765話 白熊さん
白熊に発見されないよう、ゆっくりと斜面を下りていく。どうみてもボスだし。このエリアのボスに俺たちだけで挑んだって、勝てるわけがない。
発見される=死だ。
俺たちは息を殺し、少しずつ進んだ。
よし、白熊はまだ寝ているな。このまま皆で慎重に――ピッポーン。
「!」
アナウンスの告知音! やっべー、体がビクッてしちゃったよ!
「……」
セーフッ! あっぶねー!
何てことしてくれんだ運営め! いや、通知切ってない俺が悪いんだけどさ!
運営によって殺されかけるというアクシデントはあったものの、俺たちは何とか丘を降りきっていた。白熊までは50メートルほどの距離だろう。
このまま波打ち際に広がる岩場を越え、流氷へと向かうのだ。ここからでも、遠目にペンギンがいるのが見える。
だが、俺たちはその場で足を止めた。
「……」
静かに白熊を見つめる。今、動かなかった? 気のせいか? しかし、モンスたちの表情を見れば、俺の気のせいではなかったと分かる。本当に動いたのだ。
寝返り的なことか? ビビり過ぎて、白熊のありとあらゆる変化が恐ろしく感じてしまうのだ。
俺たちは白熊を気にしながら、さらに歩を進めた。そして、再び動きを止める。
「?」
なんか、俺も体の震えが大きくなってないか? それに、寒くなってきた。暖房石の効果はまだ生きているのに……。
今まで以上に寒いエリアに入ったってことなのかもしれない。より慎重に動かないと、転んでしまいそうだ。
コケて大きな音を上げたら、絶対に白熊が起きてくるだろう。慎重に、慎重に――。
「へくち!」
ちょ、俺の口から可愛いくしゃみ出たー! さすが美形アバター。あざといくしゃみだ! 違う! どうして!
「くしゅん!」
「くちゅん!」
「はふん!」
アイネとファウのくしゃみは分かるよ? アコラのそれはくしゃみなの?
いや、今はそれよりも重大なことがあったぁ!
「ガアアァァ!」
「ですよねー!」
寝起きの白熊さん激オコですわー!
「くっそ! 逃げるぞ!」
「クマー! クママー!」
うん、今のクママが何を言いたいのか分かるぞ? なんでくしゃみしたんだと、文句を言っているに違いない。
俺だって知りたいよ! そもそもこのゲームのアバターに、くしゃみをする機能があるだなんて初めて知ったよ!
「ボスフィールドは発生してないし、逃げ切れるはず――」
「ガアアウゥゥゥゥ!」
「うぎゃっ!」
背中になんか当たったぁ! ぶっ飛ばされながらも首を捻って背後を確認する。すると、俺がどんな攻撃を食らったのかよく分かった。
大きな雪玉が飛んできていたのだ。さらにその攻撃を食らい、俺は雪に埋もれることとなる。ダメージもかなりあるが、それ以上に体に纏わり付く雪が邪魔だ。
手で払い落とそうと思っても、全く取ることができなかった。状態は『氷雪』となっている。行動阻害の効果があるようだ。
そこに白熊が突っ込んでくる。
「ガァァァァ!」
「クックマ!」
「フマー!」
クママとアイネが果敢に割って入ってくれるが――。
「ガオオオオ!」
「クーマー!」
「フママー?」
一撃で吹き飛ばされた! 死に戻ってはいないが、相当なダメージだろう。しかも、白熊は一切の動きを止めず、たった数歩で俺の目の前へと迫る。
「やべぇ! 超帰還の玉、起動! ホーム!」
俺が叫んだ瞬間、クイックメニューに設定してあった超帰還の玉が起動した。このアイテムは、フィールド上のどこからでもホームかリスポーンポイントのどちらかに戻れるというアイテムだ。
お高いので乱発はできないが、ここぞという時の緊急脱出用に1つ買っておいたのである。持っててよかった超帰還の玉!
畑に戻ってきた俺たちは、精神的疲労のあまりへたり込んでしまう。
「メッチャ強過ぎないか? あれ、普通に勝てる相手? 前衛のクママと、受け技能があるアイネが一瞬で抜かれたぞ?」
負けイベントじゃないかと疑いたくなる強さだった。まあ、最前線で戦うには、俺たちが弱過ぎたってことなんだろう。
「クマー……」
「フマー……」
「クママ、アイネ。お前らのせいじゃないさ。俺なんか何もできなかったし」
一撃でぶっ飛ばされたせいで落ち込むクママとアイネを慰めつつ、俺はメールボックスを開いた。
気分転換に運営からのメールを確認しようと思ったのだ。メールは2つ来ていた。一番上のメールを開いてみる。
「えーっと何々? 第3陣ログインについてのお知らせ?」
リアルで1週間ほど先に予定されていた第3陣の参戦が前倒しになるらしい。なんと、リアルで明後日。ゲーム内では6日後だ。
そこで、本来予定されていた第3陣迎え入れイベントを前倒しで行うという。また、突然の決定のお詫びとして、イベントの賞品を少しだけ豪華にするという。
イベントの名前は、『第3陣にLJOの良さを教えてあげよう! 大撮影大会!』である。最短10秒、最長1時間の動画、もしくは静止画をゲーム内で撮影し、それを公開していいね数を競うというイベントだ。
動画、静止画、合わせて3つまで出展可能であるという。
誰でも参加できそうなイベントだ。動画内容は公序良俗に反していなければ何でもいいらしい。
「面白そうなイベントだな!」
これなら俺も気軽に参加できそうだし、クリエイター(自称)ユートの実力を見せつけちゃおっかな!
6/29に開催されるサイン会ですが、先日から参加券の配布が始まっております。
ホームページやXで詳しい参加方法が記載されておりますので、ぜひチェックしてご参加を!
まじでお願いします!




