745話 赤いオーガ
PCの不調で予約投稿失敗しておりました! 申し訳ありません!
ボスフィールドに突入すると、俺たちの動きが固まってしまった。
「え? 体動かんのだけど」
キャロたちの声も聞こえない。モンスたちも固まっているんだろう。
「これは、イベント演出だね」
「あー、なるほど」
イベントのムービー的なものや演出が差し込まれる際、終わるまでプレイヤーや従魔などのNPCの体が固まってしまうことがあるのだ。
俺も久々に体験したから、驚いちゃったぜ。
「ガアアァ!」
「ひぃぃぃぃ!」
そこにいたのは、緑色の皮膚に筋肉質の体、3メートルを超える巨体の怪物。
間違いない、オーガだ。
その小脇には、黒い猫を抱えている。あれが、俺たちが追っているオーガとケット・シーで間違いないだろう。
追えば間に合いそうなのに、体が動かないのがもどかしいね!
オーガは、深い傷を負っていた。特に大きいのが、背中の傷だろう。道中の血溜まりは、オーガのものだったらしい。
手負いのオーガは、円形の広場を奥へと向かって駆けていく。
「ガアアアアア!」
「うひゃぁぁぁ!」
うわ、なんだあれ! 俺たちを跳び越すように、何かが通過していったぞ! 超ビビった!
形はオーガっぽい。筋肉質の人型で、頭には角を生やしている。
だが、緑色のオーガに比べ、一回り以上大きかった。しかも。その皮膚は血のように赤い。最初は血を流しているのかと思ったほどだ。
その赤いオーガは疾風のように駆けると、緑色のオーガへと襲い掛かっていた。仲間じゃなく、敵対しているらしい。
赤いオーガが両手に持つ巨大な曲剣を振り回し、緑のオーガを切り刻む。
「にゃぁぁぁぁ!」
黒い猫、悲鳴を上げながら飛んでったぁ! オーガがポリゴンとなって砕け散り、ケット・シーはヒューンと吹き飛んで広場の奥の通路へと姿を消していた。
そして、赤いオーガが静かに立ち止まると、こちらを振り向く。その両目が俺たちを射抜き、巨大な口がニヤリと笑った。
「ボスフィールド出現! 戦闘開始だ!」
「くふふふ。演出有りのボスとは、強そうですねぇ!」
レーが言う通り、赤いオーガはかなりヤバそうだった。まず、雑魚敵として出現するオーガに比べて、1.5倍くらい大きい。
しかも、その両手に曲剣を装備していた。棍棒以外の武器を使う個体なんて、初めて見たのである。
「つ、強そうだな」
「ブラッド・オーガ……初めて見たよ」
「くふふ。普通のオーガ以上のダーティな感じが、良いですねぇ!」
気後れしているのは俺だけっぽい。騎士たちは全員がやる気の顔だ。
「ウガアアアアアアアアアァァァァァッ!」
こわっ! 超怖い! 子供だったらギャン泣きするぞ!
巨大な鬼が顔を歪ませて咆哮を上げる姿は、マジで恐ろしいのだ。
「ヤヤー!」
「フマ!」
「キキュー!」
だが。不甲斐ない主とは違って、モンスたちは超やる気だ。
恐れる様子もなく、オーガを睨みつけながら不敵な表情でシャドーボクシングをしたりしている。
「くるぞ!」
「ウガアァァァァァ!」
ブラッドオーガは膝を大きく曲げると、直後には凄まじい加速でこちらに襲い掛かってきていた。鈍重なオーガのイメージに反して、メチャクチャ速い。
俺たちは咄嗟に散開して、その攻撃を回避する。
ドゴン!
凄まじい轟音とともに俺たちが立っていた場所が粉砕され、土煙が舞い上がった。
あんなの無防備に食らったら、一撃で死に戻りじゃね? さすが新エリアへの進出を阻むボスだ!
というか、第11エリアのサーベラスライオン戦は、事前に相当な準備が必要だった。それが、こんな成り行きで戦いに入っちゃったんだけど……。
まあ、仕方がない。あの時は運よく突破できたが、普通は何度も死に戻って情報を集める訳だしね。
今回はそのつもりで、できるだけ粘って戦おう。
それに、初見云々以外にも、不利な点があった。
「いやー! ここは狭すぎる!」
「マジでヤバいよな!」
騎士たちが嘆くように、ここは騎獣を走らせるには少々スペースが足りていなかった。直径は20メートルくらいか?
騎獣が全速力で走れば、あっという間に壁だ。攻撃時にも助走が必要な彼らにとっては、決して広いとは言えないサイズだった。
「ウガアァ!」
「あぶなっ!」
今もオーガの攻撃がラモラックに当たりそうだった。
壁に当たらないようにフィールド中央で小さく動き回っていると、オーガの広い攻撃範囲に巻き込まれてしまうらしい。
俺? 俺は案外平気だ。キャロの小ささが、ここでは小回りに繋がってむしろ有利に働いているのである。
「とは言え、あんなの食らったらマジでぺしゃんこだからな。キャロ、頼むぞ……!」
「ヒヒン!」
嘶くキャロさん、マジ頼りになるー!




