743話 西の妖精村
妖精村には、様々な種族のNPCが暮らしていた。ハーフリング以外にも、最初に選んだ各属性に特化するアールヴや、ウッドリング、グラスリングなど、色々な種類がいるな。
しかも、ケット・シーやクー・シーといった初めて見る種族もいるじゃないか!
二足歩行の猫や犬……。モンスやマスコットとはまた違う可愛さがある。な、仲良くなったらモフらせてくれんかね?
自分であの姿になりたいとは思わんけど。
妖精系の種族は癖が強いので、あまり人気はない。ある分野には強いけど、それ以外は弱いということが多かった。俺のハーフリングも、ほとんど見かけないのだ。
ぶっちゃけ、基本種族と言われるヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人がバランス良過ぎるんだよね。
苦手なことがないソロ向きのヒューマン。魔術系は全て得意で敏捷も高いエルフ。生産に加え戦士もいけるドワーフ。種族によって得意なことが異なるが、弱い種族がいない獣人。
みんな、最初は失敗したくないのは当然だし、種族情報の少ない第1陣、第2陣は基本種族で始めた人が圧倒的多数だったそうだ。
それで不満がある人は、種族転生をってことなんだろう。
「第10エリアにあった獣人の隠れ里と同じくらいの規模だな」
「そうだね! ここがホランドたちが見つけた隠れ里と同種のもので間違いないんじゃないかな」
「くふふふ。大発見ですよ」
村の中を歩き回って見学してみる。
荒野の中にあってこの村だけは、水が湧き出る泉を擁しているようだ。村の中には、草や木々が生えている。
そんな村を探索し続けていると、ここでも大きな石像を発見した。村はずれから少し奥に行った岩山の中にある、神々しい像だ。
エルフっぽいけど、少し背が低い感じの少年神様である。レーがなにやらスクショを取りまくっていたが、こういう感じの光景やアイテムが好きなのかな?
それに触れると、案の定クエストが提示された。内容は、以前に受けた転生クエストとほぼ同じである。
妖精神の試練
内容:レア度6以上のモンスター素材を3つ捧げよ
報酬:妖精の因子。もしくは、ボーナスポイント5点。
期限:なし
つまり、ここはエルフ以外の妖精種に転生できる村ってことなんだろう。
ただ、俺たちの今回の目的はこれじゃないんだよな。俺だけならすぐに達成できるけど、ジークフリードたちは討伐系の内容らしいので、今回は大人しくしておこう。
1人だけクエ達成させてくれとか、自己中すぎるしな。
「神像はあったが、肝心の第12エリアへと抜けるヒントみたいなもんはなかったな」
「NPCに声かけなきゃダメなのかね?」
リチャードたちが言うように、村全部を回っても特にクエストとかも始まらなかった。ホランドたちは村でクエストが起きて、特殊なダンジョンへと入れるようになったらしいが……。
その後、村で話を聞いても、特にクエストなどは発生しなかった。
「好感度的な物が足りてないのか?」
「それはない」
「ああ、ないな」
「ないですねぇ」
「ないよ」
俺の言葉を騎士4人組が即座に否定してきた。息が合ってるね。
でも、なんでだ? 好感度なんて目に見えるもんじゃないわけだし……。俺がハーフリングだから? 獣人村も、獣人プレイヤーの方が見つけやすいって話あったもんな。
まあ、彼らには確信があるようだし、ここは信用しておくか。多分、騎士専用クエストとかで、このエリアのNPCの好感度を上昇させている確信があるんだろう。
「ホランド君たちは、村に入るまでが非常に大変で、入ったらあとはすぐだったと言っていたんだが……」
「だったら、イベント発生に必要なフラグを踏んでないのかねぇ?」
「くふふ。それしかないでしょう」
「とりあえず、NPCに声をかけて回るしかないか? 見逃してるNPCがいるかもしれん」
騎士たちが相談している中、俺はモンスたちに纏わりつかれていた。
「ヤヤー!」
「フマー!」
「な、なんだなんだ?」
ファウが俺の耳を引っ張り、アイネがローブをグイグイと引っ張る。なにか、訴えたいことがあるのか?
ファウたちに誘われるがままに歩いていくと、そこは村の裏口だ。とはいえ何かが見える訳でもなく、村とは違い相変わらずの荒野が広がっている。
「何を見せたいんだ? うーん?」
「キキュ!」
「ニュー!」
リックもメルムも、同じように何かを訴えかけてくる。
「あの、大きな岩?」
「ニュ」
「じゃあ、あっちの山?」
「キュー」
全然違う? いや、なんだよ。
俺が首を傾げていると、ジークフリードたちも近寄ってきた。
「ユート君、どうしたんだい?」
「何か発見したのでしょうか?」
「いや、モンスたちが何か言いたいみたいなんだけど、よく分からなくて」
「ヤー!」
「フマ!」
モンスたちは、ジークフリードたちにもジェスチャーで何かを訴え始める。
すると、レーが何かに気付いたらしい。
「あの地面。あそこにあるのは、轍ではないですか?」
「え? マジ?」
レーが言う通り地面をよく見たら、確かに轍のような線がある。皆で近づくと、間違いなく轍だった。
「つまり、村の中でイベントが起きるわけじゃなく……?」
「そうだね。僕もユート君と同じ意見だ。きっと、この先に何かがあるんだろうね」
どうやら、この村はただの中継地点であったらしい。こんなパターンもあるんだな。




