756話 ファウの進化を知った運営の場合
「じゃあ、第三陣は前倒し確定っすか……」
「上がイケイケでなぁ。サーバー強化が間に合った国だけだが、少し早めに販売開始される予定だ」
「うへぇ。でも、人数上限なしの完全開放じゃなかっただけマシっすか」
「それやったら、サーバー死ぬからな」
「そうっすねぇ――うわぁぁぁ……」
「どうした?」
「白銀さんの監視――じゃなくて見守りデータが送られてきたんすが……」
「あ、いい。聞きたくない」
「白銀さんが――」
「あーあーあー! 聞こえませーん!」
「子供みたいなことをしないでくださいよ。白銀さんがスノウサッカー倒しました」
「……え? ついさっき、ブラッドオーガに負けてなかった?」
「うす。で、その後で北に行って、イベント起こしてボス倒したっす」
「デスペナでステ半減状態で?」
「そうっす」
「いやいや、なんでだよ!」
「データ見てください。これ、パーティ全員が騎乗プレイヤーっす」
「ああ。ブラッドオーガ戦の面子そのままだったわけか。あれ、スノウサッカーに対しては刺さる組み合わせなんだよなぁ」
「でもまあ、そろそろ開放してもらいたかったわけですし、よかったじゃないっすか」
「まあなぁ。正直、白銀さんに期待していた自分もいる」
「そうっす――うん?」
「どうした?」
「いや、今送られてきたデータが……。ええぇ?」
「……さて、俺は仕事に戻る」
「逃がさないっすよ! 一緒に頭を抱えてもらうっす!」
「くそ! 離せ!」
「ふははは! 運動不足のおじさんに、若い自分が負けるはずないっすよ!」
「……あ、痛い! 腰痛いかも!」
「ちょ、大丈夫っすか?」
「お、おう。なんとか一線は越えなかった。あぶねー」
「ほら、椅子に座ってください」
「今おふざけでギックリ腰になったら、副主任に殺される」
「お、俺も処されるっす! 主任、もう大人しくデータ見ましょう」
「そ、そうだな……。で、白銀さんがどうしたって?」
「妖精ちゃんが進化したんすが……」
「なんか特殊な進化したか? フェアリーは実験的に進化先増やしてるし、開発の奴らが相当遊んだからなぁ」
「3次進化が全部で25種とか、やり過ぎじゃないっすか? しかも、レアな選択多すぎっすよ」
「アレも一応、感情値の実験なんだよ。喜怒哀楽を数値化して、進化や成長に反映できないかってやつだ」
「確か、好きなことを指示されたり、好物を食べたら喜。戦闘時には怒。死に戻ったり、嫌いな行動をさせたら哀。自由にさせてやったら楽が上昇、でしたよね?」
「結局、情報量が増えすぎるとその分だけ情報処理が必要になるからな。フェアリー以外への実装は見送られたが……」
「白銀さんの場合、シンガー、ダンサーが通常進化先。エールが喜び、ミュージシャンが楽が高いと出る進化先っすね」
「ただ高いだけじゃなくて、感情値が突出して高くなきゃダメなはずだぞ?」
「喜楽がダントツ高くて、怒哀がめちゃ低いっす」
「……白銀さんだしなぁ。で? どれ選んだ?」
「進化先はファイアフェアリーっすね」
「ああ、属性の方を選んだか。で? さっきはなんで驚いた?」
「スキルの統合進化が起こりました」
「いや、それなら問題ねぇだろう? 他の従魔系プレイヤーでも、ボチボチ起き始めてんじゃねぇか。全体的に好感度も高くなってきたしな」
「それが、妖精ちゃんが自分で選んだ進化先なんすよ」
「は? 自分でって、どういうことだよ?」
「白銀さんが妖精ちゃんにどれがいいか聞いて、ファイアフェアリー選んだんす。白銀さんもあっさりその選択肢を受け入れて、あっさりボーナスポイント払ったっす」
「ボーナスポイントって……。し、進化先は?」
「炎聖召喚exっす」
「いやいや、exへの統合進化って幾つか条件あっただろ? 確か、普通なら通常スキルにしかならなかったはずだ」
「必要ボーナスポイントがあるかどうか、好感度、進化時の統合進化のみって感じっすね。後、妖精ちゃんが自分でこの選択肢を選んだのは、好感度と自由値が高いせいっす」
「自由値なんて、一番難しいハードルだろ!」
「それが……妖精ちゃんの自由値、バカ高いっす」
「……うん?」
「そんな耳ほじらんでも聞こえてるでしょ?」
「どういうことだ? 自由値なんて、余程自由にさせてなきゃ上がらんぞ? ログアウト時に遊ばせてても意味ないし。一緒にいる時ですら指示出さんようなプレイじゃなきゃ、必要な自由値は達成できないだろ?」
「ログ見たんすけど、まさにそれっす。戦闘時とかは多少指示出してますけど、探索時とかはほぼ自由行動。生産の時とかも、材料与えて後は好きにしろって感じっす」
「え? そこまで?」
「はい。モンスを尊重したり、モンス好きなプレイヤーだってここまで放置プレイはしてないでしょうねぇ」
「じゃあ、他のモンスたちも?」
「そうっすね。バリバリ自由っす」
「そ、そこまでだったとは……」
「好感度高い → AIの行動が色々と多彩になる → 好きにさせてると意外といい結果になるかも? → じゃあ、もっと自由にさせちゃおう! 多分、こんな感じの流れじゃないっすかね?」
「いやいや、もっと序盤から自由にさせてなきゃこの数値はおかしい。下手したら最初期からな」
「まあ、白銀さんっすからねぇ」
「その言葉で全部済ませんな!」
「でも実際、どうもできないですし」
「まぁ、な。しかし、ex覚えたか……。また、白銀さんだけ贔屓してるとか、チートじゃないかとか、下らん問い合わせが増えるんだろうな」
「うす……」
「今のうちに、返答のテンプレ作っておこう」
「うちで一番仕事してるの、実は問い合わせへの自動返答システムさんかもしれないっす」
「毎日24時間働いてくれてるからな!」
「そのうち、AIが反乱を起こすかもしれないっす! 怖い!」
「はっ! だったら俺がぶっ叩いて直してやるよ!」
「甘いっす。今どきの機械は叩いたって直らないっすよ!」
「な、なんだと……?」
「はいはい。遊んでないで仕事しなさい」
「ふ、副主任!」
「主任、第三陣受け入れのための会議の時間です。行きますよ」
「あぁ……もうか……。機械の前に、俺が反乱起こしそう」
「その時は私がぶっ叩いて止めて差し上げますよ」
「……やっぱやめとくわ」
「そうしてください。私も、お世話になっている上司の顔を破壊したくはないので」
「いや、そこは頭に拳骨くらいだろう! こわ!」




