741話 流派奥義
レイドボス戦を終えた俺は、問題なく奥義を得ることができていた。
メッチャ光る以外は一瞬だったね。まあ、いつもと同じだ。
あと、流派クエストこれで終わりじゃなかった。サジータからは新たなクエストを提示されていたのだ。
流派クエスト
内容: ボス戦で奥義を100回使用する。
報酬:50000G、奥義進化
期限:なし
これは、いずれでいいや。すぐには達成できそうもないし。
「いくぞ! 人馬流奥義・五連星!」
この奥義は少し特殊で、使用後に放った遠距離攻撃が5発に増えるというものだった。
ただの弓攻撃でも、爆弾投擲でも、魔術でも構わない。一定以上の距離の出る攻撃であれば、増殖可能であるそうだ。
つまり、使用する攻撃によって威力が大幅に上下するのだ。下位の魔術が5発に増えたところでたかが知れているが、弓の高位アーツなどであれば相当なダメージになるだろう。
リキューの特製爆弾なんかでも相当な威力が期待できる。まあ、自爆確率も5倍だけど。
デメリットとしては、精密射撃が難しい点だろう。オリジナルの1発に合わせて、周囲に散る様に放たれるのだ。
そのため、弱点目がけて5連打という感じでは使えなかった。
まあ、それでも十分強いけどね。
今も、俺が放った範囲魔術が5発に増え、超広範囲にダメージを与えていた。フォレストウルフが全滅だ。
「いやー、凄いねユート君!」
「くふふ。素晴らしいですね!」
褒めてくれたのは、白騎士ジークフリードと暗黒騎士レーだった。
今日はジークフリードに誘われて、騎士プレイヤーたちと遠乗りにきたのだ。場所は第11エリア、西の大荒原である。
ああ、その前にちゃんと情報は売りに行ったよ?
でも、うみゃーは聞けませんでした。流派奥義の情報はもう珍しくなくなってきているようで、俺もついに手に入れたか的な反応だったのだ。
アコラの情報も、すでに色々と知られていたみたいだった。普通に連れ歩いて戦闘もしたし、その噂が伝わっていたらしい。
興奮はされたけど、驚くとまではいかなかったね。残念!
「それでは、このままエリアの奥へと行こうか」
「了解」
正直、第11エリアは敵が強すぎて遠乗りには向かない気がしたけど、探索も兼ねているからな。
実は、俺たちがレイドボス戦をしている最中に、ホランドたちが第12エリアに到達したらしい。
全然気づいてなかったよ。
結果、第12エリアを探すプレイヤーが増えており、ジークフリードたちもそのつもりであるようだった。
遠乗りをしつつ、あわよくば何かヒントをって感じらしい。ジークフリード、レーに加え、彼らの騎士仲間であるリチャード、ラモラックも一緒だ。
彼らは大きなダッシュバードに跨っていた。いや、どちらも進化しているようだ。鑑定させてもらうと、種族がジャンピングバードとなっている。
ダッシュバード以上に素早く、跳躍力に優れているらしい。羽ばたきと合わせて、25メートルくらいは跳べるというのだから、すごいね。
ラモラックはドラゴン、リチャードはグリフォンへのルートを狙っているそうだ。
グリフォンは何となく分かるけど、ダチョウからドラゴン?
だが、鳥の祖先は恐竜だと言われているし、馬や鹿、ロバよりは可能性があると力説されてしまった。普通に蜥蜴とかの方が良くないかと思ったら、手に入らなかったという。
まあ、頑張ってくれ。
因みに今のパーティは騎乗中のキャロに加え、そのキャロに付いてこられるメンバーである。飛行可能なファウ、アイネ。キャロに同乗可能な小型のリックに、浮遊で重さを感じさせず俺に張り付けるメルムだ。
ジークフリードとパーティを組んでいるから、2枠埋まってしまっている。そのため、今は5体までしかモンスを連れてこれていないのだ。
ああ、敵が強いこともあって、アコラはお留守番である。
「いやー、遠乗りも悪くないな」
「ヒヒーン!」
「ヤヤー!」
「ニュー!」
全員が騎乗して駆けているから、敵を先に発見できればエンカウントを素早く回避できるし、遭遇しても簡単に逃げ切れる。
これなら、リスクを減らして探索に集中できるな。
そうこうしている内に、俺たちは途中のセーフティエリアに辿り着いていた。ここで少し休憩する予定なのだ。
「あれ? イワンじゃないか? アメリアも!」
「白銀さん! どうもです!」
テイマー仲間のイワンたちだった。アメリア、ウルスラの姿もある。しかし、何やってるんだ?
何やら、アメリアとウルスラが並んで、震えているんだが? ワナワナした感じで、足元を見つめている。
「え? それってもしかしてコアラ?」
「はい。ザコアラのドーランです」
「へー!」
まさか、うちのアコラ以外にコアラが発見されていたとは思わなかった。黒い体毛に鋭い目つき。カッコイイ寄りだが、ブサ可愛さもある。
なかなかそそられる外見だ。
もしかして、ココアラの進化先の1つか?
「可愛いな! な、撫でたりできないのか?」
「できますよ。そういえば、白銀さんもコアラちゃんを仲間にしたんですよね?」
「あー、そうなんだけど、今日は連れてないんだ」
「そうですかー」
すまんね。ぜひ畑にきてくれたら、紹介するからさ。イワンと会話しながら、ザコアラのドーランを撫でさせてもらった。
フカフカで、アコラとはまた違った良さがある。フェルトというか、ヌイグルミっぽい感じなのだ。
「あー、癒されるー。ザコアラいいな!」
「でしょ! それをこいつらは――」
イワンがアメリアたちを横目で見た瞬間だった。
「直接見たら可愛いぃぃぃぃ! イワンの写真の腕が悪いのが悪いぃぃぃぃ!」
「ずるい! こんなかわいいだなんて! イワンに嵌められた! ごめんなさい!」
「申し訳ありませんでしたー!」
アメリアとウルスラが弾かれたように動き出したかと思ったら、土下座しながら謝罪の言葉を叫んだ。
「え? なんだこれ?」
「こ、こっちの話なんで、気にしなくていいですよ? それよりもお前ら! 土下座やめろ! 俺が変に思われるだろ!」
た、他人の土下座ってこんなに引いちゃうものだったのか。美女だとなおさら哀れに見えるっていうか……。
超注目されてるね。イワン、何があったか知らんがガンバ!




