77話 シュエラの店
防具を買うため、ルインに教えてもらった北区の露店に向かう。
「えーっと、この辺のはずだけど……」
「キュ!」
「お、リック。見つけたか?」
「キュキュ~」
リックが俺の体を伝って地面に降りると、タタタタと広場に向かって駆けだした。
「速い! 速いってリック!」
「キューキュー」
早く早くとでも言うように、進んだ先で俺を振り返っている。
「で、防具屋さんはどこだ?」
「キュ?」
「え? だからルインに紹介してもらった店を見つけたんだろ?」
「キュ?」
防具屋ってなーに? そんな感じで首を傾げているリック。じゃあ、どうして駆け出したんだ?
そう思っていたら、リックが目の前の屋台に駆け上った。
「おや、可愛いお客さんだねー」
NPCショップのようだ。恰幅の良いおばさんが中華鍋のような物で何かを焼いている。ジャリジャリと小石が擦れ合うような音が鳴ってるが、これは何だ?
「いらっしゃい。この子はお兄ちゃんのリスかい?」
「あ、はい。ここって何のお店ですか?」
「うちは焼豆屋だよ」
なるほど、鍋で回しながら焼いている謎の物体は豆だったか。確かに匂いを嗅いでみると、豆を炒っている時特有の香ばしい匂いがしている。
リックが好きそうだな。
「おい、もしかして好物を見つけただけか?」
「キューキュ!」
そんなキラキラした目で見つめるなって。あーもう! 仕方ないなぁ!
「1つ幾らですか?」
「100Gだよ」
名称:焼き豆
レア度:1 品質:★6
効果:なし。食用可能
「じゃあ、1つ下さい」
「あいよ!」
おばちゃんが豆をお玉で掬うと、紙袋にザーッと入れていく。結構量が多いぞ。お玉で3杯分は入っているだろう。
齧ってみると、素朴な味がした。少し塩味の付いた炒り豆だ。節分の豆に近い味だな。
正直、そこまで美味しくはない。まあ、スナック感覚でつまむには悪くないが、毎日は食べたくないな。
「ポリポリポリポリ――キュー!」
だが、リックはこれが大好物みたいだな。俺が手に持つ紙袋に、頭ごと体を突っ込んで、貪り食っている。頬袋はパンパンだ。リックのどこに入るのかと不思議になる程食いまくっているな。
まあ、おかげでおばちゃんに店の場所を教えてもらえたけどね。
「あった、あそこだ。シュエラの店」
ルインの友人だっていうのがよく分かるな。店の外観は何故かレースのフリフリで装飾され、凄まじい主張だ。なぜアレを見つけられなかった、俺。
「すいません。ローブを見せてほしいんですけど」
「ほいほい。いらっしゃいませー! シュエラの店にようこそ。うちは裁縫、皮革製品の専門店でーす」
店番は、独特なテンションの少女だった。完璧に狙ってんだろっていう、ピンクのロングツインテールに、全身フリフリのゴスロリ衣装。それでいて右目に髑髏の眼帯だ。
身長は140センチくらいで、目も大きくて童顔である。小学生っぽく見えなくもないが、仕草や表情は大人っぽくもある。
「ふっふっふ。この外見にやられちゃった?」
「え? いや、狙ってんなーっと思って」
「ふひひ。分かる? 女性ドワーフの外見は合法ロリなのよ! だからちょっとテンション上がっちゃってさ。アバター作るだけでも2時間かかったのよ?」
ロールプレイとはちょっと違うが、この女性もまたゲームを楽しんでいるな。
「リアルがアラフォーのBBAだからな。せめてゲームの中では若い姿でいたいんだ。許してやってくれ」
「は、はあ」
「てめー、何バラしてやがる!」
「本当のことを言っただけだ」
シュエラのリアル年齢をばらしたのは、その横に佇んでいた地味な感じの青年だった。シュエラと違って、超テキトーに作った感じのアバターだ。ただ、このゲームのアバターはデフォルト状態でも美形になる。むしろこの地味アバターにするには多少いじらなくては駄目だろう。何というか、無駄な労力だな。
「俺はセキ。皮革職人だ。よろしく」
「よ、よろしく」
セキは全く表情が動かない。これはこれで怖いな。
「えーっと、ルインさんから、この店を紹介されてきたんです」
「へえ? あいつもたまには良い事するわね。それで、何をお求め?」
「新しいローブを探してるんです」
「なるなる。重さはいくつまで平気?」
「できれば3以内で」
「うーん、だとするとこの辺とかどうかしら?」
接客はシュエラの役目らしいな。セキはその場でボーっと突っ立っている。
名称:白蜻蛉の羽のローブ
レア度:3 品質:★7 耐久:180
効果:防御力+23、敏捷+1
装備条件:知力10以上
重量:2
名称:装甲板のローブ
レア度:3 品質:★6 耐久:230
効果:防御力+38、魔術スキルにマイナス補正、敏捷-1
装備条件:腕力4以上
重量:3
名称:魚鱗のローブ
レア度:4 品質:★4 耐久:170
効果:防御力+35、水耐性(小)、水中適応(小)
装備条件:水魔術Lv5以上
重量:3
名称:サヴェージドッグレザーのローブ
レア度:3 品質:★6 耐久:200
効果:防御力+22
装備条件:腕力3以上
重量:2
色々と良い装備が揃ってるじゃないか。装甲板のローブは、所々に金属の板が縫い付けられたローブだ。防御力は一番強いんだが、魔術スキルにマイナスの補正が入るのは痛いな。
白蜻蛉の羽のローブは悪くはないんだけど、外見がな……。その名の通り、トンボの羽を縫い合わせたような姿をしているんだが、まるで天女の羽衣のようなのだ。しかも半透明なのでローブの下がスケスケである。はっきり言って、このナルシスト専用装備を身に着ける勇気はなかった。
となると、残りは2つ。魚鱗のローブは大型の魚の青っぽい鱗を布の上に隙間なく縫い付けたようなローブだ。サヴェージドッグレザーのローブは、シンプルな茶色いレザー製のローブである。
これは魚鱗のローブ一択だろう。魚鱗のローブはサヴェージドッグレザーのローブの倍以上の35000Gもするが、性能はアズライトのローブとでは比べ物にならないからな。
初期装備だった銀糸のローブも超えている。
さらに、インナーとして、森林蜘蛛糸のズボンという装備を購入した。
名称:森林蜘蛛糸のズボン
レア度:4 品質:★4 耐久130
効果:防御力+15、麻痺耐性(中)
装備条件:体力4以上
重量:1
23000Gもしたよ。値段の割には防御力は少し低い気もするが、麻痺耐性が高いのだ。俺が麻痺ったら回復役がいなくなるからな。これはぜひとも欲しかった効果である。しかも重量は1。これは良い装備だ。
この買い物で防御力はこれまでの倍以上になったし、しばらくは装備を買わずに済むだろう。
それと、リックのバンダナも新しいものに買い替えてみた。
名称:クリムゾンバンダナ
レア度:3 品質:★5 耐久:140
効果:防御力+13、麻痺耐性
重量:1
「さて帰るか」
「ポリポリキュ~ポリポリ」
まだ豆食ってんのかよ! 自分の体の体積以上の量を平らげた気がするんだが。まったく、食い意地はってるな! でも、顔と同じくらい頬袋を膨らませたリックに円らな瞳で見つめられたら、怒る気も失せてしまう。
「はあ、行くぞ」
「ポリキュポリポリキュー」




