706話 獣神の試練の迷宮
獣神の試練・続をクリアしたら、水臨大樹の試練の入り口にそっくりな渦が出現していた。
「もしかして、ダンジョンの入り口か?」
「そうとしか見えないけど……」
アシハナが近づいて、渦に触ろうとする。
「うーん」
「ど、どうだ?」
「獣神の試練の迷宮に挑戦する資格がないってさ。やっぱ、ユートさんとパーティ組んでるから見えてるだけっぽい」
「じゃあ、俺が触ってみるぞ」
指をゆっくりと近づける。そして、渦に触れた瞬間――。
『獣神の試練に挑戦しますか?』
「お、俺は挑戦資格あるっぽいぞ」
「そのへんは、水臨大樹の試練と同じっぽいねぇ」
水臨大樹の試練に挑戦しようとした際に、選択肢に出ていた大地母神の試練と同じだ。チームを組んでいる相手にこのダンジョンへと入る資格がないので、チームを解除してから選択しろと出ている。
制限時間も、23:56って表示されてるし。
「ど、どうしよう?」
「行っちゃえ行っちゃえ」
だよねぇ! 普通のプレイヤーなら、そう言うよねぇ!
「……ヤバそうだったら、すぐに逃げ帰ってくればいいか」
「うん! クママちゃん! 頑張ってね!」
「クマッ!」
「私! ここで待ってるから!」
「クマー!」
なんか盛り上がってるところ悪いけど、いきなり突入したりしないぞ? パーティを整えないと。
「あれー?」
「クマー?」
とりあえず俺たちは畑に戻って、パーティを組みなおした。クママはやる気だからそのまま入れて、獣系の、ドリモ、リック。攻守で活躍できるサクラ、後衛のファウ、メルム。足役のキャロだ。
「よーし、頑張るぞ!」
「おー!」
「クマー!」
ダンジョンに入れないアシハナが、一番元気だな!
そして、改めて獣人たちの村へと向かうと、獣神の試練へと突入する。入るまでは水臨大樹の試練とほぼ同じだが、中の様子は全く違っていた。
あちらが、木の根や幹で作られた植物系迷宮であったのに対し、こちらは草と灌木がまばらに生えたサバンナのような平原が広がっている。
「絶対に猛獣出るじゃん……。リック、索敵を頼むぞ?」
「キュ!」
「ファウとメルムは、上から周りを警戒だ」
「ヤ!」
「ニュ!」
敬礼が頼もしいぜ。触手をニュッと出して敬礼してくれるメルムは可愛いね。おっと、ファウもちゃんと可愛いぞ? ほら、スクショ撮るからなー。
「ヤー!」
「ニュ!」
ポージングもばっちりだなー。でも、もうそろそろ出発するぞー。
リックを先頭に、サバンナをそろそろと歩き出す。
「難易度はどれくらいなんだろうなぁ」
水臨大樹の試練並だと、序盤はともかく中盤以降は絶望なんだが……。
「キキュ!」
「さ、早速出たか?」
リックの見ている方を俺も見る。
「あれ、なんだ?」
そこにあったのは、黒い煙のような何かだった。ただの煙ではないのは。生物的に蠢いていることからも分かるが……。
「蜂の大群か!」
煙の正体は、大きな蜂たちであった。ソフトボールくらいの巨大な黒い蜂たちが、群れを成してこちらへと向かってきていたのだ。
モンスター? それともステージギミック?
分からんが、このままじゃヤバそうだ。
「ファウ、メルム! 攻撃だ!」
「ヤー!」
「ニュ!」
俺も水魔術を詠唱して、ぶっ放す。しかし、普通の遠距離攻撃ではろくに数を減らせなかった。
逃げる間もなく、接敵してしまう。
「ドリモ! クママ!」
「モグモー!」
「クックマー!」
ヤバイ! ドリモのつるはしじゃ全く相手を捉えられない! 土魔術なら多少はどうにかなっているが、数百の蜂の大群の前では、焼け石に水だろう。
あっという間に蜂に囲まれて、ダメージを受け始めている。1撃は弱くても、積み重なれば十分に脅威だ。
だが、クママはまったくダメージを受けていないようだった。
「クマー?」
蜂たちが、クママを避けるようにその周囲を旋回している。
そうか! 蜂の王の効果か!
「クママ! 蜂を追い払えないか?」
「クマー!」
クママが両手を突き出すように構えると、何やら「クマクマー」と言い出した。一見ほっこりする光景だけど、すぐに劇的な変化が起こった。
蜂たちが一塊になると、どこかへと飛んで行ってしまったのだ。
「クママ、助かったぞ!」
「モグモ!」
「クマー」
俺とドリモに褒められて、胸を張ってふんぞり返るクママ。目に見えて調子に乗りやがったな。でも、今回は本当に助かったし、気分良くいてもらおう。
「よっ! さすがクママ! 大統領!」
「モグモ!」
「クマー!」




