70話 なんか懐かれた
地下道の出口の目の前でレッサーゴーストに殺されかけている2人組を発見した俺は、彼らを救助することにした。初心者っぽい彼らを見捨てるのも寝覚めが悪いしね。
俺はなんとか救助要請の出し方を理解し、近寄って申請を出す。
「ええ? なんだこれ?」
「どうした?」
「なんか救助申請がどうとか……」
どうやら俺が暗がりにいるせいで向こうからこっちが見えてないらしい。しかも救助要請について何も知らないようだった。
俺は暗がりから駆け出し、彼らに声をかける。
「おい! 救助申請をオーケーしろ!」
「え? え?」
「お、おい。助けてくれるみたいだぞ! その申請っていうのを受けろ!」
「あ、ああ」
お、ようやく受理したな。
「アクアボール」
レッサーゴーストのHP自体は低いので、魔術を使えば確実に倒せる。俺の放ったアクアボールがレッサーゴーストを消し飛ばした。
助かったことを理解したのか、少年たちがその場でへたり込んだ。
「死ぬかと思ったー」
「俺、もうリアルで心霊スポット行けないかも」
レッサーゴーストは結構リアルだしな。正直彼の気持ちがちょっとわかる。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございました!」
「助かりました!」
彼らは俺の姿に気づくと、飛び上がってペコペコと頭を下げてきた。しっかりと頭を下げられる気持ちの良い少年たちじゃないか。
赤髪短髪剣士がツヨシ、青髪真ん中分け槍士がタカユキというらしい。純和風の名前来たね。
話を聞いてみると、リアルでテストの点が悪く、補講を受ける羽目になってゲームの開始が遅れてしまったらしかった。だからこの時期に初心者装備なのね。納得。
ツヨシはリアルで点が悪く、タカユキはテストの日に風邪を引いてしまったとか。テストとか懐かしいね。
「この先は魔術が無いと無理だぞ」
「え? そうなんですか?」
「あれー? 祭壇があるって聞いたのに」
彼らは現実でアルバイトをした経験が無いので、LJOでアルバイト感覚を味わってみようと労働クエストを受けてみたら偶然鍵を入手したらしい。鍵の使い道を調べる内に早耳猫に辿りつき、そこでこの場所の情報を買ったんだとか。
次の木の日まで待てず、祭壇を見に来たようだった。
「途中の分かれ道を右に行けって言われなかったか?」
「あれ? そうだっけ? 左って言ってなかった?」
「うーん? 右って言ってた――かも?」
うろ覚えなのね。
「とにかく、あの幽霊は魔術じゃないとダメージを与えられないし、もう一種類のモンスターも物理防御が高いからやっぱり魔術が必要だぞ」
説明してやると、少年たちは悔し気に頷いていた。
「わかりました。今日は戻ります」
出口はすぐそこだし、さすがに同行しなくても平気だろう。
「そうすると良い。じゃあな」
ちょっと先輩面できて調子に乗っていた俺は、彼らの肩をポンポンと叩いて立ち去ろうとした。ハラスメントブロックのせいで肩に触れることが出来ず、空を叩いた手が虚しい。
オルト達も俺の真似をしているのか、すれ違いざまに彼らの足などをポンポンと叩こうとしている。ちょっとドヤ顔で可愛いぞ。やはり触れられてはいないんだが。
ダサ! 俺ダサ! 自分でも自分の顔が赤くなるのが分かった。恥ずかしいと顔が熱くなるとか、再現性高すぎだろこのゲーム!
ここは何事もなかったかのように立ち去ろう。そう思ったんだが――。俺は槍士のタカユキに呼び止められていた。
武士の情けだ、ここは行かせてくれ!
「あの、待ってください! 白銀さんですよね?」
「え? なんで知ってるの?」
初心者にまで知られているのか? なんと彼らは称号掲示板などで俺の情報を色々と仕入れていたんだとか。うわー、俺の噂にまた一つ、ハラスメントブロックの上から肩を叩こうとして失敗した話が追加されてしまう!
だが、初心者の彼らは今の俺の陶酔行為にいまいち気づいていないらしい。セーフだ!
「俺たち白銀さんのこと尊敬してるんです! な?」
「そうです! まじリスペクトっす」
「ええ? え?」
いきなりそんなこと言われても……。何で? テイマーでもファーマーでもなさそうな少年たちに、尊敬される謂れが無いんだが? いや、称号とか発見しているからか? でも、攻略組の人たちに比べたら、地味にプレイしてると思うけど。
攻略組がレイドボスと戦っている動画が掲示板にアップされていたが、そりゃあ派手で格好良かった。
戦闘方面は諦めたはずの俺でさえ、剣とか槍を羨ましく思ったほどだからな。
「俺たち、補講のせいで出遅れて、正直腐ってたんです」
「もうスタートダッシュも出来ないし、LJOを処分して他のゲームに乗り換えようって相談までしてて」
確かに、俺が彼らの立場でも不貞腐れるかもな。正直、やる気はなくなるかもしれない。
「でも、白銀さんの事を掲示板で知って、やっぱりやってみようって思ったんです」
「戦闘力のないモンスターを引き当てたのに諦めないで、称号を発見したり、祭壇を発見したり、凄い楽しんでるじゃないですか?」
「それで、スタートダッシュ決めて攻略組に入るだけがゲームの楽しみ方じゃないって気づいたんです!」
「だから、今は興味あることは何でもやって、楽しもうって話してて。色々なことに挑戦してるんです」
なんか凄い俺のことが美化されてる気がする。まあ褒められて悪い気はしないし? 少年たちの夢を壊すのもアレだから、無理に訂正したりはしないけどね。
「そ、そうなんだ」
「はい! あの、兄貴って呼んでいいですか?」
「はあ? 兄貴?」
「はい! だめっすか?」
剣士のツヨシが突然そんなことを言い出したが……。そ、それは勘弁願いたい。いや、彼に深い意味がないのは分かってるよ? でもさ、なんか必要以上に仲良く思われそうっていうの? ぶっちゃけサブ臭しない?
俺が遠回しに、仲良過ぎるって思われるのが恥ずかしいと伝えると、ツヨシがよく分からないという顔で首を捻っている。
「うーん? なんか、クラスの女子と同じこと言いますね?」
「クラスの女子?」
「そうなんすよ。なんか、俺とタカユキが仲良すぎるんじゃないかっていきなり聞かれて。幼馴染だから当たり前だろって答えたら、なんかキャーキャー言われるんす」
これは彼のクラスには確実に腐海の住人がいらっしゃるな。
チラッとタカユキを見たら、俺にペコペコと謝っている。彼はクラスの女子が黄色い悲鳴を上げた理由も、俺が嫌がっている理由も分かっているらしい。
何となく二人の関係性が分かったな。
素直で熱血タイプのツヨシと。冷静で落ち着いたタカユキ。まあ、バランスはとれているな。色々な意味で。
「おい、ツヨシ。初対面でいきなり失礼だろうが!」
「あ、それもそうっすね。すいません。ちょっと興奮してました」
カップリングされてしまうのは正直嫌だが、ここまで褒めてもらって悪い気はしない。兄貴と呼ぶのは勘弁してもらったが、フレンドコードを交換して俺は2人と別れたのだった。
リアルが非常に忙しく、2日後の更新が難しそうです。
次回は3日後の更新とさせてください。
申し訳ありません。




