777話 かき氷機
北海の町へとやってきました。
今日の目的は北の島の紹介だが、既に撮影を始めている。
今までは後で編集することをすっかり忘れて、きっかり1時間で収めなければと思い込んでいた。でも、考えてみたら後で簡単に映像を切り貼りできるのだ。
実際、撮影は最大で4時間まで連続で可能であるらしい。ということで、最後の動画はたくさん映像を撮って、それをしっかり編集しようと思っている。
メンバーは、ペルカ、ルフレ、クママ、リック、キャロ、アコラ、ファウだった。ファウの代わりにメルムがいれば、新装備を手に入れたメンバー全員だったんだが……。
さすがに敵も強い場所だし、バフ役はどうしても外せなかった。
「ペン!」
「フム!」
「どうした2人とも?」
港目指して歩いていると、ルフレとペルカが足を止めた。そして、細い路地へと入っていくではないか。
「ペペーン!」
「フムー!」
「あ、ちょっと! 待てって!」
横幅1メートルくらいしかない路地を、少し体を斜めにしながら2人を追う。
「ク、クマー!」
「クママは無理すんな!」
「クマ!」
「ヒヒン!」
進化して大きくなったクママが、入り口に詰まってるな。そのクママに邪魔されて路地に入れないキャロが、後ろからグイグイと押しているらしい。
リックとファウ、アコラはクママの足元をちゃっかりすり抜けてきている。どうしよう、クママを送還するべき?
だが、すぐにその必要はなくなった。
ペルカたちは路地を10メートルほど進んだところで足を止めたのだ。
「え? 扉?」
両サイドに高い建物が連なった、薄暗く細い路地。その途中に、1枚の小さい扉が設置されていた。
どっかの建物の裏口なのだろうか? いや、でも扉には『雑貨・家具』という簡素な看板がかかっている。もしかして雑貨屋か? 隠れ家的な店にもほどがあるだろ。
でも、入ってみるか。
俺が扉を開けて入店すると、モンスたちも一緒に入店した。テイマーの場合は主人にモンスたちが紐づいているので、マップをまたぐ場合などは一緒に移動できる。
その仕様を利用したお陰で、クママも無事入店できていた。ある意味短距離転移みたいなものだよな。
「ほほー」
内部は看板通り、雑貨と家具が置かれていた。北欧風っていうの? 俺みたいな素人から見てもお洒落だ。
奥のカウンターにはダンディな外見の老人が座っているが、こちらをチラリと見ただけで読んでいた本に再び目を落とした。商売っ気がなさすぎだろ。
まあ、帰れとは言われなかったので店内を色々と見て回るか。
ただ、良い物が多いのは解るが、買うほどかと言われるとそうでもない感じ? おしゃれ家具はうちのホームにはまだ早いのだ。
暖炉とか煙突の設置もしてもらえるようだが、日本家屋に北欧風の暖炉はね……。
雑貨類も同じだ。ただ、ペルカとルフレがどうしてこの店に反応したのか、奥に置いてあるホームオブジェクトを見て理解した。
「ペペン!」
「フムー!」
「ああ、これが欲しかったのね」
養殖生け簀・海、養殖生け簀・北海、養殖生け簀・貝の3種類が置いてある。今までも養殖用のホームオブジェクトはあったが、これは目的が特化している分効果が高いようだ。
特に凄いと思うのが、貝だ。サザエやアワビを増やすだけじゃなくて、真珠の養殖もできるんじゃなかろうか?
これはぜひ買っておきたいね!
他に気になったのが、かき氷機だ。ホームオブジェクト扱いの電動式と、持ち運び可能なレトロ風ハンドル式のやつがある。これはどっちも買いだな! みんな、装備品のお陰でかき氷が食べられるし。
というか、うちの畑で獲れた果物や野菜とハチミツを使ったシロップを使えば、食事可能な子は全員かき氷が食えるのだ。
パンプキンハニー味とか、現実でも存在してるしな。
「これください」
「……ああ」
うん、不愛想! でも、良い物売ってもらったから気にならん。というか、隠れ家的家具屋の不愛想な店主とか、むしろロマン?
生け簀はかなり高かったけど、それだけ効果が高いってことだし。今からどんな魚を育てるか楽しみだ。
魚は自力で捕まえて水槽に入れないと持ち運べないんだよね。そのうち北の海で色々な魚を釣り上げてやろう。
「クマッ?」
「あ……クママが詰まるの忘れてた!」
「ク、クマー!」
「押すから、なんとか入り口まで頑張れ!」
「ヒヒン!」
それから10分くらいかけて、ようやく路地から脱出した。いやー、無駄に送還せずに済んでよかった。
「ララ!」
「どうしたアコラ?」
「ラーラ」
「うん? 何かを回して……ああ、かき氷食いたいのか?」
「ラ!」
え? この寒い中で? だが、それはクママやキャロたちも同じであるらしい。アコラに賛同するように頷いている。
かき氷好物化の効果は、寒さを無視するレベルであったらしい。元々かき氷が好きなルフレ、ペルカも期待の顔だ。
甘いものが好きなファウも、普通に喜んでいる。携帯かき氷機も買っちゃったしなぁ……。
「でも、シロップがないからハチミツかジュースがけでいいか?」
「ラ!」
「クックマ!」
それでいいらしい。仕方ない。とりあえず広い場所――港にでも行ってかき氷作るか。




