685話 サクラの霊力
『ねー、白銀さーん! 忘れてるよねー?』
やっべ!
「そ、そそ、そんなことないぞっ!」
アシハナのことをすっかり忘れていたぜ!
俺は慌ててウィンドウを立ち上げると、フレンドだけは畑に入れる設定に戻す。
「どうだ? 入れたか?」
『むーりー!』
「え? なんで?」
『もう、人の波に乗って、白銀さんの畑から離れちゃったー!』
俺がサクラの進化に気を取られている間に、アシハナはうちの畑から離れた場所に流されてしまったらしい。
「あー、そのー……頑張れ!」
『いーやー! クママちゃんに会いにきただけなのにぃぃぃ!』
あ、コール切れた。マジ大丈夫かな? でも、俺にできることはないのだ。強く生きろ、アシハナ! それに、うちの畑に入れても、クママいないけどな! だって、クママなら俺の隣にいるから!
「クマ?」
「――?」
「なんでもないよクママ、サクラ。1人の熊戦士が、散っただけだ」
「?」
「?」
アシハナのことはもうどうにもできんし、とりあえずサクラの能力の確認をしたいな。新しく得たスキルは、育樹強化、盾術・上級、木工強化、魅了強化、霊力である。
この中で、確実に戦闘系スキルなのが盾術・上級、魅了強化。霊力は不明って感じだ。
「それじゃあ、サクラも戦ってみようか」
「――!」
やる気満々のサクラだったが、その戦闘力は思った以上に上昇していた。特に成長目覚ましいのが、盾である。
元々は樹精の小盾だったのが、進化によって霊木の盾に変わっている。この盾が、今までのバックラータイプと違って、ガッチリとしたカイトシールドになっていたのである。
面積は3倍近くになり、頼もしさが段違いに増した。木製であることに変わりはないけど、蔦や若葉で縁が装飾され、表面も濃い緑色でかなりかっこいい。
さらに、盾術が上級になったことでシールドタックルやシールドスローなど、新技を色々と覚えていた。攻撃力まで増したというわけだ。
霊木の鞭も今まで以上に太く、棘を自在に生やせるようになっている。
右手に厳つい茨の蔦のような鞭。左手には頼もしいカイトシールド。本人の表情も大人びて凛々しくなり、本当に絵になるのだ。
魔術面での進化はないものの、戦士としては確実に1段上の存在となっただろう。
また、魅了強化も、目に見えて成果が上がっている。明らかに相手を魅了状態にする確率が上がっており、その時間も長いのだ。
「最後に霊力を試したいが、どうだ?」
「――♪」
「おおお! なんか光ってるー!」
サクラの全身から、青い光が放たれていた。強化系のスキルだったのか? 見守っていると、サクラがハンマーピッグに突っ込んでいくではないか!
いくら何でも無茶だ! しかし、他の子たちと違って、サクラが無謀なことをするとは思えない。
俺は呼び戻したくなる気持ちを抑えて、サクラを見守った。
「――!」
「フゴオオォォ!」
盾を構えたサクラと、ハンマーピッグが正面衝突する。そして、ハンマーピッグの巨体が、弾けるようにぶっ飛んでいた。
「フゴオォォォッ?」
5メートルほど飛び、背中から落下するハンマーピッグ。衝撃で、朦朧状態に入ったらしい。そこをサクラが鞭でビシバシと追撃を入れると、あっさりと消滅してしまっていた。
さらに、もう1頭に向かって鞭を伸ばすと、その体に巻き付ける。
「――!」
「うぉぉぉぉ! サクラすっげー!」
「フッゴオォォォ!」
ハンマーピッグが、哀れな悲鳴と共に宙を舞っていた。なんと、サクラが鞭を肩越しに背負うようにして、ハンマーピッグを思い切り投げ飛ばしたのだ。
後は1頭目と同じである。鞭でシバかれて、ポリゴンとなって消えていた。
「――!」
「サクラ、超強いじゃんか! これが霊力の効果か?」
「――♪」
どうやら霊力は、全ステータスの超強化スキルであるようだ。しかも、効果時間は結構長そうである。
サクラを覆っている光が消えるまで、1分くらいは猶予があっただろう。
ただ、ドリモのもつ竜血覚醒などと同じで、クールタイムが24時間必要なようだった。まあ、奥の手クラスのスキルってことなんだろう。
サクラの強さも分かったので、町に戻る。そこで、俺は獣魔ギルドにやってきていた。
「バーバラさん。こんばんは」
「はい、こんばんは」
受付嬢のバーバラさんに、進化したオルトたちを会わせるためだ。案の定、その視線がオルトたちに固定される。
「あら? あらあら? もしかして、進化しました?」
「はい」
「いいですねぇ! ノームグランドリーダーちゃんに、霊木の精霊ちゃんですね! 可愛いですねぇ!」
「ムム!」
「――♪」
バーバラさんがオルトとサクラに近づくと、その頭などを撫で始めた。その手つきは中々激しいが、オルトたちは為すがままだ。
むしろ、気持ち良さげである。やはりバーバラさんは神の手を持ってるんだな。
そのままオルトたちを愛でること数分。バーバラさんは満足して、報酬をくれた。狙い通り、クエスト扱いになったのだ。
それほど高額じゃないけど、バーバラさんにモンスたちを会わせるだけでギルド貢献度も稼げるし、いいクエストだよな。
ギルド帰り、夜の大通りを歩きながらウィンドウショッピングをしていると、不意に声をかけられる。
「おー! ユートさんじゃないか! 久しぶりだな!」
そこにいたのは、花屋のスコップであった。
6月後半は少々忙しく、次回更新は7/2の予定です。
出遅れテイマーのコミカライズ最新話が公開されております。
カルロがいいですねwww




