747話 闇のオーラ
ブラッドオーガとの戦いは、凄まじい激戦になっていた。
見た目の威圧感通り、赤黒いオーガは凄まじい攻撃力を持っている。そのため、ジークフリードたちトッププレイヤーであっても、攻撃を食らうと大ダメージだ。
しかも騎乗しているので、ダメージはプレイヤーと騎獣、双方に入ってしまう。それを回復するのも少々手間なのである。
ただ、ブラッドオーガは防御力がかなり低く、騎士たちの攻撃でかなり削ることができた。問題は、高レベルの再生能力だろう。
そう。こいつは掟破りの再生能力持ちボスであったのだ。ちょっと削るくらいじゃすぐ再生されてしまうので、非常にウザい。
要は、短時間に削り切れってことなのだろうが、難しい理由があった。このオーガ、カウンター能力持ちなのだ。
普通に剣での反撃もしてくるし、HPが一定値を下回るとダメージ判定のあるオーラのようなものを身に纏うのである。
ヒムカの逆襲者スキルのように触れるだけでダメージが入り、衝撃で攻撃もキャンセルされてしまう。
そもそも防御力が低いとはいえ、エリアボスである。連続攻撃を何度も叩き込まなきゃ、倒しきれない。
しかし、俺以外は全員近接職である。オーラのダメージは無視できなかった。
「問題は、あの黒いオーラだね!」
「近寄るだけでダメージを受けてしまいますからねぇ!」
「すれ違うだけでHPが2割持っていかれるんだけど」
「落下しかけたぞ!」
サーベラスライオンと違い、こちらはレイドボスではない。今の人数でも絶対に勝てないってことはないと思うんだがな……。
その後、戦いながら色々試していると、レーが大きな動きを見せる。あえてハナズオウの足を緩めて、ブラッドオーガのオーラを浴びているのだ。
ダメージも受けるし、オーガの攻撃を食らいかねんぞ!
だがレーは涼しい顔で、振り下ろされたブラッドオーガの曲剣を受け流す。
細い剣で難しい受け流しを2連続で成功させるとか、神業すぎ! プレイヤースキルが凄すぎて笑うしかない。さすがトップ騎士プレイヤーだ。
それに、もう1つ驚く点があった。
「あれ? レー、オーラのダメージを食らってなくない?」
「ぬふふふ! 気づきましたか白銀さん! 実は、闇魔術を使ったのですよ!」
「あれ? 闇魔術? もしかして習得できたのか?」
「はい! スキルスクロールを手に入れましてねぇ!」
以前から闇魔術を覚えたいと言っていたレーだが、なんとスキルスクロールをゲットしたという。
「聖職者系統に進みたいプレイヤーが手に入れたスクロールを、譲ってもらったのです。全財産使いましたが、問題ありません!」
なるほど、聖騎士とか聖職者を狙っているプレイヤーからすれば、闇魔術は覚えたくないスキルな訳か。それを譲ってもらったと。
暗黒騎士狙いのレーには必須のスキルだし、高額でも構わなかったんだろう。
「ダークガードの術を使いました。闇属性の攻撃を数秒間無効化する効果ですが……」
「なるほど!」
だからオーラのダメージを食らってないわけか! つまり、ブラッドオーガのオーラは闇属性なわけね。
だったら――。
「メルム!」
「ニュ!」
「やつに近づいて、あのオーラを吸収できるか?」
「ニュー!」
闇精霊であるメルムは、闇吸収というスキルを持っている。これは敵の闇属性攻撃を食らった際、その攻撃を吸収して自身のHP、MPを回復するという能力だった。
メッチャ強そうに思えるが、実際はそこまで闇に対して無敵というわけじゃない。敵のレベルが高すぎたり、上級の魔術などは吸収できないのだ。
ただ、今回は問題ないらしい。メルムがふわりと浮き上がると、頭上からオーガ目がけて落下していった。
「ニュニュー!」
「ガァ?」
そのままブラッドオーガの肩の辺りに張り付くと、即座に背中側へと移動した。
「ガアァァ!」
「ニュー!」
ブラッドオーガがメルムを引きはがそうとしているが、手が届かない。背中のゴミを取れないマッチョさんみたいになっている。
剣で突き刺そうとして、自傷ダメージを食らってるんだけど! メルムも剣でダメージを食らってしまうが、即座に回復した。
ブラッドオーガのオーラを吸収して、回復し続けているらしい。
そして、10数秒後。
「ガァァ!」
「やった! 白銀さんスゲーよ!」
「俺たちも闇精さんに続け!」
ブラッドオーガを覆っている黒いオーラが消え去っていた。HPが回復したことで、消えたわけではない。
メルムに吸収され続けたことで、一定時間オーラが無効化されるような形になったようだ。好機と見て、リチャードとラモラックがジャンピングバードを走らせる。
騎士四人が突撃攻撃を成功させ、ブラッドオーガのHPが一気に削れた。すると、再びブラッドオーガの体がオーラに覆われる。だが、今回はその名前の通りの、真っ赤なオーラである。
「ガアアアァァ!」
「ニュニュー!」
「メルム!」
オーガが咆哮を放つと、メルムが吹き飛ばされた! あのオーラもまた、物理的な干渉力を持っているようだ。
ただ、怯んで様子見をしてしまっては、また再生されてしまうだろう。
「リック! 攻めろ!」
「キュー!」
「ユート君の言う通りだ! 僕らも攻めるぞ!」
「ぬふふ! そのデカい尻に一撃くれてやるとしましょうか!」
「なんかいかがわしい!」
「こいつが騎士の中でも特に有名プレイヤーの1人とは……」
リチャードもラモラックも、項垂れてないで攻撃するぞ!




