674話 品評会開始
夕方になり始めた頃。
畑から外を見ると、すでに大勢のファーマーが集まっていた。つがるんやイカルといった、フレンドたちの姿もある。
他にも、既にフレンド登録している人も多い。交流はほとんどなくても、イベントなどで一緒になってフレコを交換したんだろう。
正直、その時のことは覚えてないけど。
「じゃあ、まだの人はフレンド登録しちゃうか」
「フレンド登録でいいのか? 畑の設定で、入場の可否を個別に変更できるはずだが」
「10人くらいだから、フレンド登録でもそんな時間変わらんだろ?」
これが、参加者が50人とかだったら、誰でも畑に入れるようにしちゃう方が早いだろうけどさ。
とりあえず、皆に声をかける。
「どもどもー、今回会場を提供させてもらうユートです。よろしく」
「し、白銀さんだ! よよよよ、よろしくお願いしまっす!」
「オルトちゃん! オルトちゃんいるし!」
「サクラたん! サクラたーん!」
「はわわわ! なまシロ!」
なんか、同時にワーッと喋り出したな。うちの子たちを見て興奮してるっぽい? まあ、可愛いから仕方ないね。
「とりあえずフレンドコード送るんで、登録してくださーい」
「白銀さんとフレコ交換っ!」
「私たち勝ち組ぃぃ!」
「ファーマーでよかった!」
「うっしゃぁぁぁ!」
大騒ぎだ。なんだなんだ? 品評会が始まる前からお祭り気分なのか? 何を言ってるか聞き取れんが、喜んでくれているのは間違いないかな?
皆と一括でフレンドコードをやり取りし、畑へと招き入れる。すると、再び歓声が上がった。
外からでも畑は見えるけど、奥までは見えないしね。ふっふっふ、凄かろう! うちのモンスたち渾身の畑だからなぁ! 俺もちょっと手伝ってるんだぜ!
「あいー!」
「トリリー!」
出迎えを手伝ってくれているマモリとオレアはドヤ顔だ。
マモリたちと一緒にさらに奥へと案内すると、新入りさんたちだけではなく、メイプルやつがるんも驚いてくれていた。
マモリたちは再びのドヤ顔だ。ていうか、なんでタゴサックがドヤってる?
「俺も驚いたんだ。お前らも驚け!」
ああ、そういうこと。
テーブルだけじゃなくて、水臨樹からランタンや、光苔の苔玉を吊るしてみたりしたのだ。高いところはリックやリリスが大活躍だった。自分でもびっくりしてしまうくらい、幻想感が増している。
「水臨樹すっげーすっげー!」
「ありがたやー」
「あかん、何故か涙が……」
「絶対絶対ぜーったい、私も水臨樹手に入れる!」
「うびゃぁぁぁぁぁ!」
「ふぇぇぇぇ!」
おうおう、今日一番の大騒ぎだね! これだけ驚いてもらうと、嬉しくなっちゃうぜ。
俺がウンウンと頷いていると、タゴサックが声をかけてくる。
「なあ、品評会を撮影してもいいか? 畑とかもちょっと映っちまうと思うんだが」
「うん? 別にいいぞ。隠すようなものなんて何もないし。撮影でも配信でも、好きにしてくれ!」
「あいー!」
「ほら、マモリも好きにしろって言ってる」
「じゃあ、遠慮なく撮影させてもらうな」
俺も撮影モードを起動しておこう。畑はその変化などを確認するために、固定カメラ機能があるのだ。
畑を俯瞰で映すことが可能なので、皆が自力で撮影するのとはまた違う映像が撮れるだろう。
ウィンドウで映像を確認すると、バッチリと水臨樹の周辺が映っている。あとは終了まで放置でいい。おっと、参加者さんたちを放っておいちゃいけないな。
「立っててもなんだし、好きなところにかけてくれ。モンスも座れると思うから」
「「「はーい」」」
その場で水臨樹を見上げていた皆が、思い思いに席につく。タゴサックが言っていた通り、ノームやウンディーネを連れている者も多かった。
イカルとヒジカタ君以外にも、8人がモンス連れである。席を多めに用意しておいてよかったね。
「このテーブルクロスかわいい!」
「白銀さんの苔玉が、こんな無造作に……!」
「ウェルカムドリンクが白銀ハーブティー!」
「クママキュンから渡されちゃった!」
モンスたちがハーブティを配ってくれる。うんうん、ここまでのおもてなしは完璧だぜ。
「じゃあ、改めてよろしく。後はタゴサックに任せるよ」
「おう! それじゃあ、改めて品評会に集まってくれてありがとうな。まあ、特に優劣とかを決める訳じゃなくて、情報を交換するのが目的だ。肩の力を抜いて楽しんでくれ」
タゴサックの挨拶で、品評会が始まる。即宴会に移行するのかと思ってたけど、最初は結構真面目にやるっぽい。
タゴサックが、自分の畑で採れた作物と、その加工物を取り出した。
「俺が持ってきたのは、ジュース、クッキー、漬物だ。配るからちょっと待ってくれ」
「あ、うちのモンスに配らせるから、そこに置いておいてくれ」
「お、いいのか? 助かる」
むしろ、こっちが有難い。なんせ、皆お手伝いがしたくて仕方がないのだ。先を争うようにタゴサックの加工品を受け取り、テーブルを回って参加者に配っていく。
「物自体は珍しいもんじゃないが、品質や製法にこだわって、バフ効果を高めてみた」
なるほど。確かに品質と効果が高い。第二陣のファーマーさんたちに対して、奇をてらうだけではなく、丁寧な仕事も大事だと示しているんだろう。
持ってきた素材に関しても、珍しくはないが、非常に高品質なものばかりだった。さすがトップファーマー、オルトたちが世話してくれているうちの作物を超えているのだ。
「ムム」
「ムー?」
「ム!」
オルトやエスク、他のノームが素材を囲んで何やら頷きあっている。全員が真剣な顔だ。きっと、ノーム同士で情報交換でもしているんだろう。
まあ、本人たちは真面目でも、そのビジュアルは小人さんがおままごとしてるみたいでメッチャ可愛いけど。
ファーマーたちも、全員がホワーンとした顔でノームたちを見守っている。
「なあ、そろそろ進めていいか?」
おっと、思わず見入ってしまっていたぜ。タゴサックが声をかけてくれなかったら、時間が吹っ飛ぶところだった。ノーム軍団の可愛さ、恐るべし!




