701話 再び試練へ
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ダンジョンに万全の状態で挑むために、早めにログアウトをしていた俺は、これまた少し早めにログインし、待ち合わせ場所で戦闘のログを再度確認していた。
「リリスが使った闇呪術は、『暗転の呪』か」
「デビ!」
「使用制限は時間だったとはね」
どうやら、戦闘開始から3分待たないと、呪術が使えないらしい。他に条件があるかもしれないが、そうなるともう俺にはお手上げだ。後は検証班に任せるしかない。
「つまり、敵の場合も開幕3分以内に倒すかテイムすればいいってことだ。そのためには、ファウ頼むぞ?」
「ヤー!」
「リリスもな」
「デビ!」
今回この2人を連れてきたのは、カルロのテイムを少しでも援護するためだ。
ファウの役割は、演奏のデバフ効果によって相手の素早さなどを下げることである。テイムスキルは無制限にどこでも当たるわけではなく、視界に捉えたうえで、一定の距離にいなければ届かない。
そのため、戦場を縦横無尽に駆け回る樹霊リスは、テイムがしづらい相手と言えるだろう。そこを、ファウのデバフで少しでも足を遅くしてやろうというのである。
リリスの場合は闇呪術を使おうというわけじゃない。リリスの役割は悪魔の視線を使って、相手の精神力を下げるというものだ。
まだ確定しているわけじゃないんだが、モンスのテイム成功率には、体力と精神力が関わっている可能性があるらしい。
体力や精神力が高いモンスター程、テイムが失敗することが多いというのだ。検証班のテイマーさんが、地道に検証したっていうんだから、頭が下がる。いつも貴重な情報をありがとうございます。
さらに俺は範囲攻撃と手加減を活用して、開始直後に削りを済ませる。
あとは3分以内にカルロのテイムが成功するかどうかの戦いになるだろう。
運が絡んでくることなので、確実ではないんだよね。そこが少し不安だけど、カルロならきっとやってくれるさ。多分。
「あ、白銀さん! こっちです!」
「カルロ。やってくれるよな?」
「ヤー!」
「デビ!」
「え? あ、はい? がんばります?」
「うんうん」
「ヤー」
「デビー」
ファウとリリスがカルロの肩を叩きながら、ウムウムと頷く。2人もカルロに期待しているってことだろう。
カルロのパーティの布陣は、前回と少し違っている。
コウモリのブルースはそのままに、新たなモンスを連れていたのだ。その内1人は、見覚えがある。
「リリパットのマルコちゃんな」
「ヤー」
そうそう。テンションが超低いんだよね。ファウと似た声なのに冷静な感じで、印象に残っている。
「で、こっちはレッサーカーバンクルか」
「キュ!」
名前はフォレッテ。額の宝石は緑色で、毛並みは茶色。体はリックよりも倍以上大きい。確かレッサーカーバンクルは、樹霊リスよりも後衛寄りになっているはずだ。
「状態異常系の技が使える子を選んできました」
「ああ、なるほどね」
ブルースは毒や混乱以外にも、相手の視界を奪う暗闇系の技があったはずだ。マルコちゃん、フォレッテも相手を麻痺にする方法があるという。
徹底的に動きを封じて、テイムを成功させるつもりだな。
俺も此方のパーティの編成意図を伝え、戦闘時の動きなどを軽く相談し合う。
「え? じゃあ、3分以内にテイムを成功させなきゃ、また危険ってことですか?」
「そうなる。残念だが、3分を越えそうなときは、範囲攻撃で一気に戦闘を終わらせるしかない」
呪術の発動条件も共有し、準備は万端だ! そう思っていたら、カルロから相談というか、提案をされる。
「あの、ダンジョン内の映像を撮影してもいいですか? クラン内の人間だけで見て、公開なんてしませんので! 後々、検証に使いたいんです。勿論! 判明した情報は全てお渡ししますし、報酬もお支払いしますので!」
「え? いや、撮影くらいすればいんじゃないか?」
むしろ、初回は撮影していなかったことに驚きだ。早耳猫のカルロと一緒にダンジョンアタックすると決まった時点で、撮影されるのは当然と思っていたし。
ああ、最初の部屋で死に戻ったせいで、撮影する暇もなかったって事?
「それに、報酬? 撮影するだけで報酬もらえるの? アリッサさんからは、カルロと一緒にダンジョン行くだけで追加報酬出るって聞いてるよ?」
「それとは別です。それだけ貴重な資料になりえるということですよ。まさか、樹霊リスが飛び出るとは思ってませんでしたし。ただの検証では終わりそうもないので」
「まあ、貰えるなら貰っとくけど。自分たちで見るだけなら、好きにすればいいと思うよ?」
むしろ、俺が気づかなかったこととかに気付いて検証してくれるんなら、有難いのである。
「それじゃあ、改めてダンジョンへと向かいましょう!」
「おう!」
ということで、再び水臨大樹の試練へとやってきたんだが……。
「……」
「樹霊リスじゃないな」
「……」
「あれって、もしかして樹精か? サクラとちょっと似てるかもしれないな」
「――♪」
「……」
「カルロ? さっきから黙ってどうした?」
「……」
「カルロ? カルロー?」
「……はっ!」
ようやく再起動したか! 早耳猫の人たちって、たまにこうなるよね。
「それで、どうする?」
「いや、どうするって……。なんでそんな軽い感じに! 樹精ですよ! 樹精! も、もしこれが当たり前に出現するということなら……。やばい! 色々とヤバいですよ! というか、テイム! テイムしてもいいんでしょうか? だって、あれ! えええええ?」
「……とりあえず落ち着け」
「ヤー」
ほら、マルコちゃんも呆れてるぞ。まあ、俺には常に半眼のマルコちゃんの表情は読めんけどね!




