711話 ギリファンタジー
ブリキの人形っぽさのあるアイアンゴーレムは、驚きの行動を見せていた。
「ゴゴ!」
「え? 弓? クロスボウかっ!」
なんと、腕の一部がカパッと開くと、弓のようなものが出現したのだ。そして、短い矢を飛ばしてくる。
まともな遠距離攻撃をするゴーレムも、あんなにメカメカしいクロスボウも、初めて見た!
「でも、威力は大したことないな!」
「クックマー!」
「モグモー!」
俺が攻撃を食らっている間に、前衛コンビが猛ダッシュでアイアンゴーレムに近づき、攻撃を叩き込んだ。
「ゴゴ!」
「弱っ! アイアンゴーレムなのに!」
クママたちの連撃で、アイアンゴーレムのHPが半減した。普通のストーンゴーレムと比べても、大分弱い。
珍しい攻撃をしてはきたけど、レベル自体は低いのだろう。結局、後衛が手を出すまでもなく、ドリモの繰り出した2連撃がゴーレムのHPを削り切っていた。
「クロスボウなんて、初めて見たぞ? 存在してたんだな」
勝手に、機械類は存在しない世界だと思っていた。まあ、クロスボウが機械と呼べるかどうかは分からんが、金属製でかなりメカメカしく見えていたのは確かだ。
「ドロップは……ネジ?」
鉄や銀などのほかに、錆びたネジ、欠けたボルト? こういう工業製品っぽいのも初めて見た。鍛冶師だったら、使ってるのかね?
「遠距離攻撃に気を付けながら、進むぞ」
「クマッ!」
「モグモ」
廃墟を探索しながら歩き回るが、そこはLJOのどんなステージとも違っていた。全く別のゲームなんじゃないかってくらい、ファンタジー感がない。
スチームパンク系のゲームの世界に迷い込んでしまったかのようだ。
敵も、ゴーレムばかりだった。警棒かクロスボウを装備するカクカクゴーレムに、ドローンにしか見えない飛行型ゴーレムしか出現しない。
ただ、宝箱から面白いものを発見していた。
「壊れたクロスボウね」
「ヤ?」
「ニュ?」
「ゴーレムが使ってる武器だよ。壊れてるから、直さなきゃ使えんけど」
ゴーレムが落とす素材があれば、クロスボウを直せるかもしれん。後でチャレンジしてみようかな?
あと、最初から壊れた武器が宝箱に入っているのも珍しいかもしれん。何か意味があるのかね?
その後も戦い続けるが、クロスボウの修理に必要そうな素材が全然手に入らない。明らかに切れている弦とかね。
もしかして、ドロップだけじゃなくて、パーツを自作したりしなきゃダメなのだろうか?
「ゴーレムが魔石を落とすってことは、一応魔力で動いてるっていう設定なんだろうが……」
ギリギリファンタジーの範疇に入っていたらしい。
少し気になったので、廃墟をできるだけ隅々まで探索することにした。キャロの代わりにリックも呼び出して、狭い場所まで余さず探索できるようにする。
「みんな! 何でもいいから珍しいものを探してくれ! それじゃあ、いくぞ!」
「ヤー!」
「キキュー!」
ちびっ子たちなら、思いもよらない発見をしてくれるかもしれない。そう思っていたら、最初に面白いものを見つけてくれたのは、オレアであった。
「トリ!」
「お? なにか見つけたか?」
「トリー」
オレアが手にしているのは、黒いビニールポットに入れられた小さな苗だった。その足元には、幾つかのビニールポットが、プランターのようなものに入れられている。
「ほとんど枯れちまってるか……」
「トリー……」
オレアが発見した苗だけが、無事であるようだった。鑑定すると、ストロベリンゴとなっている。
イチゴとリンゴのハイブリッド? イチゴ味のリンゴ? それとも、リンゴみたいなイチゴ? 普通の苗じゃないことは確かだろう。
ここで品種改良されていたのだろうか? まあ、とりあえず育てて株分けしてみよう。
「よくやったぞオレア!」
「トリー!」
オレアの頭を撫でてやっていると、ペルカが飛びついてきた。背中にドシッとのしかかられ、ちょっとビビったのだ。
「ペペーン!」
「ど、どうしたペルカ? お前も撫でて欲しいのかー?」
ペルカの頭も撫でてやると、その手をペシンとはたかれた。
「うん? 違うのか?」
「ペペン!」
どうやら、何かを発見したらしい。ペルカの後をついていくと、配水管のようなものが建物の壁を伝い、最終的には地面へと潜っているのが見えた。
「ペン!」
ペルカがその配水管にピトッと耳を着け、目を閉じる。どうやら、中の音を聞いているようだ。
俺も真似をしてみると、中から微かに水音が聞こえた。
「おー、この先、水が流れてんのか!」
「ペン!」
「うーむ。ちょいと狭いな」
配水管は狭すぎて、ファウでも上手く入ってはいけないだろう。ただ、配水管の先っていうことは、地面の中だ。
ドリモに頼んで掘り返してもいいかもしれないが、それは最後の手段として、まずは周囲を探そう。
すると、すぐにマンホールを発見することができていた。瓦礫の下に埋もれていて、探すつもりでなければ見逃していただろう。
ドリモに頼んで、瓦礫を除去してもらう。
「モグモ……モグモー!」
「うおおぉぉ! さすがドリモさん! すげー!」
「モグー」
サイドチェストのポーズで自慢するドリモの肩を叩きながら、俺はマンホールを覗き込んだ。結構深いが梯子もあるし、何とか降りられるだろう。
「それじゃ、いくぞ!」
「トリ!」
「モグ!」




