693話 水臨大樹のダンジョン
水臨大樹に、新ダンジョンが出現した。それはすごい情報だが、入るための条件に、うちの水臨樹が関係しているって?
「いやいや、そんなまさか」
「まあ、まだ確実じゃないんだけどね。確率は高いと思うのよ」
その場所はいかにも怪しい場所なのに、何もないということで有名だった。ただ、昨日の夜、そこを訪れたプレイヤーが異常を発見したらしい。
白い渦が光を放っており、触れると木の迷路のようなダンジョンへと飛ばされたそうだ。
ダンジョンの名前は、水臨大樹の試練。多分、大樹の中っていう設定なんだろう。
「難易度とかはどうなんですか?」
「それが、人によって全然違うのよ」
既に大勢のプレイヤーがダンジョンに挑戦しており、最大1パーティまでが一緒に入れて、パーティごとに違うダンジョンが割り当てられることは解っているらしい。
未だに踏破者はいないが、道中の情報はかなり集まっている。
だが、それぞれの持ち帰る情報があまりにも違い過ぎて、共通点を見つけることすら難しいそうだ。
パーティの平均レベル、職業、所持スキル等によって、出現モンス、ギミック、ルート、宝箱の中身が毎回ガラッと変化するという。
現在、一番凶悪だったのはホランドたちが入ったダンジョンだった。第11エリアが可愛く思えるほどの難易度で、15分もせずにホランドたちが死に戻ったらしい。
「逆に、第二陣の生産職の子が入った場合、第3エリアくらいの難易度だったわね。得られるアイテムとかもそれなりだけどね。あと、普通の生産には使えない、用途不明の木とか石とかが手に入るわ」
入ったプレイヤーが全力で挑めば何とかなるようなレベルのダンジョンになるそうだ。ホランドたちの場合は、他のプレイヤーに難易度を聞いて舐めていたのが悪かったようだ。
まさか、自分たちだけナイトメアモードになるとは思わんもんな。
「そのダンジョン、昨日出現したって言ってましたっけ?」
「うーん、それがねぇ。人が常駐している場所でもないし、いつからそのダンジョンが出現してたのか分からないのよね。発見されたのがたまたま昨日だったってだけで」
「実は見つかってなかっただけで、もっと前から出現してた可能性もあると?」
「その通り」
問題は、そんな新発見のダンジョンにうちの水臨樹が関係しているかもしれないということだろう。
アリッサさんが言うには、入れるプレイヤーと入れないプレイヤーで統計を取り、入場可能となる条件を調べたらしい。
第一陣の中にも入れない者はいるし、上級スキルや、解放エリア、職業でも統一性はなかった。そんな中、唯一共通している可能性が高そうなのが、うちでお祈りをしたかどうかという点だった。
実際、ダンジョンに入れなかったプレイヤーがうちでお祈りをすると入れるようになったらしい。
「というか、ホランドたちもうちでお祈りしたんですか?」
「らしいわよ。夜の内なら空いてると思ってお祈りに行ったけど、人が多すぎて動けなかったって話してたもの」
「あー」
あの超やばい人ごみに、ホランドたちも紛れていたのかもしれないな。
「でも、お祈りをしていないプレイヤーで、入れる人もいるのよね」
「つまり、入るための条件は複数あって、うちでお祈りするとその1つを満たせるってことですかね?」
「多分ね」
ここまで話を聞いて俺が思い出したのは、パン屋のお爺さんに聞いた神精台の話であった。神精台でお祈りをすると経験値が神様に捧げられ、神様から恩恵が与えられる。
パン屋さんだったら、神様パンを買えるのだ。
そこで疑問に思ったのが、プレイヤーの所持する神精台にお祈りした時に、どんな恩恵があるのかという点だった。
もしかして、このダンジョンへの入場が、恩恵なんじゃないか? 謎素材は神精台用の素材でさ。うちでお祈りしてなくても、他の場所でお祈りしてる可能性はあるだろうし。
「……俺が売りに来た情報、先に見てもらっていいですか? もしかしたら、ダンジョンの謎が解けるかもしれません」
「……み、見せてもらおうじゃない」
「これなんですが」
俺は、ビステスのパン屋さんのスクショをアリッサさんに見せる。
「これは、ビステスで発見したパン屋さんなんですが」
「うん? このお店と、ダンジョンになんの関係が?」
「えーっとですね、ここ見てください」
俺は、スクショの一部を拡大して、指をさす。
「木製のお皿?」
「はい。これが、神精台なんですよ」
「え?」
「俺もお祈りしたから、間違いないです。光りましたし。で、さらに、神精台に関して情報があるんですよ」
神精台で祀ることができる神様や精霊は複数種類存在しており、神様によって効果などが違うっぽいこと。職業によって、祀ることが可能な神様が変化すること。一日にあまり多くの神様に参拝すると、デメリットがあること。神様パンは超美味であることなどを、アリッサさんに語って聞かせた。
「で、うちでお祈りしてない人は、他の場所にある神精台に祈ったことがあるんじゃないですか? もしくは、精霊様に関係するクエストとかをこなしたことがあるとか。どうです? あり得そうでしょ?」
「う……」
俺の話を聞いたアリッサさんが、俯いて肩を震わせる。
「ううぅぅ……」
キタコレ! 絶対にきたよね!
「うみゃぁぁぁぁぁ! たった数時間でぇぇぇ!」
よっしゃぁ! うみゃぁぁぁ貰いましたー!




