719話 アリッサ、逝く
「それで? 何がどうなってこんなことになってるのかしら?」
「それがのう……。色々と会話を聞かれちまってなぁ」
「はぁぁぁ……」
アリッサさんが深いため息を吐く。その原因は、周りを囲むプレイヤーたちにあった。俺たちはアリッサさんと一緒にルインの露店の前にいるんだが、付近は満員電車のようになっていた。
悪意を以て店を囲んでいるわけじゃないし、こちらを威圧したりしているわけじゃない。ただ、人が多すぎてメッチャ怖かった。
広場は人数によって広さが拡張されるので、機能不全というほどではない。ただ、ルインの店回りに人が集中しているので、近辺のお店には迷惑が掛かっているだろう。
「でも、大勢をぞろぞろ引き連れて町を歩くよりはましなのよね……」
「うむ。だと思って、アリッサをここに呼んだのだ」
「とりあえず、商談モードで外に声は聞こえないようにしてあるから、さっさとお話をしましょうか?」
「お、おお。頼みます」
アリッサさんの笑顔がなんか怖い! でも、俺のせいだからなぁ。
どうも、新職業をゲットしたという会話が、周りの人にバッチリ聞かれてしまったようなのだ。まあ、普通にデカい声で話しちゃったし、当然なんだが。
考えてみれば、誰だって興味を持つだろう。俺だって、隣の人がジョブ解放したとか話してたら、その場にとどまって聞き耳を立てると思う。
で、ルインのお店は大人気なので、聞き耳を立てる人が多かったというわけだ。人がたくさんいたら、何だ何だと寄ってくる人もいるし、時間を追うごとに人が増えてきてしまったというわけだ。
しかも、アリッサさんが姿を見せて商談モードにしたことで、より期待度が上がってしまったらしい。この場を離れる野次馬は全くいなかった。
「なんか、すんません」
「いいのよ。それで、新しいジョブですって?」
「ええ」
待っている間にルインと軽く話したけど、なんとマジックエンジニアは新発見のジョブであったらしい。つまり、魔工系のスキルも、未発見ということだ。
ワールドアナウンスが流れなかったので、てっきり既出だと思っていた。だが、特殊な方法で解放した場合などはワールドアナウンスがない場合もあるらしい。俺の場合はそれだったのだろう。
ルインが早合点してアリッサさんを呼んでしまった時はどうしようかと思ったが、マジで凄い情報だったようだ。
「マジックエンジニアってジョブが解放されて、魔工技術や魔工知識が解放されましたね」
「魔工ね……。どんなスキルなの?」
「今のところ作れるのは、クロスボウ、バリスタ、スリングです。雑貨屋でレシピが新しく売ってたので」
「クロスボウ! 機械系のジョブは初めてだわ!」
「うーむ、鍛冶師とは別系統で用意されておったか」
「レシピを解放していけば、銃とかも作れるようになるかもね!」
なるほど。確かに、ファンタジー系のゲームでも、銃が登場する作品もあるからな。魔工でなら、魔導銃的な物も作れるかもしれない。
スチームパンク系の作品だと、チェーンソーみたいに紐を引いてエンジンを起動させるタイプの武器とかも色々と出てくる。そういう、特殊な武器も作れたりするかもしれん。
あとは何だろう? パイルバンカーとか? うーむ、夢が広がりんぐ。
「それで、どこでどうジョブを解放したの? 他のプレイヤーでも同じ方法を再現できるのかしら?」
「ああ、それは問題ないと思いますよ?」
アシハナからは、情報の扱いは任せると言われている。ここで全て話して、後で分け前を渡す形で問題ないだろう。アシハナの場合、分け前はいらないから、クママとデートさせろって言いそうだけど。
「場所は、アシハナと発見した神様の試練の中なんですけど――」
「え?」
「うん?」
「神様の試練? 水臨大樹の試練じゃなくて? 新しく出てた、大地母神の試練ってやつ?」
「いや、人神の試練ですけど……」
「……?」
あれ? 知らないのか?
そう言えば、神様の好感度が必要だったな。カルロも大地母神の試練は知らなかったし、早耳猫も掴んでない情報だったか。
「えーっと、最初から説明します?」
「……お、お願いしていいかしら?」
俺はアシハナと一緒に、第11エリアの村のクエストをクリアしにいき、そこで新たな迷宮が出現したこと。各村に1つずつ発見したということ。各試練に軽く挑んでみたことなどを語って聞かせた。
「そ、そんなところでも神の試練があったのか!」
「……」
「そうなんだよ」
アリッサさんは黙って聞いているが、ルインは気持ちいいくらいに驚いてくれてるな。
「うーむ。神様や精霊の好感度か。だからユートの畑で祈ると試練に入れるようになるんだなぁ。それに、山神の試練? 鉱石が手に入りそうじゃよなぁ」
「俺もそう思う。アシハナは森神の試練でいい木材が手に入るんじゃないかって言ってたし」
「……っ」
「あと、山神の試練はドリモールが出現したんだよ。好きな人がいるって話だし、この情報は結構重要じゃないか?」
「ほほう? それは確かにいい情報じゃなぁ」
「だろ?」
「……!」
アリッサさん、無表情だけどなんか震えてる? 咆哮の準備中なのか? ならば、ここで本命投入だ!
「で、人神の試練の迷宮ってのがあって、そこがスチームパンクとかそう言う世界観だったわけですね――」
「……ぅぅ」
俺が試練の内容や攻略方法を説明すると、アリッサさんの口から呻き声が漏れ出す。きたよ! きましたよ! ならば、これが止めだぁ!
「で、そのボスを倒してカラクリコアというアイテムを手に入れたら、マジックエンジニアって職業が解放されたってわけです。あ、これがログで、これがコアの実物です」
「……ううぅぅ」
「アリッサ? どうしたんじゃ?」
「うぅぅぅうみ――」
「え?」
「ア、アリッサー!」
なんか、アリッサさん叫び声をあげ始めた直後、急に姿が消えたんだけど! な、何が起こった?
「緊急ログアウトじゃ! 驚きすぎて、バイタルが逝きおったぁぁぁ!」
「え?」




