727話 おばちゃんはおばちゃん
「あっはっは! そうなのよ!」
「あははは! そりゃあ、こまったねぇ!」
「いやー、息子さんも間が悪いっすねぇ」
「そうそう!」
オババと近所の奥さんの世間話に、思いのほか馴染んでしまった。歳のせいで体のどこかが痛いという話から始まり、今は奥さんの息子さんの話である。
すまん、まだ見ぬ息子さんよ。君の小さい頃の失敗の話とか、超聞いちゃった。
まあ、ボガートはほぼ大人の姿で生まれるらしいから、奥さんも息子さんも姿はかなり似ているそうだが。というか、俺では見分けつかないんじゃないかね?
ボガートは特殊な生態をしていて、お母さんのお腹からではなく、秘密の場所で生まれるそうなのだ。でも、自分と伴侶の魔力が交わった、ちゃんとした子供であると分かるらしい。
外で倒された個体が生まれ直す際は、大人として復活する感じらしい。悪心が浄化され、綺麗なボガートとして生まれるそうだ。
「カリカリカリカリ!」
「おいリック。1人で食べ過ぎだ」
奥さんが持ってきたのは、甘いボーロみたいなお菓子だった。結構癖になる美味しさなんだが、リックがドはまりしたらしい。
ひたすら食べまくっている。
これ以上お前が食ったら、オババと奥さんの分がなくなるでしょうが!
「キキュ?」
「おんやぁ、可愛いねぇ」
「私たちはいいから、お食べなさいな。どうせ、材料は外ですぐ採れるから」
野菜とミルクと穀物を混ぜて、小さく丸めて焼いたものなんだとか。甘みは、野菜の甘味なのだろう。
ボガートなら、野菜に襲われずに採取できるそうだ。うらやましい。
「キキュー!」
こいつ、小首傾げるあざとムーブで、オババと奥さんを陥落させやがった! 2人は笑顔で、ボーロの載った皿をリックの前に押しやる。
その皿に飛びついたリックの背や尻尾を、控えめに撫でているオババたち。ボガートでも可愛い生き物は好きであるらしい。
「ふさふさだねぇ」
「ほんとうに」
差別するつもりはないんだけど、ボガートが笑うとメッチャ怖い。今からリックが食われそうな絵面にしかみえん。
「もっとガシガシ撫でてもらってもいいですから。こんだけ食わせてもらってるんです。当然ですよ」
「そう?」
「なら遠慮なく」
「キュ?」
「くぁいいわぁ」
「フッサフサだぁ」
「キ、キキュー!」
リックを撫でまくっていても、オババと奥さんの会話は止まらない。さすがおばちゃんだ。
「ああ、そう言えば、薬が切れそうなんだった。また貰える?」
「ちょっと待ってね。えーっと……ああ、ちょうど切らしとるわ。素材もないし、何日か待ってくれる?」
「石化病なんてすぐに死ぬようなもんじゃないし、急がないから大丈夫よ」
「いやー、上手く草が採れればいいんだけど」
奥さんは何か病気であるらしい。石化病? 字のごとく、石化しちゃう病気ってこと? で、オババはその治療薬が作れるのだろう。
店のラインナップにはなかったよな? 物々交換とは言え、一応ウィンドウは表示されたのだが、そこに石化を治す薬なんてなかった。
状態異常の石化とは違う、NPCだけの病気なのかね? プレイヤーにとっては意味がない可能性はあるが……。
石化耐性薬とかのヒントになるなら、詳細が知りたいな。
「あのー、その草って、どんなやつなんですか?」
「外に生えてる、ストーングラスって危険な草だよ。食べると体が石になっちゃうんだけど、上手く使えば石化病を一時的に治す薬が作れるのさ」
「それって、これですか? たくさんあるんで、お分けしますよ?」
名称:ストーングラス
レア度:5 品質:★8
効果:服用者に低確率で石化効果。
初めて見た草は、当然採取してある。うちの場合、リックが有能だからね。かなり大量にあるのだ。
インベントリから取り出したストーングラスを、オババに手渡す。
「そうそう。これだねぇ。ありがとうなぁ。助かったよ」
「あらー、悪いわねぇ」
「いや、手持ちを渡しただけなんで」
「これはお礼だよ」
「私からも」
オババたちが小さな包み紙を手渡してくれる。どちらも中にはクッキーが数枚入っていた。効果も特にない、普通のクッキーだ。
本当に、子どもなんかに上げるお駄賃的なものなんだろう。
さっそく1ついただいてみる。
「うっま! メッチャ美味いっすね!」
「あははは! いい食べっぷりだ」
いやー、ミルキーでコクがあるねぇ。きっと、牧場のミルクを利用して、バターとかも作ってるんだろう。ボーロといい、クッキーといい、この村の甘味は素朴だけど侮れん。
石化病について詳細を聞いてみると、ボガートが誰でも罹患する種族的な病気らしい。大地の妖精であるボガートは、長く生きていると関節なんかが石化して、動きにくくなってしまう。それを治すのが、オババの薬である。
ボガート特有の病気を治す薬であるため、プレイヤーにとっては軽度の石化状態になってしまう苦い水であるそうだ。
一応作り方を教えてもらったけど、俺には再現が無理な内容だった。だって、ボガート特有の魔術がいたるところに使われているのだ。
ただ、ストーングラスを使えば石化抵抗薬は普通に作れた。今までも同じ効果の薬は存在していたけど、味がかなり違っている。こっちの方が美味しいのだ。
まあ、絶対に必要ではないけど、美味しいなら少しは売れるか? でも、今は値段が違い過ぎるし、量産化して値下げするなら、ストーングラスの栽培から始めないとだめだろう。
とりあえず、畑に戻ったらオルトに手渡そう。
結局、オババの家を出るまで1時間くらいだべってしまった。ボガート村の歴史とか、無駄に詳しくなっちゃったね。
「さて、次はどうしようかなぁ」
「キュ!」
「お菓子は探しません」
「キュー」
食いしん坊め!
今年も年末年始は少しお休みをいただこうと思っています。
次回更新の12/24の次は、1/5の予定です。ご了承ください。




