678話 祈り
俺が、精霊様の木像を見ながら首を傾げていると、タゴサックたちも水臨樹の根元に集まってきていた。
「ユート、何があった?」
「今の光、なんだったんですか?」
「すっごく綺麗でしたね!」
そりゃあ、あんだけ光ってれば、何か起きたのだと分かるか。
「実はさ――」
俺はみんなに、サクラが設置した精霊様の木像の効果について説明する。タゴサックたちも首を捻っているな。やはり、見たことがない効果であるらしい。
水臨樹に捧げられた信仰の力を、神精へと捧げることができる、だもんな。そもそも、信仰ってなんだ? 水臨樹を崇める宗教的なものが存在しているんだろうか?
いや、精霊様が宿っているわけだし、水臨樹教みたいなものがあってもおかしくはないか? でも、聞いたことないんだよな。
ヒーラーギルドが教会になってるらしいが、崇めているのは創造神だったはずだし。というか、創造神って開発のことか? 自分たちを崇めさせてんの?
おっと、今は木像についてだ。俺が悩んでいると、タゴサックが何やら木像に向かって手を合わせた。
目を瞑り、パンパンと柏手を打つ。
すると、タゴサックの体が薄く光ったではないか。その光はそのままタゴサックから水臨樹へと流れ込み、さらに木像へと移っていく。
数秒ほどキラキラと輝きを纏っていた精霊様の木像は、すぐに落ち着きを取り戻した。鑑定しても何も変わってはいないが、あれで信仰の力が神精とやらに捧げられたのだろう。
まさか、単純にお祈りすればいいのだとは思わんかった。
「おー! すげー!」
「わ、私も!」
「俺もやるぜ!」
「俺の樹精ちゃんへの信仰心を舐めてもらっちゃ困るな!」
タゴサックが光る姿が、妙に神秘的だったからだろう。ファーマーたちが我先にと水臨樹を拝み始めた。
木像の周囲で、目を瞑って頭を下げることが条件であるらしい。うちのモンスだけではなく、みなのモンスも同じようにお祈りしているが、光ることはなかった。
祈れるのはプレイヤーだけか。
どんどんと水臨樹が光って、木像に光が消えていく。鑑定をしてみるけど、やはり鑑定内容に変化はなかった。その内、何か特別な効果があるんだろうか?
そう思っていたら、サクラが俺の手を引いている。
「――!」
「ど、どうした?」
「――!」
サクラが、水臨樹の上の方を指さしているようだ。何だ? 俺が首を傾げていると、タゴサックが何かに気付いたらしい。
「なあ、ユート。水臨樹のあそこ、何か生ってないか?」
「え?」
「ほら、あの枝のところ!」
「うーん? ああ! 何か緑色のふくらみがあるな!」
「白銀さん! あっちにもあるぜ!」
「あっちにもですよ!」
つがるんやヒジカタ君も、俺と同じものを発見したようだ。若芽のようなものが、水臨樹の枝のいたるところに見えていた。
「これが、お祈りの効果?」
「――♪」
なんと、水臨樹がお祈りで成長するとは! いや、祈りの光はどっか別の相手に捧げられてるんだよな? ちょっとだけ、水臨樹にもいい効果があるの?
ともかく、祈れば祈るほど、早く育つのは間違いなさそうだった。
「も、もっと祈ったらどうなるんだ?」
「試そうぜ!」
再び、みんなでお祈りする。だが、もう光ったりはしなかった。どうやら、1人1回しかお祈りできないらしい。
クールタイムはどれくらいだろうな? 1日1回? 1時間1回? それとも、2度と効果はない?
これは、今後調べていくしかないだろう。
タゴサックたちも、かなり興奮した様子である。特にタゴサックは、珍しく早口で色々とまくし立てた。
「気になるのは、誰の祈りでもいいのかってことだ。今回は全員がユートのフレンドで、ファーマーだった。フレンドじゃなければ? ファーマーじゃなければ? これはちょっと気になるところだな! 祈りの仕方で変化は? 光る量で変化が分かるか? ああ、検証してみたいぜ!」
タゴサックがここまでぶっ飛んだ目をしている状態を初めて見た。アシハナとかマルカなら、たまに見るんだけどね。主にクママと遊んでるときとかに。
「いやでも、フレンド以外の人を畑に入れるのはなぁ」
「そうか。そうだよな」
「それに、フレンドでもない人にお祈りしてくれって言っても、頷くか?」
「それは問題ないだろう。よし! それも検証してみよう!」
「してみようって、どうやって?」
「外にいる奴連れてきて、祈らせればいい! 数人くらいなら、畑に入れてもいいだろ?」
「え? いや、まあ……」
祈らせればいいって……。協力者を今から探しに行くのか?
「ユート、いくぞ! 外探せば1人、2人くらい見つかるだろ!」
「タ、タゴサック!」
もう歩き出しとる! これ、付いていった方がいいの? 置いていかれた状態のファーマーさんたちを見ると、全員が何故か早く行けって眼をしている。
どうやら、皆が検証に賛成らしい。
大慌てで早歩きのタゴサックに追いつくと、そこには驚きの光景が広がっていた。なんと、畑の外に、大量のプレイヤーがたむろしていたのだ。
タゴサックも驚いている。
しかも、驚きはそれだけではない。
「俺! 白銀さんとフレコ交換してないファーマーです! 検証手伝います!」
「あ! 俺も俺も!」
「ズルいぞ! 俺もやる!」
なぜか、皆が状況を分かっていたのだ。タゴサックが教えた? でも、タゴサックも驚いているんだけど?
「え? 何この状況?」




