670話 品評会
「おー、しっかり拡張されてるじゃないか!」
「ムー!」
畑に戻ってくると、ネモフィラの花畑が倍くらいに広がっているのが分かった。うちの子たち全員で遊ぶとなるとかなり手狭だったので、さらに花畑を拡張してみたのだ。
これならうちの子全員が余裕をもって宴会可能だろう。
水臨樹の根元でモンスたちと寝転がって星空を見上げていると、誰かが畑に入ってくるのが見えた。
「あれ? タゴサックか?」
「よう!」
水臨樹が成長した直後にも遊びに来ていたけど、またモンスと戯れにきたのか?
そう思ったら、違っていた。
「実は頼みがあってさ」
「頼み?」
「おう。実はさ、仲間内で作物の品評会みたいなことをやろうと企画しててな」
「品評会って、どんな感じなんだ?」
「そんな厳密にはやらねぇさ。自信のある作物を2、3種類持って行って、皆に自慢するってだけだ。後はまあ、育て方の工夫とかの情報交換もできたらいいって考えてる」
「ほうほう。なるほど」
品評会と情報交換ね。確かに、有益そうではある。でも、ファーマーたちって真面目だな。
そう思っていたら、違っていた。
「まあ、集まって騒ぐための方便だけどな」
「ああ、そういう」
「宴会しよーぜって言っても不参加のやつもいるからさ、ちょいと体裁を整えてんだよ」
ゲームの中だからこそ、煩わしい人付き合いなんかしたくないってプレイヤーも多い。特に、宴会なんて絶対に参加しないって人もいるんだろう。
そういうプレイヤーにも興味を持ってもらうため、品評会ってことにしているらしい。
「半分はちゃんと品評会やるからよ。でも、自分で作った作物を料理して持ってくるとするだろ? 中には自作の酒とかもあるわけだ。そしたら食って飲むじゃん?」
そして、その流れで宴会も始まってしまうってことなのね。
「あとは、新人たちとの交流も目的の一つだ。2陣のファーマーたちの畑もだいぶデカくなって、色々と作物が採れてるみたいだしな」
「なるほどね」
2陣のプレイヤーとも仲良くなろうってことか。それも悪くないな。
「俺も参加していいのか? テイマーなんだけど」
「半分ファーマーみたいなもんだろ? こんだけの畑作っておいて!」
「半分は言い過ぎじゃないか? 精々3割くらいだ!」
「そう思ってるならそれでいいけどよ」
雑談しながら、品評会のより詳しい情報を教えてもらう。自慢したい作物を数品に、それを使った加工品を最低20人分用意。参加費とかはかからない。
新人さんにこんなのもあるんだよーと教えてあげることが目的でもあるので、採算とかは度外視らしい。
楽しそうだし、俺もそれで文句はないのだ。そもそも、お金とってたら新人さんたちは参加しづらいだろうし。
会場はまだ決まっていなくて、第一候補は農耕ギルドの会議室らしい。
そんな話をしてたら、また誰かが畑に入ってくるのが見えた。フレンドしか入れないんだから当然だけど、見たことがある相手だ。
青い長髪をポニテ風にまとめ、浅葱色の羽織のようなものを肩にかけた爽やかイケメンくんだ。腰に差した刀も相まって、新選組の隊士にしか見えん。
これで戦闘力低めのテイマー兼ファーマーだっていうんだから、見た目詐欺にもほどがあるよね。
「ユートさん! こんにちは!」
「ヒジカタ君。こんにちは」
やってきたのは、先日知り合ったばかりの2陣プレイヤーヒジカタ君だった。いや、1陣だけどリアルの関係で始めるのが遅れたんだっけ? まあ、最近ゲームを始めたばかりっていうのは間違いない。
「あ! タゴサックさんも!」
「おう」
「あれ? 知り合いか?」
「始まりの町で畑持ってるやつとは、だいたいフレンドだぜ?」
さすがトップファーマーのタゴサック。社交的かどうかはともかく、グイグイ系なのも確かだし、人と仲良くなるのが早いんだろうな。
「何か用かい?」
「ユートさんの水臨樹が凄いって噂になっていたので、見学させてもらおうと思って」
「おお! そうなの? だったら好きなだけ見ていくといいよ」
「ありがとうございます!」
フレンドだったら畑に自由に入れる設定にしてるし、いくらでも見ていけばいいさ。
「うわー! 凄いですね!」
「だろ?」
大きく育った水臨樹とネモフィラ、そして虹。これは中々ない光景だろう。あまり自慢とかしない俺でも、こればかりは自信をもってお薦めできるのだ。
ヒジカタ君だけではなく、タゴサックもネモフィラの花畑に座り込んで、水を吐き出し続ける水臨樹を見上げた。
「うちの畑にも、花畑を作ってみっかな」
「そうなったら、ぜひ遊びに行かせてくれよ」
「おう。楽しみにしててくれよ。しかし、これなら公開して金取れるんじゃないか?」
「いやー、そうかもしれんけど、さすがに商売にするのはねぇ。フレンド以外がたくさん入ってくるのもちょっと微妙だし?」
「そりゃそっか」
そんな話をしていたら、ヒジカタ君が残念そうに声を上げた。
「そうですかぁ。友達に見せてあげたかったんですけどねぇ」
「うん? ヒジカタ君の友達だったら、大歓迎だぞ?」
「本当ですか? 友達はファーマーなので、凄く喜びますよ!」
なんでも、第2陣のプレイヤーに、学校の友達がいるそうだ。畑仲間ならなおさら大歓迎である。
「それなら、他の2陣のファーマーにも見せてやりてぇな……。なあユート、今度の品評会さ、ここを借りれねぇかな?」
「え? ここって、この花畑か?」
「ああ。人が踏んでも潰れたりしないんだろ? 花見って言うか、水臨樹見? それをしながら品評会とか、絶対に盛り上がると思うんだよな!」
「ははぁ、なるほどね」
いいんじゃないか? 俺だって、サクラの本体である水臨樹を自慢したい気持ちもあるし、場所の提供くらいなら簡単なものだ。
「わかった。使っていいぞ」
「おお! ありがとうな!」




