726話 ボガートの村
ボガートの村を回ってみると、10戸ほどの小さい集落であった。歪んだ板を釘で打って繋げただけの、非常に隙間風が気になりそうな家々が並んでいる。
最初に出会ったおじさんに家を見せてもらったが、家の中に火や水を扱う設備はないようだ。炊事場は、共同のものが村落内にあるらしい。
ベッドは木枠に藁を積んだものだし、灯りはヒカリゴケのようなものを瓶に入れたものを使っている。
かなりの寒村なんだが、モンスターでもあるボガートたちにとっては十分住みやすい場所であるそうだ。洞窟内だから暗くてジメジメもしているんだが、彼らにとってはそこが良い点であるらしかった。
デカい鍾乳石の近くは湿気が多いから、取り合いなんだとか。
家畜としてイグアナみたいな蜥蜴を飼っているが、食べるのではなく卵をいただくようだ。俺はあまり気にしないが、人によっては拒絶反応凄そうだな。
住んでいるのは肌の白いボガートたちで、全員が穏やかで話が通じる者ばかりである。
洞窟に入れた=女神に認められているという扱いらしく、排他的な感じもなく普通に挨拶してくれた。
村を抜けた先も洞窟は続いており、攻略ルートはこっちなんだろうが……。
どう考えても、このボガート村で何かイベント起こしてフラグを立てないと攻略できない感じだよな。もしくは、重要な攻略アイテムが売っているか。
しばし悩んだ末、先に進むよりも村を見て回ることにした。店とかあるかもチェックしておかなきゃならんし。
「まずは一番大きな家に行ってみるか」
「ニュ!」
「多分、村長的な人の家だと思うんだよな」
「ニュー」
訪ねてみると長老が出迎えてくれた。外見は白い髭を生やしたボガートなんだが、農家タイプであるらしい。
洞窟内でも麦藁帽子を被ってくれているから、分かりやすいのだ。
「やあやあ、よくきなすった。何もないところだが、ゆっくりしてくとええ。眠りたいなら、そこの寝床を使ってええぞ」
「あ、ありがとうございます」
長老の家、外から見るよりも広かった。ロフトみたいなものが付いていて、そこに麦藁ベッドが並んでいたのだ。外から見た時に、粗末とか思ってごめんなさい!
「店はないが、錬金術師のオババがおる。美味いもんでも差し入れれば、薬やら雑貨やらを分けてくれると思うぞ?」
まさかの物々交換? まあ、料理はたくさん持ってるから、何とかなるだろう。
「村の者たちも外の人間は珍しかろうて。ぜひ、皆と交流していってくれ」
お? ボガートさんたちはやはりフレンドリーな種族らしい。でも、外の茶色いやつらは何なんだろうな?
ウィルス? 呪い? 病気? 俺が軽々しく聞いていいものなのだろうか? 入り口のおじさんは、そこまで気にしている風ではなかったが……。
俺が迷っていると、向こうからその話題を振ってきた。
「外で、肌が茶色い儂らの同族に襲われんかったかな?」
「あ、そうですね。何度か戦いましたけど」
「あやつらはヤンチャ盛りでしてのう。村を飛び出して、ああやってはしゃいでおるんですわい」
はしゃぐっていうレベルじゃなかったけど。モンスターをけしかけられたし。
「肌もあのように焼いてしまい、チャラチャラと……」
やっぱりチャラ男扱いだったんだ。あの茶色、本当に日焼けしただけってこと?
「見つけたら遠慮なくお仕置してかまわんからのう。儂らは肉体が消えても、霊魂が残っている限り復活するんじゃ。その時には、心も肌も真っ白に戻っておる」
「え? そうなんですか?」
まるでプレイヤーみたいだが、それとは違うようだ。彼らは大地母神に仕える妖精で、その力で復活可能であるらしい。
凄いな妖精族。
その後、長老の家を出た俺たちは村人に場所を教えてもらい、錬金術師のオババという人の家を訪ねた。
扉をトントンして声をかけると、中から農家さんタイプのボガートが出てくる。男なのか女なのか。この人がオババなの? ボガートって性別分からんな。というか年齢も分からん。
「何か用かね?」
おっとぉ! 不機嫌な感じか? 少し不安になったがすぐにニコリと笑顔になった。
「お、俺たちは旅人なんですけど、ここに錬金術師の方がいるって聞きまして」
「そうかい。中に入りなさいな」
出してくれた水を飲みながら、話をする。錬金術師であるというのは間違いないが、店をやっているわけではないらしい。作った薬を、困った村人に物々交換で分けているだけだったのだ。
「えーっと、薬を物々交換してもらえると聞いたんですが」
「ほうほう? なるほどね。うちで分けてやれるのはこれくらいかねぇ」
ビンゴ! やっぱり見たことがない薬があるぞ! このダンジョンで採取した素材を使った、初見のアイテムがある!
毒消し効果のあるポーションや、毒抵抗を高めるクッキー。あとは、飢餓状態を治す薬ね。
この先、毒を使ってくる敵と、満腹ゲージを減らす飢餓の状態異常にしてくる敵が出る感じかな? それと、中にヒカリゴケを入れて腰に吊るすための、ガラス玉も交換品に入っている。
ヒカリゴケが長生きするための特殊効果があるらしい。
ポーション、クッキー、飢餓治癒薬、ガラス玉に対し、料理は8つ必要だった。質やレア度で、レートが変わるらしい。
アイテムを眺めていると、家の扉が開いて誰かが入ってきた。
「おんやぁ? お客さんかね? ちょうどよかった。お菓子作りすぎちゃってねぇ」
「じゃあ、お茶でも出そうかのう。あんたも飲んでいきなさいな」
「そうそう。クッキーもどうぞ」
外見は強面のボガートだけど、中はおばちゃんだった! オババとのやり取りを少し見ただけで、お袋を思い出すぜ。
とりあえず、ボガートと人間って食べられるもの一緒だよね? 腹壊したりしないよね?




