673話 設営
品評会っていうくらいだから、ゴザってわけにはいかないだろう。そう考え、俺はイスとテーブルを並べておくことにした。
倉庫を漁れば、サクラが練習で作った家具類が大量に突っ込まれているからね。
無人販売所でマモリがちょこちょこ売っているんだけど、サクラがドンドン作るから減らないのだ。
最初用意した席は20人分だったんだけど、30に増やしておいた。ヒジカタ君がウンディーネを相棒にしていることを思い出したのだ。
他のファーマーの中にもモンスを連れてくる人がいるかもしれないし、余裕を持たせてみた。空いちゃったら、うちのモンスやマスコットたちを座らせればいいだろう。
どこからでも水臨樹が見えるように、コの字型にいすを並べる。
「剥き出しのテーブル並べただけだと少し寂しいか?」
あと、なんとなく会議室っぽくて、仕事のことを思い出して俺がツライ。
品評会とは言っているけど、半分はお茶会なんだろ? だったら、もう少し飾り付けてもいいだろう。
「よし、テーブルクロスを追加するぞ!」
「フマー!」
「お、結構あるな」
「フマ」
最近布製品を色々と作れるようになったことが嬉しいのか、想像以上に大量のテーブルクロスが倉庫に仕舞われていた。
品質の高い素材や作品は残して、習作や低品質品だけ倉庫に適当に突っ込んでもらっているけど、もうこんな量産していたとは。テーブルクロスだけで30以上あるんじゃないか?
その中から、似た系統のものを選んで取り出していく。
白地に、植物が刺繍されているシリーズだ。多分、うちの畑の植物たちかな。既に水臨樹がモチーフのものもあった。
ハンカチとかは受け取っているんだけど、テーブルクロスはまだうまく作れないようで、俺には回ってきていないのだ。それだって、品質や効果がいまいちというだけで、見た目は全く問題ない。
「ヒム!」
「どうしたヒムカ?」
「ヒムム!」
ヒムカが取り出したのは落ち着いた色合いの無地の花瓶たちだった。ベージュや灰色、桜色などの一輪挿しだ。
それを、テーブルの上に自分で並べていく。
「ヒム!」
「トリ!」
「おお、オレアいつの間に」
オレアがチューリップなどを摘んで、持ってきてくれた。ヒムカの花瓶にちょうどいいサイズだ。テーブルクロスとも合っていて、非常にいいんじゃないだろうか?
「ムム!」
「――♪」
「オルトたちも来たか。それは?」
「ム!」
「――!」
2人が持ってきたのは、蔦で編んだ籠だ。違う形のものが5つ。そこに果物や花、植物が入れられている。ただ入れたわけではなく、綺麗に飾り付けられていて見栄えもいい。サクラがその籠をテーブルの上に置いた。他にも、皆で色々と飾り付けを行う。
そうこうしている内に、タゴサックがやってきた。
「もしかして会場設営やってくれたのか?」
「おう! どうだ?」
「すっげーな!」
お! タゴサックも喜んでくれたみたいだな! 飾り付けたかいがあるってもんだ! ただ、少しやり過ぎだったらしい。
「いやー、皆絶対驚くぜ? それに、座るところはここにゴザ敷かせてもらうつもりだったんだが」
なんと、花見スタイルで開催するつもりだったらしい。品評会の建前、薄れすぎじゃないか?
「なんなら片づけるけど?」
「いやいや! 俺の、想定の100倍良いから! むしろ、これ本当に使わせてもらっていいのか?」
「サクラたちが練習で作った家具とかだし、別に構わんよ」
「そうか! 助かる!」
考えて見りゃ、会場設営が必要なら事前に伝えられてるよな。先走ってしまったぜ。でも、喜んでもらえたようで良かった。
片づけるのは簡単だが、それだとモンスたちが悲しむからね。
「椅子が結構多いな?」
「ヒジカタ君みたいに、モンス連れてくる人いるかと思ってさ」
「なるほどな。確かに、半分以上のやつはノームかウンディーネを連れてくるだろ」
「マジ? 多いな」
自分で30用意しておいてなんだが、本当にそんな多いと思わなかった。あれ? タゴサックがジト目でこっち見てるんだけど。
「な、なんだ?」
「いや、本気で分かってないのかと感心してるだけだ」
絶対に感心してる目じゃないんだけど! 仕方ないじゃないか。俺はテイマーなんだから、ファーマーの間でモンスブームがきてることなんて知らないの!
「あとさ、俺の用意した品物、ここじゃ披露できないからホームに準備してるんだけど、途中で移動してもいいか?」
「転移陣あるんだろ? だったら構わないぜ。にしてもここじゃ披露できないって、何を用意したんだ?」
「ふふん。それは後でのお楽しみだ。期待しててくれよ」
「期待外れにならないことは分かってるが、逆の意味で不安になってきたぜ……」
タゴサックと話をしていると、畑の外に人が集まり始めているのが見えた。
まだフレンド登録をしていない参加者もいるので、集合は畑の前ということになっているのだ。
約束の時間までは少しあるはずだけど、時間前行動を心がけている人が多いのかもしれない。ファーマーっていうのは、計画性というか、キッチリしていないとなかなか続かない職業だからね。
地味な作業を毎日コツコツ正確に。そんな性格の人が多いはずなのだ。だとすると、遅刻してくる人はいないかもしれない。
「もう入れちゃうか?」
「あー、その前にセッティングしないと」
タゴサックはそう言って、様々な食べ物や飲み物を取り出した。食器類も大量だ。
「お料理研のやつらに作ってもらった軽食と、うちで作った自家製ミックスジュースだ」
「ほほー、うまそうだな」
主催者として、色々準備してきたらしい。ポテチやサンドイッチ、クッキーなど、完全にピクニックを想定しているとしか思えんな。
ジュースは、野菜や果物をミックスしているのだろう。どんな味か楽しみだね。
「じゃあ、うちからも少し提供しよう。ルフレ、売る予定だった軽食をここに並べておいてくれるか?」
「フム!」
レベル上げで作った、効果なしの軽食をここで放出しておこう。効果もない低品質品だが、文句は出ないよな? まあ、食べ物があるだけよしとしてもらおう。




