763話 北の島へ
ハイテンションのままに踊り出したモンスたちをなんとか宥めた俺は、船の縁に立って釣りをしていた。
暇になり、なにか時間つぶしをできないかと考えたのだ。
目の前が海なんだし、チャレンジしてみるのもありじゃないか? そう思って釣り竿を取り出してみると、しっかりと釣りスキルを発動できた。
春の陽気のように暖かい中で、真冬の海に釣り糸を垂れる。なんともいえない贅沢気分だ。
ゆったりと釣りをしていると、すぐに当たりがあった。
「きたきたきた!」
「フマ!」
「ペペン!」
船縁から体を乗り出し、ルフレとペルカが釣り糸の先を覗き込んでいる。
「うぉぉぉ! フィーッシュ!」
「ラー!」
「キキュー!」
メッチャ水かかった! 俺の背にいたアコラと、肩の上にいたリックも海水を大量に被ったらしい。いや、そんな怒った顔で抗議されても、俺も濡れてるんですよ?
ああ、急に冷たい水がかかって驚いたのね。すまんすまん。
「おー、いいサイズのタラだな!」
「フム!」
「ペン!」
ルフレたちもニッコリだ。見るからにおいしそうだもんな。
その後も、釣りは絶好調だった。というか、めっちゃ釣れる。
15分で5匹も釣れた。
ビギニタラ、ビギニサケ、ビギニイカ、ビギニサンマ、ビギニホタテの5種だ。全部購入済みだったけど、こんなのいくらあってもいいからね!
それに、買った魚よりも少しサイズがいいかな? 個別に釣る方がサイズも品質もいいってことなんだろう。
「にしても、釣りで貝が釣れちゃうんだな」
「フム」
「あ、もしかしてルフレのおかげ?」
「フムー!」
ルフレが持つ釣り・上級の影響であるらしい。やっぱ水に関してはルフレだね!
さらに、我慢できなくなったペルカが海に飛び込んで、色々とゲットしてきてくれた。
コンブにサザエにエビだ。短い素潜りでこれってことは、かなり豊かな海なんだろう。もっとしっかり探索できれば、他にも収穫があるかもしれなかった。
「こっからじゃ流氷しか見えんけど――」
船の周辺を流れる流氷を見ていたんだが、驚きのものを発見してしまった。
「あぁぁぁぁぁ!」
思わず叫んじゃったぜ。でも、誰だってそうなると思う。
「クマ?」
「ラ?」
「あれ! あそこ見てみろよ! ペンギンいるじゃん!」
海を流れる流氷の上に、ペルカよりも小さなサイズのペンギンがいた。灰色のモコモコの毛に包まれた、赤ちゃんペンギンだ。
メッチャ可愛い!
「ペルカとは違う種類っぽいけど、ペンギンだったよな?」
「フマ」
「ペン」
俺も馬鹿じゃないんだ。俺しかテイムできてない珍しいモンスの情報は、みんなに喜ばれるってことはもう解ってる。ペンギン発見なんて、大ニュースじゃないか?
アリッサさんへの土産が増えたな!
「北の島にもいるかな?」
もし流氷の上にしか出現しないとかなら、そこに行くまでが大変そうだった。小船を出すにしても、歩きで行くにしても、そうとう苦労するだろう。
できれば北の島にいてほしいね。
ペンギンを発見して数分。興奮冷めやらぬ俺は北の島へと降り立っていた。ただ、すぐにその興奮は落ち着いてしまう。
北海の町の栄えようを見ていたので、こちらも似たような街を想像していたんだが――。
「なんというか、村?」
「キキュ」
桟橋と、その横にある倉庫みたいな建物はかなり立派だ。だが、そこ以外は小さな漁村という感じだった。
木造の平屋が並び、戸数も20ちょいって感じなのだ。寒村と言ってもいいかもしれない。
何か特産があると聞いていたが、そのお陰で発展してるってわけじゃないようだ。
歩き回ってみると、宿屋や道具屋などの基本的な店は揃っている。あと、漁師さんに魚屋の場所を聞いたら、そんなものないらしい。
ほとんどは本土に出荷してしまうし、村民は全員漁師関係者なので魚を食べたい場合は自分で獲って来るのだろう。
漁師さんに話を聞くと、何か希望があれば少量なら分けてくれるということだった。魚がたくさん欲しけりゃ、北海の町で買えってことらしい。
「あと、特産品って、なんなんです?」
「ああ、真珠だよ。ただ、採れるのは島の北側だから、俺たちは関係ないんだ」
ギルドの雇った冒険者などが採取に赴くらしい。養殖じゃなくて、天然の真珠なんだろう。
「この島に来る途中でペンギンを見かけたんですけど、島にもいますかね」
「ペンギン? ああ、あの飛ばない鳥か? いるぜ」
「おお! どこにいるんでしょうか?」
「こっからもっと北に行けば、いくらでも出ると思うぞ? あんななりでも危険な相手だから気をつけな」
危険、すなわちモンスター扱いということ! テイム可能なら、ペルカの進化前種族の可能性が高いだろう。
アリッサさんだけではなく、アメリアやウルスラ、フィルマあたりも喜んでくれるはずだ。
「第一目標、ペンギン! ユート探検隊、出動だ!」
「フムー!」
「ペペーン!」




