666話 影の正体
「……すまん」
「いえ、アレは仕方ないですよ」
黒い影との初戦を見事に黒星で飾った俺たちは、ホームで反省会を行っていた。
最初は上手く戦っていたのだ。オルトやドリモが前衛となって影を押し止め、後衛で一斉に攻撃を加え続ける。
こちらに死に戻りは出ず、ジリジリと影のHPは減っていく。
だが、戦闘開始から15分ほどで、戦況が一気に悪くなってしまっていた。
それまでは謎の影と呼んでいたんだが、HPが残り2割になった時点でその影が消え去り正体が露わになったのである。
影の下から現れたのは、鬼だった。墨のような漆黒の肌を持った、鋭い目つきの細マッチョイケメン鬼だ。
戦いがオーガっぽいと思っていたが、本当に鬼だった。名前が不明から、隠形鬼という名前に変化する。そして、さらにその攻撃手段が増え、激しさを増していた。
影を飛ばす手裏剣のような攻撃や、影を使った転移術。少し短めの刀など、まるで忍者のようである。
パワーがある忍者っていうのは、ズルすぎるのだ。
そして、決定的な破綻が訪れる。まあ、俺が死に戻ったんだけど!
途中までは、隠形鬼が相手でもなんとか戦えていたのだ。浜風とロクロネックが本当に頼りになるからね。
ロクロネックは隠形鬼相手でも正面から切り結んでいたし、浜風の狐は相変わらず高火力である。それに、浜風自身の援護能力も非常に高く、俺たちはただ彼女らの補助をしていればよかった。
だが、一瞬の油断が命取りとなってしまう。
隠形鬼は特殊能力でこちらの背後に転移できるんだが、回避にしくじって攻撃を食らってしまったのである。
普通だったら一撃死するほどではなかったんだが……。
い、言い訳するつもりじゃないんだよ? でも、ちょっとばかり不運が重なってしまったのだ。
まず、地形。黒い影との戦闘は、毎回違う場所になるらしいのだが、今回はべちゃべちゃの湿地だった。そのせいで微妙に足を取られて、動きが鈍くなっていたのである。
次に、タイミング。ドリモのHPが大きく削られ、クママと入れ替えるかどうか悩んでいた瞬間だった。
最後に、相手の攻撃。運悪くクリティカルだったのである。黒い影の刀が首に直撃し、クリティカル&弱点攻撃のコンボとなり、俺は一撃で死に戻ってしまった。
そして、俺が死んだらモンスも全員消えるし、当然戦線は崩壊。浜風とロクロネックもほどなくして死に戻ったというわけだ。
「最後は死に戻りましたけど、収穫もありましたし」
「収穫?」
「はい。私とロクロと白銀さんのパーティなら、あの隠形鬼を倒せるという確信が得られました」
どうやら、過去の戦いの中でも特に安定していたようだ。そもそも、隠形鬼の正体にまで辿り着けたのが、今回が初だったらしい。
「浜風たちがよければ、また挑戦させてほしいんだが」
「こちらこそお願いしたいですけど、いいんですか? 他に用事があるんじゃ……?」
「ないない。こっちの方が重要だ。名誉――いや、汚名返上させてくれ!」
名誉挽回って言おうと思ったけど、挽回するほどの名誉なんかないよねー。
「とりあえず、次に隠形鬼と戦う時は平地を選びましょう」
「そんなことできるのか?」
発見した場所で戦闘になるんじゃ?
「あの影、発見した時に歩いてましたよね?」
「そういやそうか?」
「ですので、隠形鬼と戦いやすい場所まで移動してから、襲い掛かればいいと思うんです」
「なるほどな」
さっきは、発見したことが嬉し過ぎて、俺もロクロネックも即座に襲い掛かっちまったからなぁ。
「あと、白銀さんが落ちたら、本気でマズいということがわかりました。オルトくんを白銀さんの護衛として張り付かせておきましょう」
「そうだな。さっき、オルトかサクラが近くにいてくれたら、結果は変わってただろうしな」
「はい」
よしよし、リベンジマッチが楽しみだ。今度こそ、勝ってみせるぞ!
「では、デスぺナが回復する頃にビステスで再集合しましょうか」
「おう。今のうちにログアウトして、飯でも食ってくるかね」
「私はまだしばらく時間があるんで、生産作業でもしてますよ」
浜風は護符以外にも、皮革などを取っているそうだ。そのうち、妖怪の力を借りた生産を行うことを夢に見ているらしい。
「ロクロは……聞いてませんね」
「あれは聞いてないなぁ」
「えへへへへへへへへ……」
ロクロネックはうちの畑で、妖怪たちと戯れていた。モンスやマスコットではなく、妖怪に目が行くあたり、さすが陰陽師だよな。
デレッデレの顔で、うちの妖怪と自分の妖怪に囲まれている。
「しかし、この光景は凄いですね。夜の水臨樹と、お花畑ですか……。入場料取れると思いますよ?」
「はは、タゴサックもそんなこと言ってたけど、ここをお金稼ぎに使うのはなぁ……」
「まあ、入場の設定とか面倒臭そうですしね」
「それに、今はこのサイズだけど、もっと育ったらどうなるか分からん」
現状、水臨樹、池、ネモフィラの絨毯で、畑2面を使っている。だが、水臨樹がもっと大きくなったら、花畑は移動させる可能性もあった。その時になってみないと分からないけどね。
「じゃあ、今だけかもしれないんだ!」
「そうかもな」
「私も少し遊んでっていいですか?」
「ああ、勿論。好きにしていいぞ」
「やった! ロクロー! 私も混ぜて!」
フレンドに喜んでもらうと、作った甲斐があったって思えるね。




