724話 大地母神の試練
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今日はやることがいっぱいある。俺は日課を済ませたあと、準備のためにいくつかの場所を巡ってから、水臨大樹へと向かった。
「凄い人だな」
「ニュー」
「キキュ!」
思わず、遠い目で見上げてしまったぜ。なんせ水臨大樹は、かつてないほどの人でごった返していたのだ。
ただ、登るために行列ができているというほどではない。LJOにおいて大抵の場所は、人数によって広さが拡張されるシステムになっている。
広場然り、ダンジョン然り。そして、水臨大樹の通路や階段も、そのシステムが適用されているようなのだ。
前後に人がいるので多少進みづらくはあるが、足を止めて待たなくてはいけない場所はほとんどなかった。
「キャロ、いけるか?」
「ヒン!」
「うぉ! 凄いなキャロ!」
「ヒン」
モンスは水臨大樹を登りやすいメンバーばかりなのだが、唯一キャロだけが木登りが不得意な馬タイプだった。最悪、俺たちで抱っこして運ぼうかと思っていたんだが――。
木々を足場に軽快にジャンプし、垂直な崖のようになっている場所も簡単に登っている。
むしろ俺が一番とろい。すまんねみんな、もうちょっと待ってくれ。
ファウやアイネ、メルムたちにグイグイと引っ張り上げてもらいながら、水臨大樹の中腹へと到達する。
そして、水臨大樹の渦に触れると、やはり挑戦できる試練が増えていた。
今までも表示されていた水臨大樹の試練、大地母神の試練はそのままに、魔導神の試練、技巧神の試練が表示されていた。全て、入場可能である。
ああ、ちゃんと朝に大地母神、魔導神、技巧神の神精台にお祈りしてきた。
ただ、水臨樹へのお祈りは、カウントされてないっぽいんだよね。
パン屋さんで聞いた話によると、お祈りしていい神精台は日に3つまでって話だった。
アリッサさんたちもこれは確認していて、4つ目にお祈りすると明らかにエフェクトに変化があり、大量の経験値が吸われることが分かるそうなのだ。
俺も1度経験しておこうと思って4つ目である技巧神の神精台に祈ったんだが、普通のエフェクトだったのである。
今日も同様だった。たぶん、水臨大樹へのお祈りが、カウントされていないようなのだ。何か特殊な状態なんだろう。加護を貰っていて、お祈りをするまでもない的な? 水臨樹と神精台が関係していることは間違いなさそうだ。
「よし! まずは大地母神の試練に突入だ! いくぞみんな!」
「ヤー!」
「フマー!」
渦に呑み込まれると、その先は妙に牧歌的な光景が広がっていた。
「なんだ? 牧場?」
「トリ」
「ペペン」
短い下草が生えた平原で、牛やヤギがのんびりと草を食んでいる。しかも、それなりに近いのに、襲ってくる気配はなかった。
「とりあえず進んでみるか。みんな、こちらからは攻撃するなよ?」
モンスたちにそう告げて、俺たちは草原をゆっくりと進み始める。
やはり、動物たちがこちらを攻撃してくる気配はなかった。どいつもこいつも、こちらが見えてないのかってくらい反応を見せない。
「なんか、長閑なダンジョンだな。本当に試練なのか? まあ、キャロにはピッタリって感じだが」
「ヒヒン!」
「ご機嫌だな」
「ヒヒーン!」
キャロは楽しそうに嘶くと、スキップするみたいにカッポカッポと歩いていく。
ゲームとは思えない柔らかなそよ風と、爽やかな草の匂い。日差しがポカポカ暖かいし、戦闘が起きる気配もない。絶好のピクニック日和って感じである。
覚悟して入ってきたのに、こんなに長閑でいいのだろうか?
移動しながら牛やヤギに少しずつ近づいてみても、こちらのことは完全に無視だ。最終的には真横を通過してみたが、それでも戦闘にはならなかった。
こちらから攻撃しなければ、襲ってはこないのだろうか?
だったら、何もしなければ安全に進める? 素材は手に入らないけど、先に進むことを優先したと考えれば悪くはないだろう。
だが、そう簡単な話ではなかった。
しばらく草原を進んでいると、ついに攻撃的なモンスターが現れたのだ。
「あれは、ゴブリン? いや、似てるけど違うな? 皮膚の色が茶色いし」
草原の向こうから出現したのは、バケットハットみたいな帽子をかぶり、ローブのようなだぶだぶの服を着た二足歩行のモンスターだ。手に持っているのは、木の棒か?
たぶん、羊飼いスタイルなのかね? 赤いマーカーが出ていることから、敵であることは間違いない。
鑑定すると、ボガートと出る。ヨーロッパの悪い妖精だか悪霊だっけ? ゴブリンに似ているが、少し背が高いな。
「ウラアアアアァ!」
「うるさ!」
急に叫び始めたけど、なんだ? うるさくはあるが、特に状態異常などは見られない。ただの威嚇か?
ともかく、サッサと攻撃をしてしまおう。
俺たちはボガートに向かって、魔術を一斉に放った。すると、あっさりと倒せてしまう。
なんか、肩透かしだったな。試練の最初ってことで、弱いモンスターだったのか?
しかし、そうではなかった。試練に登場するモンスターが、それだけな訳がなかったのだ。
「ヤー?」
「どうしたファウ?」
「キュ?」
「リックも?」
両肩にいるチビーズが、しきりに周囲を気にし出したのだ。何が――。
「うわ! なんだあれ!」
土煙を上げながら、こちらへと向かってくる大きな影があった。よく見ると、牛だ。さっきまでのんびりまったりしていた牛さんが、目を血走らせながら突進してきたのである。
その後ろには、2頭のヤギもいた。同じように目が血走りまくっている。
「ボガートの叫び声か?」
「ヤ!」
ファウもそう思うらしい。つまり、ボガート自身は弱くとも、周囲のモンスターを呼び寄せる能力を持っているんだろう。
「と、ともかく、戦うぞ!」
「ヒン!」
「ニュー!」




