759話 シュエラとハイウッドとクママ
シュエラとセキにクママの装備を作ってもらおうと思って話をしていたら、なんかハイウッドまで登場した。
早耳猫のギルマスで、前線でも有名なトップ戦闘職だ。ハイウッドも周囲の野次馬の中にいたらしい。全然気づかんかった。
なんか集団合コンで割り込みをする時みたいな「ちょっと待ったー!」って声を上げながら、駆け寄ってくる。
「クマ君の装備は、ずっとルインが作ってるんだから、仕事を奪わないでほしいな!」
「ふふーん。でも白銀さんは良いって言ったもんねー!」
「別に構わないって言っただけじゃん!」
「了承したことに変わりはないじゃない!」
なんか言い争いが始まっちゃったな。こういっちゃなんだが、クママの装備作りでこんなヒートアップするとは思わんかった。
「ほら! ルインも何か言ってやりなよ!」
おっとぉ、ルイン本人がいた!
ハイウッドに引っ張り出されたルインは、心底迷惑そうな顔だ。
「いや、儂は別に――」
「文句を言ってやるんだ!」
「いいわ! 受けて立とうじゃない!」
当人をそっちのけで、ハイウッドとシュエラが睨み合う。
「クママちゃんも、むさいおっさんよりも私みたいな可愛い子に服作ってもらいたいわよね!」
「クマ?」
「いやいや、今着てる装備だってルイン作なんだよ? 次だってきっと、満足してもらえるはずさ! そうだろ?」
「クマー?」
クママは困惑した感じで、両者を宥めるように手を上下に動かす。まあまあって感じの仕草だ。
「クママちゃん! 私がいいよね? ね?」
「いやいや、ルインがいいだろ?」
「クマー……」
両サイドから詰め寄られ、クママが困ったように首を振る。圧も凄いし、急にどっちがいいかと言われても――いや、違うな。
クママのやつ、困ったふりしてちょっと楽しんでるだろ?
あれだ、私のために争わないでごっこだ。前もアシハナとマルカがクママを巡って争った時に同じようなことやってたのである。
「クマークママー」
「ほら! クママちゃんも私がいいって!」
「言ってないだろ! ルインがいいって言ったんだよ!」
「そんなわけないでしょ!」
「クマー」
クママが楽しんでるならいいけど、これ以上ヒートアップするとまずくないか?
どうしようかな。喧嘩別れするようなことになったらマズいし……。トップクランとトップ裁縫士の不仲の原因になるとか、勘弁してほしいのだ。
すると、静かに成り行きを見守っていたセキが、いつの間にか動いていた。気づいたら2人の間にスッと割って入っていたのだ。
いつの間に? 全く気付かんかった!
「やめろ。見苦しい」
「ぐぬぬ……」
シュエラの顔にアイアンクローを決めながら引き離す。指の間からハイウッドを睨むシュエラ、ちょっと怖いな!
ホラー映画の女幽霊みたいだ。ハイウッドも引いてるっていうか、気圧されてね?
「あんたどっちの味方なのよ! ていうか、いつまでアイアンクローしてんのよ! 離しなさいったら!」
「お前が悪い。見ろ。白銀さんが困ってるだろうが」
「え?」
いや、シュエラよ。そんな「まさか!」って顔でこっち見られても。こんな騒ぎになって、困らんと思っていたのか?
ハイウッドも、ルインに頭をベシンとはたかれている。
「お主も落ち着かんか。商談に割り込むような真似しおって」
「いや、だってさ……」
「黙っておれ」
「はーい」
ハイウッドがいたずら小僧のように肩をすくめた。真面目そうに見えるけど、こういう一面もあるんだな。
いや、まあ、トッププレイヤーなんてちょっとはっちゃけたところがある奴ばかりだけどさ。
「分担して作ればいいじゃろう」
「ルインさんの言う通りだ。それでも十分店の宣伝になる」
「……ちぇー。セキがそう言うなら仕方ないわね」
「こ、こっちとしては、一枚かませてもらえるならそれでいいよ」
よかった、セキとルインのおかげで争いが収まった。
まあ、俺としては良い物さえ作ってもらえたら、それでいい。むしろ、互いの競争心が煽られて、良い物に仕上がるかもしれん。
そう考えたら、分担して作ってもらうっていうのは俺にとってもメリットがあるな!
俺はその場でシュエラとハイウッド――じゃなくて、セキとルインに溜まりに溜まっていた大量の素材を預けた。
スノウサッカーの素材とか、仰天していたね!
まあ、現状で最高級の素材だし。皮革職人のセキにはめっちゃ感謝された。それに、職人魂を刺激したらしい。かなりのやる気に見えた。
スノウサッカーから手に入れた素材、いい装備になりそうだ。
ルインもスノウサッカーの爪などを興味深げに見ている。この2人なら素材を独占したりせず、融通し合っていい塩梅に分けてくれるはずだ。
持ち逃げしたりもしないだろうしね。シュエラとかも、やらないのは解ってるけど100パーセント信用しきれないっていうの? 悪いやつじゃないんだけど、なんか信用できん。
これが日頃の行いの差ってやつなんだろう。
余った素材は、買い取りをしてもらうように伝えておいた。これで、インベントリの整理もできたな。装備品ができたら連絡してもらう約束をして、彼らとは分かれた。
「少しトラブルはあったが、これで港にいけるな!」
「クマ」
「お前は疲れたような素振りすんな! 楽しんでただろうが!」
「クマー」
テヘッてすんじゃない! 可愛いな!




