737話 アコラの戦い
プレイヤーたちの注目を振り切って町の外に出た俺たちは、そのままフィールドのボスを目指す。とは言え、道中の戦闘でアコラの能力を確認するのが先だけど。
アコラはさすがに足にしがみつくのは止めてくれたけど、今度は俺の背中にしがみついている。バランス崩れるしどうしようかと思ったけど、リックやファウが俺の肩に乗るのは許してるしな~。
結局、そのまま進むことにした。
それに、敵が出現したらちゃんと地面に降りたからね。
「アコラ、いけるか?」
「ラ!」
登場したラビットに対し、ちっちゃい両手を軽く突き出す構えをしたアコラが対峙する。拳は完全に握りこまれてはおらず、どちらかと言えば半開き状態だ。
ボクシングかと思っていたけど、拳法っぽさもあるらしい。
「アコラ、がんばれ!」
「ラ!」
こんなに可愛いのに、戦う気満々だ。恐れる様子も微塵もない。
そして、ウサギ対コアラの壮絶な死闘が始まった。
「ピョン!」
「ラー!」
ラビットのタックルを、アコラが華麗に躱す。そして、すれ違い様にカウンターを叩き込んだではないか。
アコラの右フックがラビットの頭部にクリーンヒットし、その白いモフモフの体を数メートル弾き飛ばした。
アコラ、すごいな! 治癒の補助じゃなくて、殴りメインでも十分通用しそうだ。ただ、まだステータスが低いせいか、ダメージはかなり低かった。
カウンターで直撃したのに、3割くらいしか減っていない。しかし、アコラは焦らなかった。相変わらず軽くステップを踏みながら、相手の攻撃を待つ。
「ピョピョーン!」
「ララ!」
よし! また回避――はぁ?
「ピョン!」
「ラ?」
ラビットの野郎! タックルにいくと見せかけて、前足を踏ん張って動きを止めやがった。即座に反転したラビットが、後ろ脚を思い切りアコラに叩き付ける。
「ラー!」
今度は、後ろ足キックを食らったアコラが吹き飛ぶ。HPが半減してしまった! これはヤバい!
咄嗟に助けに入ろうとしたら、アコラがバッと手を突き出し俺を制止する。
「ララ……」
「て、手を出すなって言うのか?」
「ラー!」
アコラは親指で口の端をビッと拭うと、再び構えを取る。漢やで! さすがドリモの子供だー!
「ピョーン!」
「ラー!」
三度繰り出される、ラビットの殺人タックル。アコラは今度も躱して見せるが、ラビットも再び動きを止めるフェイントを繰り出していた。
もう1発後ろ足キック食らったら、危険だぞ! しかし、アコラはさらに上をいっていた。キックを読み、それも回避したのだ。
両足キックをスカされ、ウサギは完全に無防備である。そこにアコラの右拳が叩き込まれた。
タンという強い踏み込み音と共に、ラビットがくの字になって吹き飛ぶ。踏込みスキルを使ったらしい。
吹っ飛ぶラビットのHPは、レッドゾーンに突入していた。そこに、アコラが追撃を加える。再び踏込んでの左フックだ。
鋭い打撃によってラビットのHPは砕け散り、アコラは勝利したのであった。
「ララー!」
両手を突き上げ、雄たけびを上げるアコラ。やはりその性格は武闘派であるらしい。可愛いのに。
「アコラ、治癒は自分に使えるか?」
「ラ」
アコラがお祈りするように掌を合わせると、その体が淡く輝いた。すると、アコラのHPバーが全快する。
その分MPの消費は大きいらしいが、回復役も十分務まりそうだった。
毒消しと消火もあるし、保存袋のおかげでアイテムを多く常備できる。死なない回復役として、活躍できるんじゃなかろうか?
しかも攻撃もいけるし。ヘイト管理はメチャクチャ難しそうだけどね。
「よーし! このままボスいくぞ! アコラ、頑張ろうな!」
「ラ!」
俺たちが目指しているのは、サヴェージドッグである。最初の頃には超強敵だったが、今は俺たちでも楽勝だ。
多分、俺がソロでも勝ててしまう。
単純な戦闘力ではもっと弱いボスもいるが、そいつらは範囲攻撃をしてきたりもするのでアコラが死に戻る可能性もあった。ファウが仲間になったばかりの頃、それで倒されたのだ。
道中の敵を蹴散らしながら、フィールドボスを目指す。アコラは武闘派だが自分の役割を忘れるようなことはなく、ちゃんと後衛で回復役に徹してくれていた。
それから15分ほど進むと、特に波乱などなくボスエリアへと突入する。すでに何度倒したか分からない巨大番犬。サヴェージドッグの登場だ。
こいつ相手にやりたいことは2つ。まずは、アコラの必殺技の確認からだな。
「アコラ! 竜血覚醒! やつを攻撃するんだ!」
「ララー!」
アコラの可愛い雄叫びと共に、その体が光り輝く。
その光が治まったとき、そこには1匹の可愛いドラゴンの姿があった。赤っぽい鱗に、小さい手。足は太く、尾も太く長い。背中には小さいながらも翼が生え、頭部からは2本の角が後方へと伸びている。
ドリモとはちょっと違うな。ドリモの場合は茶色系の鱗で、4足歩行。ややトリケラトプスっぽさも感じさせた。
だが、アコラの姿は、いわゆるドラゴンそのままだった。
「ララー!」
「ああ、鳴き声はやっぱそのまま――ええぇ?」
「ラー!」
と、飛んだじゃん! しかも炎はいたぁぁぁぁ!




