682話 閉会
水臨樹の植え替えで時間を使ってしまったが、俺の出し物はまだ終わっていない。
残念だけど、もう予定時間を大幅に過ぎてるし、俺が準備してる流しそうめんは中止かな? おもてなしはまたの機会ってことだ。
そう思ってタゴサックに切り上げるかどうか相談したら、流しそうめんをやりたいようだった。
他の面々に聞いても、ここで中止だなんてあり得ないって様子だ。
「時間、大丈夫なの?」
「大丈夫だ!」
「大丈夫にしますから!」
「大丈夫な気がする!」
「だから、我らにぜひ流しそうめんをっ!」
流しそうめん大人気だな!
でもまあ、全員問題ないみたいだし、予定通り流しそうめんを楽しみますか。うちの子たちの準備も無駄にならずに済むし、よかったよかった。
「じゃあ、俺のホームに移動するぞー」
「おおお! 白銀さんのホーム!」
「噂のワチャワチャ桃源郷がっ!」
「バイトに遅刻してでも参加するぞ!」
流しそうめんって、ここまでテンション上がるイベントだったっけ? お祭り感もあるし、はしゃいでしまう気持ちはわかるけどね。
参加者のテンションは、ホームに到着して流しそうめんの竹組みを見て最高潮に達した。全員が、大はしゃぎで叫んでいる。
「た、楽しそう! さすが白銀さん!」
「俺、リアルでもやったことない! さすしろ!」
「モンスちゃんたちの手作り……尊い」
「楽し気に出迎えてくれるマスコット、尊い」
「というか、全て尊い」
楽しそうだな。泣いてる人いない? これだけの反応を見せてくれれば、大満足だ。
そんなプレイヤーたちを見つめていると、装置を眺めていたタゴサックが、ボソリと呟いた。
「水臨樹の前に設置して、流れ出る水で流したら凄そうだよな」
「!」
おいおいおいおい! なんて発想だよ!
「タ、タゴサック……!」
「な、なんだユート? そんな劇画調の顔しちまって」
「お前天才かよ! くっ、負けた!」
水臨樹から流れ出た水を使えば、真に水臨樹づくしの流しそうめんになったのに!
水臨樹の前に流しそうめん台を設置するのは、景観の都合で1度は却下した案だ。それに、水臨樹の水を流すことに使うのは考えていたけど、それは汲んだ水を流し台の水に使うつもりだった。
それが、水臨樹から流れ落ちる水に、直接台を接続して流す? 今よりもさらにデカく長い台が必要になるだろうが、最高のアイディアじゃないか!
「い、今からでも移動と設置し直しを……!」
「ちょ、待て待て! 急にどうした! い、移動? ここでいいから!」
「……でも、水臨樹の水を使った方が、絶対みんな喜ぶじゃん?」
「そんなことないって! ユートのホームも、十分凄いぞ! それに、次は水臨樹の方でやればいいじゃないか!」
「そうか?」
「そうそう!」
タゴサックが言うなら、そうなんだろうな。それに、考えてみたら品評会はまたあるだろう。全部出し切っちゃったら、次回ネタ切れになるかもしれない。だったら、今回はこれくらいの方がいいのかもな。
「つーか、そろそろみんなもしびれを切らしてるんじゃないか?」
「おっと! それはいかんな!」
タゴサックが言う通り、一通り騒ぎ終わった参加者たちが、装置の周りで待っているのが見えた。俺がホームに呼んだのに、お客様を放置はマズい!
俺は考えるのを止めて、とりあえず流しそうめんを始めることにした。
もう、モンスたちがあざとい感じでつけ汁と箸を配っているので、あとは流すだけだ。
「じゃあ、流すぞー!」
「ばっちこーい!」
「水精ちゃんの手延べそうめん!」
「ふつうに美味そう!」
「というか、うまーい!」
俺が流した麺をファーマーたちが競うように掬い、ずるずると啜っている。あの奪い合いを見れば、皆が楽しんでくれているのはよく解った。
「フム!」
「ヒム!」
「ルフレ? ヒムカ? 流す役代わってくれるのか?」
俺の言葉に、ルフレとヒムカが揃ってコクコク頷く。そして、ざるを受け取り、プレイヤーたちの方をビシッと指さした。
俺にも楽しんでこいってことか?
「フムー!」
「ヒム!」
「じゃあ、頼むよ」
俺のために、地味な裏方を引き受けてくれるだなんて! うちの子たちは、本当にいい子ばかりだよ!
「フムー! フムフムー!」
「ヒーム!」
「フムー!」
「ヒムヒム!」
そうめんが載ったざるを取り合っているな。どちらが流すかで、揉めているらしい。
あれ? 俺のために代わってくれたんじゃなくて、自分たちがそうめんを流す役をやってみたかっただけ……?
「モグモ!」
「フム……」
「ヒム……」
ドリモさんが頼もしい! まあ、あっちはドリモに任せておこう。
その後、俺もタゴサックたちに交じってそうめんを楽しみ、モンスやマスコットたちに指示してデザートやジュースを配ったり、肩を揉ませたりした。
さあ! みんなで接待するぞ! 俺もジュースを注いで回るから!
人と接することが大好きなマスコットだけではなく、妖怪たちもおもてなしが楽しいようだ。我先にとプレイヤーたちの世話を焼いていた。一番人気は幽鬼ちゃんかな? 今の外見は、少し幽霊味のある女の子だからな。そうめんと雰囲気が合ってる感じがするのだ。
「ユート。すまなかったな」
「うん? 何がだ?」
「少し興奮しすぎて、突っ走り過ぎた」
縁側に座ってまったりしていると、タゴサックが近づいてきて頭を下げた。何を言っているのかと思ったら、お祈りの検証をするときにはしゃぎ過ぎたと感じているらしい。
まあ、確かにいつもと違う雰囲気だったか? でも、そのおかげで水臨樹の植え替えもできたし、別に謝るほどの事じゃないと思うんだよな。
俺なんか、勝手に生配信野郎だし……。
最後に俺もみんなに頭を下げて回り、再び許しを得て、俺のプレゼンは終了したのであった。まあ、最後のそうめん、俺の出品物だと思ってない人が多かったけど。
畑のテーブルはもう撤去してしまったので、俺のホームの縁側やその前に集まって、タゴサックが閉会の挨拶をする。
「お疲れ様でしたー。参考になる情報もあったと思うし、ならない情報もあっただろう。というか、参考にしない方がいい情報とかもあったしな」
そんな情報あったか?
「色々驚いたと思うけど、楽しかったか?」
「楽しかったぞー」
「最高だったー!」
「またやってくれー!」
そんな感じで、最後まで大騒ぎで品評会は幕を閉じたのであった。




