675話 みんなの発表
品評会は、順調かつ和やかに進んでいた。
みんな、意外に個性がある。それぞれ、畑では自分の好きな作物を中心に育てており、その加工物も気合が入っているのだ。
筆頭はつがるんだろう。
以前つがるんの畑を見た時は、完全に林檎農園だった。今も変わらないらしく、持ってきたのは全て林檎だ。
桃色林檎と、雑木扱いの普通の林檎を山と積んだ木の籠がテーブルの上にドンと置かれる。これだけで十分美味しそうだが、メインは加工品だ。
「これが、ミックスリンゴジュース。これが、ドライアップル。で、これが特製燻製ソーセージだな」
ミックス? ただのリンゴジュースじゃないのか? 皆が首を捻っていると、つがるんが説明してくれる。
なんと、桃色林檎と、普通の林檎の果汁を混ぜているらしい。せっかくの桃色林檎の味が落ちやしないかと思ったが、そう単純な話ではなかった。
俺は、普通の林檎は単なる桃色林檎の下位互換だと思っていた。匂いも甘みもシャリシャリ感も、明らかに桃色林檎の方が上なのである。
だが、林檎プロであるつがるんからすれば、違うらしい。
「通常の林檎は確かに酸味が強いが、その分爽やかさもあるし、甘みの質も違う。桃色林檎とは違う良さがある!」
ということらしい。
しかも、ただ桃色林檎と普通の林檎のジュースを、混ぜ合わせただけじゃない。
なんと、品質によって味や風味が微妙に変わることに着目し、桃色林檎品質1~10、普通の林檎品質1~10を用意し、それらの配合を何百通りも試して、最高のミックスジュースを作り上げたという。
林檎への情熱が半端ないぜ……。ドライフルーツも、乾燥具合や品質の差などをかなり研究した、超こだわりの逸品である。
ただ、最後のソーセージはなんだ? 中に林檎を混ぜたりしてるのだろうか?
そう思ったら、違っていた。このソーセージ、燻製する際に林檎の木材や葉を使っているらしい。林檎燻製に合うソーセージを探したと聞いて、もう乾いた笑いしか出ないよね。
第2陣の後輩ファーマーさんたちだけじゃなくて、普通に第1陣のプレイヤーも引いてるのが分かった。
ま、まあ、先輩の威厳というか、こだわりの凄さというか、変態っぷりは見せつけられただろう。
その後に登場したのは、ヒジカタ君だ。ハーブや各種野菜と、特段変わった物はないんだが、丁寧に作られているのが分かる。
また、ウンディーネが相棒なだけあり、料理やお酒はかなりできがいい。特に感心したのは、ハーブティーだ。
「ハーブティー、いいな」
「本当ですか白銀さん!」
「ああ。だよなタゴサック」
「おう! かなり研究したのが分かるぜ」
「爽やかさがいい!」
「うむ!」
ファーマーは、自分の好みのハーブティーを作るために、いろんな茶葉を研究をしている者がかなり多い。そのため、このゲームの中でも特にハーブティーにうるさい者たちの集団でもあるのだ。
いっぱしの批評家の様に、誉め言葉を口にしている。
ヒジカタ君は嬉しそうだ。きっと、頑張って配合したんだろう。
「やったな! メルチェ!」
「フムー!」
ヒジカタ君は、ウンディーネのメルチェとハイタッチして喜んでいる。良いコンビだな。第1陣のファーマーたちが、ほっこりしながら2人を見守っていた。
その後も、色々な品物が提供される、
ヒジカタ君の次に登場したのは、早耳猫のメイプルだ。
「私が用意したのは、こちらですー!」
妙に機嫌がいいというか、テンションが高い。いつもニコニコしているタイプだが、今日は最初からより笑顔なのだ。品評会がよほど楽しみだったのかね?
「これが一押し! うちのパッつぁんと作り上げた、ハチミツ酒ですよ!」
「クマ」
メイプルが連れてきたのは、ロイヤルハニーベアのパッつぁんだ。この子が作ったロイヤルゼリーを使ったお酒は、驚くほどに美味しかった。リアルでハチミツ酒を買っちゃおうかなって気になる程度には、気に入ったね。
ていうか、新ハチミツでお酒を造る! そう決めた! 絶対に美味しいもんね。
「わ、私はこれです」
「ム!」
ほう? 1つ、見たことがない作物があるな。
イカルが取り出したのは、茜大根、紺レタス、紫春菊、赤ブロッコリーなどの野菜類だ。これでスープや野菜炒めを作ったらしい。
ただ、その中に謎の野菜があった。蓮の花と同じような薄い桃色のレンコンである。鑑定すると、浄化蓮根という名前だった。
「あのレンコン、初めて見ますね」
「綺麗な色だな」
俺以外のファーマーたちも、初見であるらしい。
「こ、これは、地下の祭壇で貰いました! 育てるには、特殊なお水が必要みたいで……」
エスクに任せると、高い品質の水に、高級肥料。さらにはエスクの散水exを駆使して、何とか育てられるそうだ。
大量生産もできず、育てるのにお金がかかり過ぎて、中々増やすこともできないらしい。栽培にexスキルが必要となると、確かに増やすのは難しいだろう。
ただ、希望者には種を分けてくれるそうだ。独占したって誰も怒らないのに、いいのかね? そう尋ねても、イカルの意思は堅かった。
というか、育てるのが大変過ぎて、他の人が大量生産できるならお願いしたいそうだ。うちはどうだろう? 水臨樹の水もあるし、オルトもオレアもいる。可能性はあるだろう。
浄化蓮根の煮物はメッチャおいしかった。後で種を貰って、絶対に育ててみせるのだ。




