78話 イベントの詳細
俺はリックと共に畑に戻ろうとしたんだが、あることを思いついてシュエラの店に戻った。
「おんや? 何かお忘れ?」
「ちょっと聞きたいことがあってさ」
「ほい。何かな?」
「実は、モンスターの装備に関してなんだが」
ふと、オルトやサクラのような、最初から特殊な防具や武器を装備しているモンスは、他の武具を装備できるかどうか疑問に思ったのだ。
特に防具だ。着せ替えたり、インナーを装備したりできるのか? もし装備を変更できるのであれば、オルトとサクラの防御力をさらに上昇させられるだろう。
だが、シュエラの答えは俺の期待したものではなかった。
「無理だわね」
「無理かー」
「ええ。モンスの固有装備は解除できないし。インナーも装備不可能だったはず。アクセサリ類は装備できたと思うけど」
「そうですか」
残念だ。せっかく人型なのに、装備を変えることはできないらしい。
俺がシュエラと話していたら、いつの間にかやって来た新しい客を、セキが接客している。
別に聞き耳を立てていたわけじゃないんだが、その客とセキの会話が耳に入ってきた。
「武術大会用に、鎧を強化してほしいんだ」
「いまからじゃ2時間はかかるぞ? 時間ぎりぎりだが……」
「なんとかならないか?」
「ふむ。そうだな――」
そうか、武術大会――イベントは今日だったな。興味なかったから、すっかり忘れてた。
実は、事前にイベントの開催が告知されていたんだが、俺は参加するつもりが無かった。
イベントの内容自体はシークレットで秘密にされていたんだが、その情報が全くないという訳ではない。ゲーム内のNPC、特に冒険者や衛兵といった戦闘系のキャラクターたちが、最近になって武術大会の情報を口にするようになったのだ。
15日に武術大会が開かれ、プレイヤーも参加できるという話だった。間違いなく、シークレットイベントは武術大会だろう。掲示板でもそう断定されていたし、俺もそうだと思う。
プレイヤーの中にはそのイベントのためにスキル構成を調整したり、武具を整えたりする者も多いらしい。
ただ、俺には関係ないイベントだ。
独りでまともに戦闘したことないし。モンスターを連れ込めるとも思えない。だって、モンスがいたらテイマーやサモナーが有利過ぎるからね。
観戦などもできるそうだが、他のプレイヤーが戦ってるのを見て、何か面白いか? いや、決勝とかなら見てもいいけど、予選などまで全部見るつもりもない。
それに、決勝などの様子は動画配信される可能性が高いので、わざわざ闘技場に行く気は全くといってなかった。
だったら、フィールドに出て経験値を稼いでいる方がましだ。知り合いでも出場してれば話は別だけどね。俺のフレンドで参加しそうなのは、アカリくらいだ。もしアカリが上位に残ってたら、応援にいってみるか。
俺は今度こそシュエラたちに別れを告げ、畑に戻ってきた。
「ユートさん! おかえり~」
「クックマ~」
「アシハナ。もしかしてわざわざ杖を持ってきてくれたのか?」
「うん。クママちゃんたちと遊びたかったしね!」
そう言うアシハナは、クママを後ろから抱きしめて、モフモフしている。クママと遊ぶっていうか、クママで遊んでるな。
まあ、腕や耳をフニフニされるクママも気持ちよさげに目を細めているし、嫌がっていないから構わないんだけどさ。それでも、一つ気になったのは――。
「クママの仕事の邪魔はしてないだろうな?」
「してないよ~。クママちゃんが仕事終わるまでずっと待ってたんだから!」
「ならいいけど。それより、杖はどうなった?」
「バッチリよ! はいこれ!」
名称:水樹の杖+
レア度:3 品質:★6 耐久:130
効果:攻撃力+3、魔法力+21、水系魔術消費軽減・小、水系魔術威力上昇・小、火系魔術消費上昇・中
重量:1
おお。本当に水系魔術威力上昇・小がついてるな。これでより水魔術が使い易くなったって訳だ。
「いいじゃないか!」
「でしょー? でもさ、ここまで水特化にしちゃっていいの?」
「どういうことだ?」
「だって、後衛の魔術師系の人って普通は2属性使うじゃない? もし水無効とか持ってる敵が出てきたら、詰んじゃうよ?」
言われてみたらそうだな……。でも、今すぐ水耐性のある敵と戦わなきゃいけない訳じゃないし。もう少し考えてみよう。ボーナスポイントは10あるから、少し余裕はあるしね。
ピッポーン
《運営からのお知らせです。1時間後、告知してありましたイベントを開始いたします。イベントの詳細をお知らせいたしますので、ご確認ください》
アシハナと話していたら、運営からメールが来た。添付ファイルを開いてみると、イベントの詳細が書かれている。
「へえ、こういうイベントなのね」
「てっきり武術大会だと思ってたぜ」
武術大会は確かに開催されるんだが、なんとそれ以外にもイベントがあった。そちらは生産職や、武術大会を観戦する気のないプレイヤー向けのイベントのようだ。
武術大会に関しては、ソロとパーティーの部があるようで、希望者は誰でも参加ができる。しかも、NPCも参加しているらしい。高位NPCが出場していたら、優勝は難しいんじゃないか?
まあ、俺には関係ないけどね。問題はもう一つのイベントだ。
『多くの冒険者や傭兵、生産者が武術大会開催期間は始まりの町に集まってくる。だが、そのせいで近隣の村では働き手が減ってしまい、様々な仕事が滞ってしまう。武術大会に参加しない旅人たちよ。村々を助けるために、手を貸してほしい』
そんな文句が最初に書かれている。詳しい内容を読み進めていくと、俺でも参加できるイベントのようだった。
参加者はそれぞれ300人程度に分けられ、それぞれに割り当てられた村に転移させられる。そこで1週間過ごし、様々な依頼をこなして村を助けるのがイベントの内容らしい。ぶっちゃけ、普段とやっていることは変わらんね。
時間が加速され、村で1週間過ごしても1日しか経過しないらしい。
あと、テイマーは従魔を連れて行けるんだとか。それは嬉しい。どうせだったら参加しちゃうか? 準備なんか全くしていないが、面白そうだしね。
「アシハナはどうする?」
「もち参加するわ! 今から仲間を集めてくる! じゃーね!」
俺も、とりあえず参加を押しておこう。時間が来れば、転送されるみたいだしな。




