732話 息吹の効果
大地母神の息吹を使用したことで、モンスたちは大喜びだ。まあ、成果も結構凄いし、畑に関わるオルトたちが喜ぶのは当然かもしれんが。
まずは株分けだが、普段よりも品質が1か2上昇した。元々高品質の場合は、1しかあがらないらしい。
品質が1つ上昇するだけじゃさほど凄い効果には思えないかもしれないが、こういう小さいことの積み重ねが大事なのだ。
さらにその種を植えて、水をやる。大地母神の息吹が働いている今なら、育つ作物も品質が上がるだろう。
さらにヤバいのが、収穫である。なんと、元の作物よりも品質が1つ上昇したのだ。あり得ない有用さだろう。
株分け、種蒔き、収穫時に大地母神の息吹を使っていたら、品質が3も上昇する可能性があった。いや、水撒きや肥料やりにも効果が出るなら、5つ上昇か?
それはさすがに期待し過ぎだとしても、3も上昇したらかなり凄いだろう。発動時間10分は短いかと思ったけど、これ以上はバランスがおかしくなるのかもしれない。
さらに俺が期待しているのは、水臨樹や神聖樹への影響だ。見た感じ成長が止まってしまっているんだが、これ以上育つにはかなり時間が必要なんだろう。
それが少しでも早まれば嬉しいのである。まあ、元々の成長率が分からんから、どれくらい早まったかどうかは分からないけどね。
「再使用までは24時間か。モンスたちの覚醒系の技と同じなんだな」
検証はこれで終わりかな? 1回くらいじゃ詳しく分からんかった。
「さて、次はどうしよう」
技巧神と魔導神の試練が残ってるけど……。
「でも、先に流派イベント進めちゃおうかな」
流派の試練をいつの間にか達成してたし、その報告に行っておく方がいいだろう。ということで、俺はサジータのところへと向かった。
「やあ。初段の試練をクリアしたみたいだね」
「はい。少し時間がかかりましたが」
「いやいや。十分早いと思うよ? おめでとう。昇格だ」
『ユートさんの所持する『人馬流初段』の称号が、『人馬流中段』に変化します』
「それじゃあ、次の試練だ」
流派クエスト
内容: 騎乗したまま遠距離攻撃を使用し、ボスモンスター10種類を撃破する。
報酬:20000G
期限:なし
まあまだ初段だし、試練は続くよね。でも、これってどうなんだ?
「あの、ボスってどんな相手でもいいんですか?」
「フィールドやダンジョンに登場するボスであれば、なんでもいいよ?」
やっぱりか。だとしたら、最初のフィールドのボスとかでもいいってこと? メッチャ簡単に達成できそうなんだが。
初段の方がよほど難しくないか?
どうしようかな。技巧神と魔導神の試練も気になるけど、人馬流の試練を先に進めちゃおうかな?
急いでるわけじゃないからどっちでもいいんだけど、ダンジョンは常に気を張ってなきゃいけないから気疲れするんだよね。
初期ボス巡りをするだけならあまり時間もかからないだろうし、間に息抜きをするにはちょうどいいだろう。
「ということで、ボス狩りにいきたいんだが……」
「ムムー!」
「――♪」
「トーリリー!」
オルトたちは相変わらず、水臨樹の前でズンタカと踊り続けていた。30分くらい踊りっぱなしなのか?
「ムーム!」
「はいはい。よかったな」
「――♪」
「そんな嬉しいのか?」
「トリリ!」
「ちょ、クルクルし過ぎたら目が回るぞ?」
いつの間にかオルトたちに囲まれて、踊りに参加させられてしまった。
「ラランラ~♪」
「ヒヒーン!」
「デービビー!」
畑に全然関係ない子も出てきたな! やばい、この流れだと――。
「ペーペペーン!」
「キーキュキュー!」
あー、全員出てきちゃったね。精霊組やマスコット、妖怪も加わってダンスパーティが始まってしまった。いや、そこまで優雅じゃないから、盆踊り大会か?
そうして踊り始めること15分。もっと早く終わらせようと思ったんだけど、止め時がね?
オルトたちがいつまでたっても踊りを止めようとしないのだ。でも、もういい加減終わらせよう。できるだけオルトたちが悲しまないように、そっとフェードアウトするのだ。
ちょっとずつ踊りの輪から遠ざかって――。
「ムッムー!」
「――♪」
「うえぇぇぇ?」
急に水臨樹が光り出したぁぁ! な、何があった?
光が収まるのを待って、恐る恐る目を開く。すると、水臨樹の上の方が光っているではないか。
見上げると、それは花である。どうやら、水臨樹が実をつけたらしい。
「え? なんで?」
「ム!」
「――♪」
オルトたちは分かっていたっぽいか? 驚いた様子もなく、ニコニコと花を見つめている。花が咲いた途端踊るのを止めたし、明らかに狙っていただろう。
大地母神の息吹が関係してるのは間違いないよな? 水臨樹に水や肥料をあげただけだが、こんなに早く影響があったようだ。
で、あとは盆踊りか? まあ、お祭りは一応神事なわけだし、盆踊り――というか、踊りの奉納が神精台と水臨樹に影響するというのはあり得そうかね?
しかも、異変はそれで終わらなかった。
「こ、今度は神精台が光り出したんだけど!」
精霊様を模した木像が光り輝いていた。




