692話 逆襲のアリッサ?
お爺さんに大通りへと抜ける道を教えてもらい、なんとか30分ほどで脱出できた。またあのお店に行こうと思っても、行くことができるかどうか不安だ。
「ニュー!」
「フマー!」
「うん? どうした2人とも」
俺が地図を見ながら唸っていると、メルムとアイネがフワフワと空へと昇っていった。そして、上空からこちらへと手を振っている。
同じ場所をグルグルと飛び回って、何をしてるんだ?
「あ、もしかして、上から道を教えると言っているのか?」
「ニュッニュー!」
「フーママー!」
正解だった。メルムが触手で丸を作り、アイネはサムズアップである。
確かに、超高性能のドローンみたいな働きもできるよな。あとは、この2人がしっかりと道案内をできるかどうかだが……。
「ニュ?」
「フマ?」
まあ、メルムはこれでしっかり者の片鱗をみせているし、大丈夫だろ。アイネは――がんばれ!
帰り道はずっと撮影もしてきたから、メルムたちの道案内もあれば、なんとかもう1度パン屋へ行くことはできるはずだ。
再訪問問題も解決したし、これで胸を張って情報を売れるな。まあ、あのパン屋さん自体は初見かどうか分からんが。でも、神精台のことはまだ知られていないはずだ。
ちょっと驚かせてやろうくらいのつもりで、勢いよく早耳猫の扉を開く。
「こんにちはー!」
「ヤヤー!」
「うみゃぁぁぁぁぁぁ!」
うえっ? アリッサさんがいきなり叫んだんだけどっ!
「も、もうきたぁっ! ま、まだ準備がっ!」
あ、なんかごめんなさい。早くきすぎたみたいです。あと、驚かせすぎました。マジでごめんなさい!
「と、とりあえず外に出るぞ! ごめんなさーい!」
「キュー」
「ペペン」
俺はモンスたちを促して、早耳猫の店から大慌てで外に出た。
少しはしゃぎ過ぎたな。親しき仲にも礼儀あり。ちゃんとマナーを守らなきゃダメだ。後でしっかり謝ろう。
そのまま入り口の前で、モンスたちと遊びながら時間を潰す。
「ニュニュー」
「うーん? なんだ?」
「フマー?」
「フムー?」
今やっているのは、メルムが形を変えてそれが何なのか当てるゲームだ。
「分かった! 魚!」
「ニュ」
「違うかー」
「フマ!」
「ニュッニュー!」
アイネが当てたらしい。メルムが元の形に戻って、祝福するようにプルプルと震えた。このゲーム楽しいんだけど、問題はモンスたちが当てた場合だよね。俺には正解がなんだったのか、分からないのだ。
まあ、みんなが楽しそうだからいいけどさ。
「ニュー」
「フムー?」
「クマー?」
「今度はなんだ? 黒蜜が掛かったわらび餅にしか見えんぞ」
そうして遊んでいると、早耳猫の扉がバーンと開いた。全員でビクッとなってしまったぜ。
中からは誰も出てこない。入ってこいってことなの?
無言のいざないに導かれ、俺たちは店の中へと再び足を踏み入れた。
「ふっふっふ。よくきたわね! 歓迎するわ!」
相変わらずのガイナ立ちで、出迎えてくれるアリッサさん。店内は薄暗く、なんかスモークみたいなものが焚かれている。
演出スゲーな。だが、感心してばかりもいられない。
「あのー、さっきはすみませんでした」
「……謝罪は不要よ。というか、そこでユート君に素で謝られたら、こっちも素に戻っちゃうじゃない!」
「ごめんなさい」
「だから謝らないでっ!」
謝罪しない方がよかったらしい。
「ごほん……。ふっふっふっふ! よくきたわね!」
や、やり直したー! こ、これは俺も乗らなきゃダメなの?
「き、きたぜ! とっておきの情報とやらを、よこしな!」
「いい度胸ね! いいわ! 聞かせてあげる!」
アリッサさんノリノリですね。
「こ、こいやぁ!」
「始まりの町で、新しくダンジョンが発見されたわ!」
え? ダンジョン? しかも、始まりの町に?
「マジっすか? 超すごい情報じゃないっすか!」
「大マジよ。出現した場所は、水臨大樹を登った洞の中。そこに入り口が現れたのよ」
「前は、そんなのなかったですよね?」
「そうなのよねぇ」
ダンジョンの入り口が出現した場所は、根元から幹を少し登った所にあるらしい。
幹が張り出して足場のようになっている場所を30メートルほど登ると、10人ほどが入れそうな洞がある。
そこにある光の渦のようなものに触れると、条件を満たしている場合はダンジョンへと入れるのだそうだ。
「条件、ですか?」
「それがねぇ。どうも、ユート君の畑でお祈りすることが、トリガーになってるみたいなのよねぇ」
「はい?」




