705話 神の試練・続
熊獣人に転生はしないが、ボーナスポイントは欲しい。俺はアシハナと一緒に、神像へと向かうことにした。
まあ、神様関連のクエストとは言え、やることはギルドとそう変わらない。
神像の前に立つとイベントアイテムを奉納するかというウィンドウが出現するので、指定されたアイテムを選べばそれで終了だ。
『汝、よくぞ試練を乗り越えた。我が因子を希望するか?』
「いえ、ボーナスポイントでお願いします」
『よかろう。汝に、幸運があらんことを』
よし。ちゃんとボーナスポイントがもらえたぞ! 今すぐ使うわけじゃないけど、今後必要になるかもしれんからね。
俺がウィンドウを確認して喜んでいると、再び神様の声が聞こえていた。
『汝、神と精霊の耳目を集めし者よ。そなたに1つ頼みがある』
「え?」
獣神の試練・続
内容:村人の困りごとを、3種類解決せよ
報酬:ボーナスポイント3点
期限:なし
なんと、新たなイベントが提示されたぞ!
アシハナを見るが、首をブンブンと横に振っている。彼女も、分からないらしい。
まあ、ここで受けないという選択肢はないだろう。俺はYesを選択した。
『では、頼んだぞ』
「は、はい」
まさか、新たな依頼が発生するとは。『続』って付いてるし、チェーンクエストだよな?
「うーん。一体何が起きた? アシハナは獣神の試練・続なんて知らないんだろ?」
「うん。初めて聞いたー」
アシハナの方がレベルも高いし、獣神からの好感度が高いと思うんだよな。獣人村に入り浸って、獣人に転生してるわけだし。
だが、トリガーはそれだけではないようだった。
「神と精霊の耳目を集めし者って呼ばれてたでしょ? 多分、他の神様の好感度とかも重要なんじゃないかなぁ?」
「なるほど」
「最初に精霊様の祭壇発見して、神精台も最初に設置して、サクラちゃんいて。どう考えても、水臨大樹の精霊様の好感度はユートさんがダントツだもんね」
みんながうちの神精台でお祈りしてくれてるし、それも関係しているのかもしれない。
「じゃあ、村行って困りごと聞こうよ!」
「え? 付き合ってくれるのか? 俺のクエストだけど……」
「私も興味あるから!」
これはありがたい。アシハナはこれで生産職のトップだし、そっち方面の依頼には心強いのだ。
そのまま村へと戻ると、困っている住人はすぐに見つかった。というか、最初に「困ったことありませんか?」と聞いたおばちゃんが、お困り中だったのである。
「じゃあ、これでいい?」
「おお! 素晴らしい出来のお皿だね! ありがとう!」
「いえいえ」
開始10秒でクリアできてしまったな。おばちゃんの息子さんたちが久しぶりに帰省するのに、転んで食器を割ってしまって困っていたのだ。
その結果、アシハナがインベントリから取り出した木製のお皿3枚で、おばちゃん大喜びというわけだった。
「アシハナ、すまん。あとでお皿代払うから」
「ううん。あれ、試作品だし、別にいいよ?」
「いやいや、そうはいかないだろ! アシハナの作品だったら、試作品でもメッチャ高く売れるはずじゃんか!」
「じゃあさ! 今度クママちゃんと一緒にご飯食べたい!」
「……アシハナがそれでいいなら」
「やったね! ねー、クママちゃん?」
「クマー」
ファン心理恐るべし……! まあ、それで満足してくれるなら、俺に文句はない。クママも嬉しそうだし。
それから2時間後。
俺たちは3つ目の困りごとをなんとか解決していた。
2つ目までは本当にすぐだった。美味しいご飯が食べたいという羊獣人の男性に、インベントリから取り出したスープをあげるだけでよかったのだ。
これはすぐ終わるかなーと思ったんだが、3つ目の依頼が中々ハードだった。なんと、狩りに出ている間、子守りをしていてほしいというお願いだったのである。
断ることもできたけど、困ってそうだったしさぁ。話の流れのまま子守りを引き受けてしまったのが運の尽きであった。
獣人の子供だからなのか、超絶ヤンチャだったのだ。俺たちなんぞ、よじ登るための柱くらいにしか認識してなかったんじゃないか?
クママの腹はトランポリンで、他のモンスは追いかける対象だ。
獣人の子供っていうか、野獣? それが5人もいるもんだから、本当に大変だった。しかも、家から外に脱走されたら、依頼失敗らしい。
気を抜くこともできず、ずっと子供たちに振り回され続けたのであった。
依頼を開始して1時間半後。俺もモンスもアシハナも全員がヘロヘロになる頃、ようやくご両親が帰ってきたのであった。
いやー、本当に大変だったね。だが、これで獣神様の試練達成だ!
思ったよりも、早く達成できたな。
「じゃあ、神像のところに戻るか」
「うん!」
アシハナと共に獣神様の像へと向かい、クエスト完了手続きをする。
『よくぞ試練を達成した。我が民も喜んでいるだろう。力を授ける』
よし、ボーナスポイントゲットだぜ! これで――。
「うええええええ?」
「うん?」
なんだ? アシハナが急に変な声上げたんだけど。
「どうした?」
「そ、それ!」
「え?」
アシハナが神像を指さすのでウィンドウから顔を上げると、そこには驚愕の光景が広がっていた。
巨大な光の渦が、神像の前に姿を現していたのだ。
「うおぉぉぉ? ま、まじ?」
「これって、大樹の上にあるやつにそっくりなんだけど……」
アシハナの言う通り、それは水臨大樹の試練へと繋がる渦にそっくりであった。




