679話 配信しちゃってる?
畑の外には、凄まじい数のプレイヤーが集結していた。しかも、こちらの事情を分かっている?
生配信、してるんだっけ?
「タゴサック、配信してる?」
「してないけど……」
何が起きた?
も、もしかして俺が間違って生配信しちゃってた? 前も同じことやったし!
「……違うか」
畑のカメラは撮影モードのままだ。配信はしていない。
だが、タゴサックがその場にいた知り合いに事情を聴くと、人が集まっている理由はすぐに分かった。
「マモリたんが生配信してるじゃないっすか!」
「それ見て、きたんですよ!」
「畑に入れないのは分かってるけど、いてもたってもいられなくなって」
うちのマモリの仕業でした!
「マ、マモリ? 配信してる?」
「あい!」
な、なんでだ? いや、待てよ。タゴサックに撮影してもいいかと問われた時に、撮影でも配信でも好きにしていいって言っちゃったよね? で、そん時に、マモリいたよね?
「そ、そういうこと?」
「あい?」
げ、原因は俺だったか!
これって、やばくない? だって、皆の発表を垂れ流しにしちゃってたってことだぞ? イカルの浄化蓮根とか、広めちゃまずかったんじゃ……。
俺が自身のやらかしに頭を抱えていると、声をかけてくる者がいた。
「白銀さん!」
「アメリア? どうした?」
「どど、どうしたじゃないよっ! 畑に入れないの!」
「え? まあ、今はちょっと制限してるけど」
「なんで! ノームパラダイスがそこにあるっていうのに!」
あー、そういうことね。どうなんだ? アメリアくらいならいいのか? だが、タゴサックが首を横に振る。
「アメリアだけオッケーにすると、後で色々問題になると思うぞ」
「そんなー?」
「これは、アメリアのためでもあるんだからな? 周りをゆっくり見るんだ」
「え?」
周り? タゴサックの言葉に、俺も周囲を見回してみる。人はたくさんいるけど、この人たちがどうかしたのか?
ただ、アメリアには何かが理解できたらしい。
「み、みなさん見守ってる?」
「そういうことだ」
「お、おほほほ。冗談だから! ほら、私白銀さんとフレンドだし、ちょっとしたじゃれ合いよ! ね? ね?」
「お、おう」
急に「ね?」って言われても……。なんか、思わずうなずいちゃったけどさ。でも、これはちょうどいいんじゃないか?
「じゃあ、アメリアにも検証を手伝ってもらうか? ほら、フレンドも1人いて欲しかったし」
「あー、それでいいか」
「え? 本当? ありがとう!」
あとは、タゴサックの知り合いを数人選んで、畑への入場を許可する。いちいち個別に許可を出さないといけないのが少し面倒だ。
というか、それよりも先にマモリの配信を止めさせなくては!
「そうだ! タゴサックすまんかった! 生配信の犯人は俺だった!」
「座敷童ちゃんの日記帳な。俺も見落としてたよ」
「本当にすまん! 勝手に生配信とか……! 皆にも土下座して詫びんと! とりあえず、やめさせるから!」
「ははは! どうせあとでアップする予定だったし、手間が省けたよ」
俺が必死に謝ると、タゴサックは笑って許してくれた。だが、他の皆はどうなんだ?
「編集するつもりだったんだろ? マモリのは生配信だぞ? 参加者の情報が全部オープンだ!」
「みんな気にしないと思うぜ? 公開しちゃまずい情報、ユート以外は持ち込んでないし」
「俺? 俺もそんなヤバい情報は語ってないよな?」
「キノコの情報とか、木像の情報とか、全部公開されちまっただろうが」
「いや、別にいいんじゃないか? 知られて困る情報じゃないし」
「……まあ、ユートがそれでいいなら、俺は何も言わんが」
とりあえず、タゴサックは怒っていないらしい。
「生配信、止めさせた方がいいよな?」
「いや、どうかな? 俺からは止めろとは言いにくいかなー」
「どういうことだ?」
「ユートが続けたいなら、続けてもいいとは思うんだけどなぁ。なんというか、責任は負いかねるっていうか」
タゴサックはマモリを見つめながら、なぜか歯切れの悪い返事をする。タゴサックにしては、珍しいな。
「み、みんなにも聞いてみたらどうだ?」
「わかったよ」
生配信したまま、とりあえず水臨樹の前まで戻る。俺は検証の前に、皆にも謝った。
だが、その反応はタゴサックと変わらないものである。
「配信は、そのままでもいい気がするけど」
「恨まれたくないし……」
「俺たちのためにも、ぜひ配信は続けてください!」
むしろ、配信を続けてほしいらしい。まあ、だったら続ければいいか。怒っていないようで本当によかった!
「マモリ! 許しが出たぞ! 皆にちゃんとお礼をしておくんだぞ?」
「あい!」
マモリが満面の笑みで、シュタッと手を上げる。うむ、可愛い。皆も同じ気持ちだったらしく、ファーマーたちから歓声が上がっていた。
こうなったら、モンスたちにガンガン接待させよう。表面上は許してくれたとはいえ、無許可の生配信とか、マナー違反でも上位。
場合によっては運営に叱られて、ペナルティを食らってもおかしくはないのだ。
お詫びと保身の意味も込めて、盛大にもてなしてやろう! ふははは! 俺の本気の接待を受けるがいい!
最高のおもてなしをしてやるぜ!




