感じの鳴き声も可愛い!
おっと、鑑定しなくちゃな!
名前はベビペン。ベビーペンギンってことだろう。
鑑定したら、次は世のテイマーたちが一番知りたいことを調べなければ。
「テイムは――できるな!」
ベビペンはテイム対象だった。やはりペルカの進化前の種族はこいつで間違いなさそうだ。まあ、もうペルカがいるから、テイムはせんけど。
「グエー!」
「うわ! 急にっ!」
いや、俺が悠長に鑑定とか試してたからだけどさ!
ベビペンがヨチヨチ歩きの状態から、氷の礫を飛ばしてきた。これが結構な威力で、そこそこダメージを食らってしまったのだ。
とはいえ動きは遅いし、1匹しかいない。その後はうちのモンスたちから袋叩きにあい、あっという間に倒されたのだった。
絵面がヤバかったな。戦闘部分は動画に使わないでおこう。
その後は海岸沿いを歩いたのだが、ペンギンは出現しなかった。レアなモンスターであるらしい。
その代わり、以前にも戦ったことがあるアイススライムやホワイトレイスが出現していた。
海岸沿いはモンスターが多く、内陸部はクレバスなどの地形罠が多い構造なんだろう。
「うーん、正直消耗を考えたら内陸部を進む方がいいかもな……」
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