689話 神精台さがし
早耳猫で情報を売り、いつも通りにお金と目録を貰った。目録には俺も見たことがないような肥料なども掲載されているので、中々便利である。この前貰った目録は、モンス用の遊具に変えたしね。
いつもの「うみゃー!」を直接聞くことはできなかったけど、新たなロールプレイも面白かったのだ。
でも、次はうみゃーを引き出して見せる! 首を洗って待ってろよアリッサさん! おっと、俺もアリッサさんのロールプレイに引っ張られて、テンション変になってるな。
その後、1度畑に戻ってメンバーを入れ替えた俺は、この後の行動を悩んでいた。そして、ある事を思いつく。
「第11エリアで店を探すか」
ジェミナが言っていた、神精台。それがある店を探してみようかと思うのだ。腕のいい生産者の店なんかには、だいたい設置してあるって言ってたし。
「よし、みんな! 移動後に探す物を発表します!」
「ヤー?」
「サクラが設置してくれた精霊様の木像あるだろ? あれが神精台って呼ばれてるのは知ってるか?」
「フム!」
「フマ!」
モンスたちは、木像=神精台であると、しっかり認識していたらしい。全員が大きく頷いている。
「うち以外にも神精台があるって聞いたから、それがあるお店や工房を探そうと思ってる。分かるか?」
「ペペン!」
「クマ!」
モンスたちが並んで敬礼する。多分、探索命令が下った的な扱いなんだろう。
ならば、俺もそのノリに付き合わねばなるまいて!
「神精台探索隊! かならずや目標を発見するぞ! 出動だ!」
「ヤヤー!」
「キキュー!」
ということで俺はモンスたちと一緒に、第11エリアのビステスへと転移した。
「まずは大通り沿いを見て回るか」
「クマ!」
「ニュー!」
クママの頭の上にメルムが乗っているのは、初めて見る。珍しいコンビだな。メルムが頭の形に合わせて貼り付き、まるでクママが黒いヘルメットをかぶっているみたいで可愛い。
「うーむ。中々ないな」
「フム」
「フマ」
こっちは、ルフレの頭の上にアイネが張り付いている。まるでルフレが白いかつら被ってるみたいに見えるな。
「どこにあるんだろうなー」
「キュー」
「ヤー」
俺の両肩の上で、リックとファウが首を捻っている。
当然だが、そう簡単に進展はない。明らかに高級そうだったり、老舗っぽい店にも、神精台は設置されていなかった。
店の人に話を聞いても「うちにはないですね」と言われて終わりである。置いてあるお店はないのかと尋ねても、いい情報は集まらない。
聞いたことがないと言われて終わりだ。
俺の好感度が足らないのか、第11エリアのお店には存在していないのか。
ジェミナの植物園は先のエリアにあるそうだし、第11エリアにはないという可能性は高いだろう。
「まあ、もう少し探してみよう」
「ペン」
次は、裏通りとかにある隠れ家的なお店を狙ってみよう。知る人ぞ知る名工の店とか、発見できるかもしれん。確実にあるかどうかは分からんけど、あるなら裏通りだろう。それがファンタジーのお約束だしね。
見つからなかったとしても、散策するだけで十分に楽しい。石造りの重厚な町の、複雑で狭い裏通りとか、冒険の匂いしかしないのだ。
「フムー!」
「ニュー!」
「あ、ちょ! あんま先に行くなって! 迷子になるぞ!」
まあ、迷子になったのは俺だけど! モンスとはぐれたって意味じゃなく、自分がいる場所がよく解らなくなってしまった。
迷路みたいな裏道を、モンスの好きなように進んでいたせいだろう。マップを見れば、自分が町のどの辺にいるかは分かる。
ただ、どうすればここから大通りに出れるか、分からなかった。マップを見ても周辺の道はマジで迷路かっていうくらい、細かくて入り組んでいた。
よくこんな奥地にまで入り込めたなと、自分で感心してしまったほどだ。
ならば来た道を戻ろうと思ったが、記憶があいまいだった。
だって、階段や坂を何度も上り下りしたし、何回道を曲がったかも覚えていないのである。雑貨屋の中を通過したりもしたし。
「うーむ……。とりあえず、そこにあるお店で道を聞いてみようか」
「フム!」
発見したのは、小さなパン屋さんだった。ビステスって酒場や肉屋、サラダメインのオシャレカフェは多いんだが、パン屋は珍しい。
獣人の町なので、彼らの好物を扱う店が多いのだろう。数少ない、獣人以外の種族用の店なのかね?
「こんにちはー」
「はいはい。どうもいらっしゃいませ」
店に入ってみると、ヒューマンのお爺さんが俺たちを出迎えてくれた。
白くて清潔そうな服を着た、痩せ気味の老人だ。頭にはコック帽を被っているし、この人がパン職人で間違いないだろう。
お店には、バゲットや塩パン、菓子パンなど、おいしそうなパンが並んでいる。いや、まじで美味そうだな。道を聞く前に、色々と買っておこう。
俺は気になったパンを選択して、一気に購入していく。
「こんなにたくさん買ってくれるお客さん、何年ぶりだろうね? 嬉しいよ」
「いえ、凄くおいしそうだったので。偶然見つけたんですけど、迷ってラッキーでした」
「ははは。この辺は入り組んでるからねぇ。どこかに行く途中だったのかい?」
「いえ、明確な目的地があるわけじゃないんですが……」
俺は、神精台があるお店を探して、ビステスを歩き回っていたのだと説明する。すると、思いもかけない言葉が、お爺さんの口から飛び出すのであった。
「神精台なら、うちにあるよ?」




