683話 グランドリーダー
畑の外、やべー。
品評会終わったのに、一向に人が減らないのだ。
畑へ入る許可を出してない人たちが、道と畑を隔てる見えない壁に押しつけられて、酷いことになっている。顔面が押し付けられてる人とか、車のフロントガラスに群がるゾンビっぽいね。もしくは、インドの満員電車でドアに押し付けられてる人だ。
透明な壁に顔面むぎゅー状態である。
水臨樹は光りっぱなしだ。それだけ多くの人たちが祈りを捧げてくれているんだろう。経験値、いいんだろうか?
あんな状態じゃ、水臨樹の水持って帰れないと思うんだが……。
それに、向こう側の畑、普通に人が入ってない? 多分出入りの設定を自由にしてしまっていたんだろう。
このゲームなら、踏み荒らされたり盗まれる心配はないが、いい気はしないだろう。
これって俺のせいか? 怒ってるファーマーさんがいたら、菓子折り持って謝りに行かなきゃダメかね?
うわ、ゾンビ――じゃなくて、プレイヤーさんと目が合っちゃった。そ、そんな目で見られても……。
俺はそっと頭を下げると、そのままホームへと退避した。
畑仕事をしようにも、あの惨状が俺のせいだと思うと、心が休まらないのだ。
「ホームの畑の整備でもするか」
「ム」
「オルト、水臨樹の水を水田に撒いてもいいか?」
すでに、水臨樹の水が流れ込む水田は設置済みだ。元々あった普通の水で育てる水田もいくつか残してあるので、後で品質を比べることも可能だ。
で、俺が思いついたのは、普通の水田に少しだけ水臨樹の水を混ぜるという方法だな。これでどんな変化が出るのか、楽しみだ。
そんな感じでホームの水田で作業をしていると、不意に視界の端で強烈な光が発せられた。
「ムムー!」
「え? オルト?」
光っているのは、オルトだ。
「レベルアップか!」
生産作業でも経験値はもらえるが、戦闘ほど多くはないため、レベルアップすることは珍しい。
しかも、ただのレベルアップではなかった。
「ムムー!」
クワを両手で持って、まるでバーベルの様に頭上に掲げるオルト。テンションが異常に高い。
「し、進化きたー!」
「ムー!」
レベルが50に達し、進化可能となっていたのだ。
「進化先は2つか。事前情報通りだな」
「ム」
「ノームグランドリーダーと、ノームグランドファーマーね」
グランドファーマーが、ノームならどのルートからでも進化可能な通常ルート。グランドリーダーが、ユニークルートであるリーダーの正当進化だった。
ステータスを確認すると、グランドファーマーも中々凄そうだ。農耕強化、一括収穫、植え替えのスキルが増え、器用などのステータスが上昇するらしい。
畑仕事がメチャクチャ楽になりそうだな。しかも、植え替えが自力で行えるなら、模様替えをいつでもタダで行える。これは非常に楽だろう。
ただ、俺が選ぶのはこっちのルートじゃないけどな。
「ノームグランドリーダーでいいか?」
「ム!」
「よし! それじゃあ、グランドリーダーに進化だ!」
「ムムー!」
名前:オルト 種族:ノームグランドリーダー 基礎Lv50
契約者:ユート
HP:211/211 MP:196/196
腕力40 体力34 敏捷20
器用43 知力27 精神 26
スキル:育樹、株分、幸運、収穫増加、重棒術、土魔術・特化、農耕・上級、採掘・上級、夜目、栽培促成ex、守護者、水耕、変異率上昇、採掘上手、重棒術強化、農耕強化、採掘強化、農業指導、クワ上手
装備:土精霊のクワ++、土精霊のマフラー+、土精霊の衣+
「うーん。外見はほぼ変化なしか?」
「ム?」
装備品も名前は変化せず、+が付いただけだし、オルト自身も大きな変化はない。ちょっとだけ、髪のツヤツヤ感が増したか?
だが、ステータスはちゃんと強化されている。
腕力と器用さが突出し、戦闘でも生産でも活躍できるステータスになっていた。それに、新しいスキルも覚えたぞ。
農耕強化、採掘強化はその名の通り、スキルの効果を強化してくれる能力だ。
農業指導は、自分以外の仲間の農耕作業にボーナスが入るという、リーダーに相応しい能力である。しかし、1つ知らないスキルがあった。
「何だこりゃ? クワ上手?」
事前に聞いていたグランドリーダーのスキルに、クワ上手なんて入ってなかったぞ?
「ムム! ムー!」
オルトが、チャンバラごっこの様にクワを振り回している。確かに、上手だが……。
「クワか。++に変化してるけど、見た目は前と変わらないんだよな」
でも、他のグランドリーダーとの違いって、このクワの+が1つ多いくらいなんだよな。
「どうだ? クワに変化あるか?」
「ムムムー!」
オルトが再びクワを天高々と掲げ、可愛らしい雄叫びを上げた。よく解らんが、オルトが喜んでるみたいだし、きっと強化されているんだろう。
「オルト。新たな力で、助けてくれよな?」
「ムー!」
久々の敬礼いただきました!




