755話 火炎の妖精
そこは、道や家々のレンガ屋根にうっすらと雪が積もる、いかにも北海の港って感じの町だった。
立ち並ぶレンガ造りの重厚な建物の煙突からは、モクモクと煙が上がっている。
名前はそのまんま北海の町。このゲームの町のネーミングって、こんなんばかりだよな。
その町の入り口からすぐの大広場で、俺たちは転移陣の登録を済ませた。これで、今回の冒険は一段落って感じだろう。
ブラッドオーガに挑みたい気持ちはあるけど、まだデスペナ残ってるし、対策のための準備も必要だしね。
ジークフリードたちとは、明日一緒にブラッドオーガ戦に挑もうという約束をして、ここで分かれた。
ログアウト時間が迫っているらしい。あと、アリッサさんに情報を売るのは、彼らが請け負ってくれた。
お金は5等分だ。村へ入ることができたのは俺のお陰だから、取り分をもっと多くしようって皆がうるさかったけど……。
こういうのは誰か1人の活躍だけでどうにかなるもんじゃないしね。戦闘では俺の貢献度が一番低いわけだし、それぞれが得意な分野で協力した結果なのだ。
今回のメンバーが誰か欠けてたら、きっと勝てていなかった。そう言い張って、5等分にするようにとごり押ししておいたのである。
「俺たちはこの後どうしよう」
ファウの進化の内容を早く確かめたいけど、せっかくここまで来たのだ。魚介類を仕入れたい! カニ! ホタテ! エビ! 美味しい美味しい魚たち!
「よし、10分だけ町を歩いてみて、それで何も発見できなければ帰ろう」
「ヒン!」
そう決めて歩き始めたんだけど……。10分って短いね? 結局、俺は店を発見できず帰還することにしたのだった。
「ただいまー」
「ヤ!」
「おわ! 顔面に張り付くなって! 早く進化したいのは分かったから!」
「ヤヤー!」
ファウを引きはがしながら進化先を確認したんだが……。
「へえ。面白い感じになってるな」
「ヤー!」
縁側でウィンドウを覗き込むと、選択肢が7つも出ているのだ。過去最多である。というか、多すぎね? いや、オレアの時の方が多かったか?
「シンガーフェアリー、ダンサーフェアリー、エールフェアリー、ミュージシャンフェアリー、ストーンフェアリー、ファイアフェアリー、ライトフェアリー」
シンガー、ダンサー、エールフェアリー、ミュージシャンフェアリーは音楽系統の進化だ。
全進化先に共通して演奏が上級になり、歌唱・上級が歌い手に、地魂覚醒が一段進化する。
シンガーは歌唱上手、輪唱。ダンサーは舞踊、妖精の踊り。エールは妖精の応援、妖精の踊り。ミュージシャンは楽器作製、楽譜作製を覚える。
どれを選んでも、今以上にバフ、デバフが捗ることに間違いはないだろう。
ストーン、ファイアは、地魂覚醒、火魔召喚によって出た進化先かな? 属性に関するスキルがあることが条件らしい。
ただ分からんのはライトフェアリーだ。好感度マックスの選択肢? それとも、幻惑とか妖精の癒しが光属性の扱い?
ストーンを選べば地魂覚醒が一段進化する以上に強化されるのかと思ったが、そうでもないようだ。
共通のスキル強化に加え、地精召喚、妖精の踊りを覚えるだけである。
地精召喚は、火魔召喚の同系統スキルだろう。悪くないけど、グッとはこない。ファイアフェアリーなんて、火魔召喚と火精召喚が被っちゃってるしさ。
だとしたら、光系統の攻撃方法を覚えるライトフェアリーが一番いいかな?
エールなんかも捨てがたいが、うちはまだ光属性の子がいない。ここはライトでいっちゃうかな?
「俺はライトがいいかと思うんだが、ファウはどうだ?」
「ヤー? ヤ!」
一応ファウに確認したら、なんとファイアフェアリーがいいらしい。ビシッと指さしている。
「え? マジ?」
「ヤ!」
正直、一番ないんだけど……。でも、ファウがそれがいいって言ってるしな。仕方ない。モンスの意思が一番重要だからね!
「分かった! それじゃあ、ファウはファイアフェアリーに進化だ!」
「ヤーヤヤー!」
ファウの体が光り輝く。いつもならすぐにこの光が収まり、新しい姿を見せてくれるはずなんだが――。
『従魔ファウが火魔召喚、火精召喚を所持しています。プレイヤーのボーナスポイントを消費して、スキルの統合進化を行いますか?』
は? なにそれ? 聞いたことないんだけど! え? スキルの統合進化?
とりあえずファウから目を逸らして、ウィンドウを見る。ドリモとか、眩し過ぎて両手で目を覆っちゃってるな。もう少し我慢してくれ。
ウィンドウには、ボーナスポイントを20支払い、スキルの統合進化を行うか否かという選択肢が出ている。
いや、20って……。払えるけど、ちょっと重すぎん? 上位スキルをいくつ覚えられるか。まあ、俺は使い道を決めあぐねて溜めまくっちゃってるけどさ……。
一応、それとは別にボーナスポイントを支払わない進化先もあるようだ。でも、絶対にボーナスポイント払った方が強いよな……。
ま、ファウのためだったらいいか。聞いたことないシステムだし、面白そうだ。うん、ここはいっちゃおう!
「ポイントを支払って、スキルを統合進化するぞ!」
「ヤー!」
そして、ようやく進化が完了する。
名前:ファウ 種族:ファイアフェアリー 基礎Lv50
契約者:ユート
HP:128/128 MP:245/245
腕力9 体力9 敏捷50
器用40 知力43 精神37
スキル:演奏・上級、回復、隠れ身、歌い手、聞き耳、採取、火耐性、夜目、錬金、広域音響、飛行、回避、気配察知、幻惑、妖精の癒し、奏者、地魂覚醒・精霊、妖精の踊り、炎聖召喚ex
装備:火羽妖精のリュート、火羽妖精の衣、火羽妖精の首飾り
進化したファウは、今まで以上に美しかった。
サイズは変わらない。ただ、着ていた青いレオタードに赤い刺繍や装飾が追加され、翅が赤く染まっているのだ。それも血のような不吉な赤ではなく、薄紅色の淡く可愛らしい赤だ。
髪の色とも非常に合っている。
そして、スキルの欄に燦然と輝く、炎聖召喚exの文字。exスキルだったか! そりゃあ、ボーナスポイント20必要になるわ!
「これ、どんな能力なんだ? 早速試したいな」
「ヤー!」
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