708話 山神の試練
「というわけで、それ以上は進めなかった。序盤は低品質系の素材ばかりだから、あまり旨みもないな」
採取物に関しても、目立っていいものはなかった。探し方が悪いのかもしれないが、虫や動物の群に追いかけ回されながらでは発見困難だろう。
「そっかー。でも、水臨大樹の試練と同系統のものなら、入るプレイヤーで内容が変わるかもしれないし、どうにか確かめたいわね」
「でも、神様の好感度って、どう稼げばいいか分からんしな」
「そうなのよねぇ」
獣神様は『汝、神と精霊の耳目を集めし者よ』と言っていた。試練の出現に、神様や精霊の好感度が影響していることは間違いないだろう。
俺がどの試練でも挑めるのは、水臨大樹の精霊様関係の好感度が高いお陰だろうっていうのは分かる。でも、俺と同じ好感度の稼ぎ方は、中々無理だろうしな。
「ユートさんさあ、他の3つの村の試練は受けてるの?」
「いや、まだだ」
神像は東西南北の村に1つずつ存在し、西の獣人村には獣神の神像が。東のドワーフ村に山神。北の人族の村に人神。南のエルフ村に森神となっている。
それぞれの神の試練を突破すれば、その因子を得て種族転生が可能となる。獣人やエルフで始めたものの、プレイの幅が狭いことが我慢できなくなり、ヒューマンになりたいというプレイヤーも結構いるらしい。
ヒューマンは器用貧乏だが、バランスが取れていて何でもできる印象だからね。
あと、ドワーフから他の種族に転生したいというプレイヤーは、意外と少ないそうだ。パワー系鍛冶師という、一点突破な種族だからな。最初から覚悟の上って人が多いのだろう。
「じゃあ、他の村も回って、試練を達成しちゃわない? それで試練の迷宮に入れるようになるか、試そうよ! 私も、他の試練クリアして、神様の好感度稼げないか試したいし」
「ああ、なるほど。それもいいな」
攻略を進めるのは無理でも、とりあえず入れるようになっておくのは悪くない。ここが渋かっただけで、他ではいい素材やアイテムが手に入るかもしれないしな。
「あー、大地母神の試練も、まだ入ってないんだよな」
ここは気合入れて、全部回ってみるかな。
「じゃあ、とりあえず山神の試練達成しに行くか」
「りょうかーい!」
俺たちは畑に戻ってパーティを入れ替えると、ドワーフの村へと移動した。まあ、山神の試練はもう受領しているし、クリアも簡単だ。
そして、狙っていた通りの現象が起きていた。神像の前に、ワームホールチックな光る渦が現れたのだ。
触れると、山神の試練の迷宮に挑戦するかの問いかけがある。
「出ちゃったなー」
「出ちゃったねー。どうする? いっちょやっとく?」
「そんな、気軽に……。でも、内部の情報欲しいしな。10分だけ時間くれるか?」
「もっといいよ? この村の探検してみたいし」
「そうか? じゃあ、1時間くらい潜ってみようかな」
山神の試練の迷宮は、ドワーフたちが信奉する山の神様の管轄なだけあって、本当に山だった。
入り口から、延々と坂が続いていた。道幅は15メートルくらいかね? 左右は高い絶壁だ。ずっと上まで続いており、上空は靄が掛かっていて見えない。
「ファウ、上の様子を見てきてくれるか?」
「ヤ!」
ファウがビシィと敬礼をきめて、崖の上目指して飛び出していった。
「無理はするなよー?」
「ヤヤー!」
ちょっと心配になるくらい、やる気だ。無茶しなければいいんだが……。やっぱり、メルムも一緒に行ってもらえばよかったか? でも、メルムは飛行速度が遅いから、時間かかっちゃうかもしれんし。
そんなことを考えながら出発地点周辺を探索していたんだが、ファウが全然戻ってこない。もう2分は経過して、完全に姿は見えないし。
上空に漂う靄の中に入り込んでしまったのだろう。
それからさらに数分。偵察に行っただけにしてはちょっと遅いなーと思っていたら、ようやくファウが帰ってきた。なんか、髪とか汚れていないか?
「ヤー……」
「どうした? なんかあったか?」
「ヤ!」
ファウが全身を使ったジェスチャーで説明してくれる。なんだ? 顔の前で手をパタパタさせてるな。
「えーっと、上は煙くて、良く見えない?」
「ヤー! ヤヤ!」
正解だ。次は、上にギューンと飛んでいくポーズ? パタパタとギューンを繰り返しているな。で、首をかしげて、またギューンだ。途中で、何かにぶつかる演技?
「煙い中を上に上がっていったけど、全然見えなくて、煙みたいのにぶつかると汚れる? あとはよく分らないから、帰ってきた?」
「ヤ!」
「なるほど。視界が完全に失われるんなら、崖登りは無理っぽいな」
「ヤー」
しかも、汚れるってことは、何らかのステージギミックか罠が隠されているみたいだし。ファウ単独では危険だろう。
「あ、途中で採取ポイントとかは?」
「ヤヤ」
「低品質の薬草か……」
わざわざ崖登りをしてゲットするほどのものじゃないか。
諦めて、正規のルートを進もう。
道中の敵は、細身のゴーレムと、浮遊する大きな目玉だった。目玉はゲイザーというモンスターだ。
ファンタジー系のゲームにはよく登場するやつだな。目から光線を放ってくるタイプもいるが、このゲームでは、衝撃の魔眼で動きを止めてくる。
多少厄介だが、ゴーレムが弱いのでなんとかなっている。硬いはずのゴーレムはドリモのツルハシが弱点なので、そこらのモンスターと変わらないのだ。
「ゴーレムは石材しか落とさんけど、ゲイザーの目玉は錬金にも調合にも使えるからな! 積極的に狩るぞ! メルム、頼む!」
「ニュー!」
狭くまっすぐな場所で、魔眼持ちはかなり厭らしい。だが、うちのパーティーだと、かなり戦いやすい相手だった。
闇精霊のメルムが、ゲイザーの天敵なのだ。精神耐性のお陰で、魔眼が効かないのだ。しかも、浮遊があるので弱点の目を攻撃できる。
結果、俺たちはゴーレムに集中していれば、メルムがゲイザーを片づけてくれるというわけだった。
ゴーレム特効のドリモと、ゲイザー特効のメルム。偶然だけど、非常に攻略に適したパーティだった。
「よーし、まだ時間があるし、もう少し進むぞ!」
「ニュニュー!」
「モグモ!」




