742話 西の隠れ里
「白銀さん! アコラちゃんは?」
「分かった! 背中ね――あれ? いないわね」
「まだレベル低いから、連れてきてないだけだ」
「えー!」
「そんなー」
騒ぎが少し落ち着いたのを見計らってアメリアたちに声をかけたんだが、第一声がこれだよ!
イワンが呆れた顔だ。
「……お前ら、さては反省してないな?」
「うぐ……」
「ごめんなさい……」
「スクショだけではザコアラちゃんの可愛さを理解できなかった私たちは、所詮はエセ可愛いもの好きだったということ……」
「眼球節穴女だったのよ……」
「このアメリア、一生の不覚!」
「修行して出直します……」
自主的に正座を始めたアメリアたちは放っておいて、イワンと情報を交換する。彼らも第12エリアを探しているようだ。
しかし、半日かけても、まだ何も発見できていないという。
「白銀さん。ぜひ先へ進む方法を見つけてください!」
「いやいや、イワンたちが半日かけて見つけられなかったものを、さっき来たばかりの俺が発見できるわけないじゃん」
「白銀さんなら大丈夫ですって」
メッチャ期待されてるね。一応、第11エリアとかでも発見をしてるわけだし、そっち方面で期待されてるのか?
なんか、ちょっと有名人になったみたいで嬉しいけど、調子に乗ると失敗するのが俺だからね! 天狗にならないようにしないと。
「まあ、とりあえずもう少しこの辺を巡る予定だから、可能性はゼロじゃないけどさ」
「おー!」
何故か拍手してくれるイワンたちに別れを告げ、俺たちはセーフティゾーンを後にした。アメリアもウルスラも、まだ正座してたな。ゲームの中だと足痺れたりはしないと思うけど、メチャクチャシュールな光景だったぜ。
「さて、それじゃあもう少し西へと向かってみようか?」
「ふふふ。そうだね」
ジークフリードたちが、馬首を西へと向ける。とりあえずエリアの端まで行ってみようってことらしい。
ただ、その道中で俺たちは不思議なものを発見していた。
「あれ! 轍じゃないですか?」
「え? ああ! 確かに!」
最初に気付いたのはジークフリードだ。その指さす方を見ると、大きな線のような跡が地面に付いている。
少し速度を落として近づくと、それは確かに轍であった。この世界には馬車などもあるし、その通った跡だろう。
「前からこんなのあったか?」
「くふふふ、寡聞にして存じませんねぇ」
「俺も聞いたことないな」
リチャードたちも初見であるらしい。
でも、どこから来てる轍だ? 周辺を見渡しても轍はなく、この場所から急にできてるんだけど。
「多分、この辺は土が柔らかいんでしょうね」
「あー、そういう設定ね」
気にしても仕方ないし、この轍を追っていってみるしかないか。
「それにしても、さすが白銀さんですねぇ! 素晴らしい運命力!」
「え? いやいや、見つけたのジークフリードだから」
「でも、ユート君がいなかったら見つけられなかったんじゃないかな?」
ジークフリードは相変わらず俺を持ち上げてくれるよね。でも、さすがに今回は無理があるぞ? 最初に見つけたのもジークフリードだったし。
俺たちは警戒しながら轍を辿った。すると、その先に驚きのものが見えてくる。
荒野の中に、村が現れたのだ。
全員が驚愕である。だって、こんな村の話、聞いたこともなかったのだ。
この村を見て、俺だけではなく全員がある情報を思い出していたことだろう。
ホランドたちが第12エリアを発見した際、そこに繋がる情報を隠れ里で得たそうだ。俺たちが第10エリアで、獣人の隠れ里を発見した時と同じだった。
つまりあの村は――。
「くふふふ! 隠れ里ですかね!」
「その可能性は高そうだな!」
「やったぜ!」
「でも、全然隠れていないよ?」
レーやラモラックが騒いでいる通りだ。どう考えても隠れ里だった。
ただ、ジークフリードのツッコミの通りでもある。全然隠れていない。
近づくと、門の前に兵士のようなNPCが立っている。俺たちは刺激しないよう速度を落とし、村の前で足を止めた。
そして、馬から降りてNPCに声をかける。
「こんにちは!」
「やあ! こんな辺鄙な村に旅人さんとは珍しいね!」
よかった、友好的だ。ゆっくりと近づきながらNPCを観察する。驚いたことに、俺と同じハーフリングさんだ。珍しいな。
他の町でもほとんど会ったことないぞ?
「色々な種族がいるね? 君たちはどっからきたんだい?」
NPCの問いかけに対し、誰も答えない。何故か俺を見て、一歩後ろに引くではないか。どうも、俺に任せようというらしい。
え? なんで? あ、同じ種族だから? だが、この中で俺が一番下っ端に見えるぞ?
白騎士のジークフリードに、黒騎士のレー。筋肉ムキムキの征服王みたいな見た目のリチャードに、大きな盾を背負った重装のラモラック。そして、貧弱な俺だ。
だが、誰もが無言で俺を見つめ続けているではないか。ジークフリードを見つめ返しても、ビクともしやがらねぇ。
まあ、少しでも好感度高そうな人間が相手をした方がいいのは確かだが……。仕方ない。決して、視線の圧力に負けたわけじゃないよ? 合理的に考えて、俺が適任だから!
「こ、ここから東にある、ビステスってとこからだ」
「ああ! あそこね。遠いところからきたんだねぇ」
あの轍は、商人の馬車が付けたものらしい。しばらく間が空いているが、そろそろ村にくる時期じゃないかって話だった。
「えーっと、村に入ることはできるかな?」
「勿論さ! よくきたね! 歓迎するよ!」
隠れ里ではあるが、排他的じゃないようだ。というか、ゲーム的なアレコレのせいでプレイヤーから隠されてはいるけど、本人たちは隠れているつもりがないんだろうな。
「ようこそ! 西の妖精村へ!」




